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よろしくお願いします。
次の日の朝早く、俺はラースを連れて近くの森へとやってきた。そう、ノール長老に会うためだ。今日の夜にはアネスガルドへと向かわなくてはならない。
「仕方がありませんな。しかし決闘は両国で決まったことでございましょう? 放っておけばよいのでは?」
「またそんなことを言う」
「100年待つとは言いましたが、こうも他国ばかりに気を取られては少々面白くありませんな。ドルツブルグの事ももう少しですな......」
「まだ1年も経ってないじゃん......」
「貴方様はのらりくらりと回答を先送りしそうな気がしますからな。聞けば両国の姫君から求愛されておりながら、その返事もしていないとか?」
「い、今はその話は良いだろう?」
「ドルツブルグの戦乙女についてはどうするおつもりですかな?」
「戦乙女?」
「ちょちょちょ、ちょっとおじいちゃん、その話は今は良いんだよ。それよりヒロシ様の話の方を......」
「なんだ、言っておらぬのか? 言ったと話しておったではないか? ん? 本人の居ないところで宣言した? 何をやっておるのか......」
「話が見えないんだが......とにかくそういう事で良いだろうか?」
「仕方ありませんな。ただ何と言いますか上手く使われると言うのはですな......」
「分かってるよ。好意に対して誠意を見せないという事は絶対にしない。当然100年も待たすつもりもない。両国の姫についてもな。戦乙女ってのは分からないが」
「分かりました。今はそれで充分という事ですな。なあに、待つことは慣れておりますのでな」
「直ぐにそんな言い方をする......」
「ホッホッホ、ヒロシ様は一筋縄ではいきませんからな」
「全く」
「あ。おじいちゃん、例の事だけど......」
「ヒロシ様もおる事だしな......お主がどうしようもないと命に危険を感じた時に一度だけ許可する。しかし分かっておると思うが......」
「分かってるよ、ありがと!」
「何の話?」
「こっちの話だから気にしなくても大丈夫だよ」
「そうなの? だったらいいけどさ」
「ヒロシ様、言う通りには致しますが明日の朝と言うのは流石に難しいかも知れません。多少のずれが起こる事はご承知置き下さい。またある程度貴方様の秘密に触れる事になるやもしれませんが」
「そこは長老を信じているから大丈夫さ。きっと上手くいく」
「またその様な事を、ご勘弁頂きたいですな。これではどっちがズルいか分かりませぬ」
「ゴメン。でも頼んだよ」
「お任せ下さい」
ノール長老は一度深く礼をするとお供の者と森へと消えて行った。ソニアとサティには100年あるから大丈夫とか言ったけど、そう言う訳にはいかないことは承知しているつもりだ。この問題が解決したら長老とはもう少し時間をかけて話をしようと思う。
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城へ戻るとノーワンからの事情聴取が進んでいるとの事。その内容を聞いていくとアネスガルドの変貌ぶりが明らかになってきた。一方で俺は少し分からなくなってきたと言っても良いだろう。
話の内容はこうだ。ノーワンは昔からアネスガルドに仕えてきていた人間ではない。数年前にどこからか城へとやってきたかと思えば当時の王に気に入られ瞬く間に内務卿として頭角を表していったと言う。
そんな事が現実に可能なのか? 自分で言うのも何だが、俺のこの世界での経歴も相当おかしいだろうとは思う。しかし男爵家をはじめある程度の手順は踏んできており、またそれなりの成果も出しているとは思っている。
だがノーワンの場合はいきなり現れたと思ったらすぐ内務卿だ。もうアレだ、今更だが言惑のスキルしかないだろう。そしてジルコニア大陸へと勢力を拡大しようとするも魔族の反撃を受け止む無く撤退。
魔族が数名アネスガルドに現れ報復処置を行い停戦、と言うかそれ以降ジルコニア大陸から魔族がやってくる事はなくなったそうだ。魔族の常識は知らないがそれで溜飲を下げたと言う事だろうか?
しかし話を聞くに余計な事をしてくれたとしか言いようが無い。よく他の国に被害が及んでいなかったものだ。ジルコニア大陸側とは国交を開いている国はないらしい。話が進まなくなるので他の国についての話はここでは一旦置いておくが。
バドリーの話ではジルコニア大陸へ手を出す前に既に前王は崩御していたらしい。ここまで来たら悪い方にしか考えが向かないが、ノーワンは当時の王を亡き者としその実権を握るや様々な制度を作り独裁を進めたことになるのではないだろうか?
兎に角、報復の被害を受けたアネスガルドは国力の増強と領地拡大を狙いセントソラリスに目をつけた。そこへ上手い具合にバドリーから会談、つまり援助の要請を受けた事が始まりのようだ。
バドリーが都度アネスガルドに赴くには時間が掛かると言う事から会談は国境沿いで行われていたとの事。バドリー自体はアネスガルドに入国した事はないらしいな。
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