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よろしくお願いします。
「貴様、まさか一人で決闘の相手をすると言う訳ではあるまいな?」
「ご心配なく、彼は我が国を代表する三大鬼のNo,3ですよ」
「三番目? 他の者を何故出さぬのだ? 貴様、我ら聖騎士団を舐めているのか!?」
「舐めてなどおりませんよ。ただ決闘などしている状態ではなくなっただけの事」
「どういう事だ?」
「さてね?」
「貴様、死ぬまでの時間を稼いだところで意味が無い事を教えてやる!」
その時だった。闘技場に兵士達が雪崩れ込んできたのだ。
「ノーワン卿、ここにおられましたか! ん? そこの者どもはまさか! おのれ、セントソラリスのクズどもが! いきなり攻め込んでくるとは恥を知れ! さあ、ノーワン卿、ここは我らに任せて早く安全な場所へ!」
なんだ? 何がどうなっている?
「いえ、ここは我らに任せてもらいましょう。コイツらはこの国を侵略しに来たセントソラリスの中枢です。あなた達では少々荷が重すぎるでしょう。あなたたちは街を襲う魔獣の対応をお願いします。なに、心配はいりません、ここには三大鬼のハスノールがいます。ここは何とかして直ぐに応援に駆け付けます」
「おお、何と言うお方だ。了解しました、ハスノール様がいればこんな奴ら......それでは私どもは民を非難させつつ引き続き魔獣の討伐を!」
「任せましたよ。セントソラリスへ報復するしばしの我慢です。魔獣を何とかして下さい。そして報復の準備を進めるのです」
「ははっ。この命に代えましても!」
そう言うとこちらへ攻め込もうとしていた兵士たちは踵を返し戻っていった。どうなってるんだ? 報復の準備だと? しかしいきなり攻め込んできたと言っていたな? そのやり取りはセリーヌ女王陛下も聞こえていたようだ。
「貴様、今の話はどういう事だ? 決闘を望んだのではないのか? いきなり攻め込んで来ただと? 何を寝ぼけたことを言っておるのだ?」
「寝ぼけてなどおりませんよ。私たちは驚愕しているのです。突然街に魔獣を解き放ち、民衆を襲い始めこの国に侵略戦争を仕掛けてきたセントソラリスにね」
「魔獣? 魔獣だと!? 貴様......まさか自国の街に魔獣を解き放ったと言うのか!」
「何を言っているのか? 解き放ったのはセントソラリスですよ。我々は被害者。突然侵略戦争を始め街に魔獣を解き放った外道に鉄槌を下すのです」
「何を抜かすか! 街が半壊しているのはそれが理由であったとは......しかも自国の民を魔獣に襲わせるとは、人の命を何だと思っておるのだ!」
「人の命? さあ、何だと言われましても困りますな。私意て言えば駒......いや糧ですかな? このくだらない世の中に私と言う秩序が出来る。それを成すための、そしてそれを続けていくためのね」
ノーワンは両手を拡げながら言う。
「聞こえませんかこの悲鳴が? 断末魔の叫び声が! クゥハッハッハ、ヒィッィヒッヒ、街は今、阿鼻叫喚の地獄絵図のようになっているでしょう。お前らが、お前らがやったんだ! この暴虐をな! クゥゥッフッフ」
「狂っておるのか貴様! そんなことは断じて許されぬ!」
「ええ、許されないでしょう。当然です。だから私は言ってやるのです。このような非道の行いをしたセントソラリスを許せないと。私がこれから皆を導いていくことを約束すると」
そしてノーワンはセリーヌ女王陛下を指さして言う。
「セントソラリス、エルモの玉座でね」
「神聖なる決闘を愚弄するどころか、自国の民を手にかけるなど......」
ノーワンはその言葉を聞いてか聞かずか話を続ける。
