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よろしくお願いします。
ノーワンが西へと飛び立つ飛行船団を前にセントソラリスへ何事か喚いていた頃。
「ありがとうおじいちゃん。これなら楽に直接城の上まで到達できるよ」
「......ヒロシ様のお願いとは言え、ドルツブルグを束ねる長がこうも人間に加担しても良いものか」
「何を今更言ってんのさ」
「まあ今更ではあるな。しかしヒロシ様の話を聞いていると知らぬ間に了解しておるワシがおるのじゃ。なんとも恐ろしい。まさかヒロシ様も言惑とか言うスキルを持っておるのではあるまいの?」
「それこそ何を言ってんのさ? でも皆の在り方も変わってきたよね? サリエルなんて鼻息荒くしちゃってさ。初めて見たよあんな彼」
「ワシもじゃ。だが我らが待ち焦がれたお方が現れたのじゃ。無理もない事やも知れぬなぁ」
「そうだね」
「そう言うお主もなラスよ。お前はレムスプリンガが終われば森に帰ってくるとばかり思っておった。あまり人間に興味も示さなかったのでな。それが今や掟を曲げてまであのお方の手伝いをしたいと言う」
「それは……」
「その姿を皆の前で示すと言う意味がわからぬお前ではあるまい? 必ずお役に立つのじゃぞ?」
「もちろんだよ。それでドルスカーナとリンクルアデルの方は?」
「既にユリアンがドスルカーナへ向かっておる。恐らくシュバルツ王の飛行船で乗り込んでくるだろう。すぐに行動を起こしていたとすればそろそろ着いていてもおかしくはないの」
「来るかな?」
「間違いなく来るであろうよ。彼の方の話ではノーワンという男は大陸を巻き込んでいるのだ。加えて今回の作戦に両国の姫君が参加しておる。お前を含めたら三人か。事態は極めて重大、アネスガルドが滅亡へ向かうのかどうかが決まるのだ」
「国家滅亡か......」
「彼の方はそのようなことを望む人では無い。それはお主もよく知っておろう? 彼の方を信じるのだ」
「わかってるよ。それでさ、ヒロシ様と話をしてたけど何を話してたの?」
「ん? ああ。彼の方の推測をワシが確認しただけの事じゃ。そこに在る者、在った者。そしてその在り方についてじゃ。ワシは何も言えなかった」
「その推測は?」
「彼の方は千里眼でも持っておるのかと感じたと言っておこう」
「流石ヒロシ様だね。空恐ろしく感じるよ」
「彼の方の畏怖をお前も感じておるのだろう。しかしお前が彼の方と共に歩みたいのであれば......」
「分かってるよ。僕は僕の在り方を示さねばならない」
「その通りじゃ」
「じゃ行ってくるね」
「ああ、気をつけてな。最後に両国の姫君よ、我らドルツブルグの人間で対応しても良いのだぞ? 危険を冒してまで本当に行くのか? 今ならまだ......」
「ノール長老、お気遣いありがとうございます。しかしヒロシ様の予想が当たっていれば王族が行く事が一番話が早く済むはずです。それにドルスカーナ最強のロイヤルジャックがついております」
「貴方に言われるとむず痒いわね。でもその通りよ、あの男一人の思い通りになんて絶対にさせないわ」
「ふむ。盾もあり矛もある。そして王家でなければ話も出来ぬか......彼の方が貴方達に託した事も理解はできるがの」
「そういう事ですわ」
「そういう事ね。私はどっちかと言うと矛だけど。盾は?」
「ふふん。私が守ってあげるわよ」
「あなたが? 何言ってるの? あなたは王家の説明役でしょう」
「まあ......ヒロシ様からはそう言われてはいるわね」
「しっかりしてよ」
「作戦が開始されれば王城への侵入は我らが食い止める。ただ内部にいると思われる敵に対しては対応が必要となろう。だがそれも言惑と言うスキルが解けるまでの辛抱じゃ」
「分かったわ」
「分かりましてよ」
「よろしい、それではくれぐれも無理はされぬよう」
三人を乗せた気球は王城裏側の森の中よりゆっくりと上昇を始めたのだった。
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「ようこそ参られたと言うべきかな? ここ数か月でよく話を聞くようになった。しかしお主たちはアポなしで来るのが通例なのか?」
「突然訪ねたにも拘らず快く面会をご承諾頂けて感謝申し上げます、ドルスカーナ、レオン・ダルタニアス国王陛下。そしてリンクルアデル、シュバルツ国王陛下」
「私はたまたまドルスカーナを訪ねておっただけではあるがな。しかし急を要する事態とは何の事でしょうかな?」
「それはシュバルツ陛下も存じ上げている事だと思っております」
「やれやれ、其方の国は勿体ぶって話すのが好きなようだな。我々に分かりやすく話してもらえたら助かるのだがな、ドルツブルグ内務卿ユリアン・アルミナス殿」
「アルミナスと言えば、ノール長老もアルミナスであったな? 其方は長老とどういう関係になるのだ?」
「ノールは私の父となります」
「ふむ、そうか。おっと済まぬ、話が逸れたな。では話を聞かせてもらおうか」
「はい。今両国の内務卿並びに精鋭がセントソラリスへ向かったと聞いております」
「流石、いや当然と言うべきか。知っておってもそこは今更驚かぬがな。それで?」
「そこに両国の姫君と商人の一団も含まれているとか?」
「まあそうだ。それがどうしたのだ? セントソラリスは少々難しい事態を抱えておってな、その手助けが出来ないか考えておるのだ」
「はい、承知しております。お話と言うはその中で起こった事でございます。事態は聊か思わぬ方向へと進んでいる様子。私は長老より事態の説明をするように言われ、こうして参上させて頂いた次第です」
「思わぬ事態とはなんだ?」
「うむ、聞きたいものだな」
「それではご説明させて頂きます」
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