「聖騎士アリアナよ。どうだ人間は? お前が愛した人間は今魔獣に襲われているようだが? そしてお前の最も愛した人間ももうじき国ごと滅ぶ事になる」
「アリアナ、くだらない話を聞く必要はない!」
「クゥゥッフッフ、セリーヌ女王陛下。聖騎士アリアナはセントソラリスを守れますかな? この三大鬼であるハスノールを破る事が本当にできますかな? このような中途半端な化け物に」
「な、なにを」
「聞くなアリアナ!」
「所詮は悪あがき。人間など取るに足らない愚かな種族だと何故気づかない? まあ良い。お前のそのくだらない妄想も直ぐに終わる。見るが良い、空を。セントソラリス滅亡の幕開けだぁ!!」
「あああ、あれは!」
「クゥゥッフッフ、クゥゥッフッフ、お前は誰も守れない! セントソラリスも滅亡だ! クゥゥッフッフ、誰もがこの俺様の元にひれ伏すのだ!」
皆が見つめる空。
そこにはアネスガルドから飛び立った軍船が何隻も浮かんでいたのだった。飛行船は全速力で西の空へとその足を速める。狙いはセントソラリスであることは明白であった。報復と言う名のもとにアネスガルドは堂々と攻撃を仕掛けるつもりなのだ。
「許されないと言ったな? 一体誰の許しが必要と言うのだ!? クゥゥッフッフ、ああ......そうだ、そうだな、俺が許してやる。お前の首を晒した後でセントソラリスの人間に許しを与えてやるわ! 全員奴隷に堕とした後でなぁ!!」
「黙れ! アリアナこの者を斬れ!」
「自国をブリザードで滅亡の危機にさらして今度はアネスガルドの民を斬るか! なるほど、化け物のやる事は想像もつかぬな! さあ正体を現せ!」
「ぐっ、ぐうう」
「お前は混乱をもたらしただけだ! 何がパラディンか! お前は国を滅ぼそうとした大罪人だ! 大罪人の化け物だ! クゥゥッフッフ、化け物! 化け物だ!」
「アリアナさん! 奴の言葉を聞いてはいけない! ノーワン、お前これが目的か! はなから決闘などせず女王陛下と聖騎士を呼び出しその間にセントソラリスへ攻め込むつもりだったのか!?」
「ふん、またお前か。ただの商人如きが何故この場にいるのか......しかしまあそんなこと最早どうでも良い事だ。ハスノール、今であればパラディンなど容易く討てるであろうよ。さっさと始末しろ」
「ぐ、ぐぐ、舐めるなよ? 貴様如き......クッ、クァアア」
「クゥゥッフッフ、もはや我慢することなどない。お前の欲望を開放しろ! できぬか? 出来ぬよなぁ? その姿を見られたくはないよなぁ? んん? やれハスノール!」
「ハッ!」
ハスノールと呼ばれた男は一気にアリアナへと肉薄し、そのままアリアナを蹴り飛ばす。
「グアアァ!」
「ふん、これが聖騎士アリアナの最後とはな。だがまあ、お前の首は俺の戦果には悪くない。ハッハッハ、そのまま這い蹲って死んで行け!」
そう言ってハスノールが剣に手をかけたところで......今度はハスノールが何者かに蹴り飛ばされた。
「グオッ! だ、誰だ!?」
「もう見てらんないね。もうこれは決闘でも何でもないんだろ? じゃあ君の相手は僕がしてあげるよ」
「はっ、貴様のようなガキが俺様の相手をしてやるだと? 笑わせるなよ? 殺すぞガキがぁ!」
「調子の悪い女性を足蹴にするとは、全く騎士道の風上にも置けない外道だね。お前のような人間は久しぶりに見たよ。だがそれでこそ心置きなくこの剣を振るえるというものだ」
「クソガキ......死にてぇらしいな?」
ハスノールは剣を抜き彼に向き直る。だがそこに立つ小さな男は特にそれに動じる素振りも見せず、ただ何事か呟いた。
『アーマメント』
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