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「セリジアホールデムか......良かろう。だが宣戦布告は取り下げぬ。ここにいる第三国の者達が証人となる。忘れるなノーワン内務卿よ、決着がつく前に王家が墜ちている事があればセントソラリスは容赦せぬ」
「なにを抜かすか......」
「もし万が一、王家がお前と同じ考えであればそれはそれで良い。この度のケジメを真っ向からつけさせてもらうだけの話だ」
ノーワンは女王陛下を睨みつけている。そうだろう、今陛下は一つずつノーワンの逃げ道を言葉に出して潰していっているのだからな。
「つまり二日後、セリジアホールデムに勝たねばお前は破滅だ。世界がそれを認知するであろう」
「勝てば問題ないだけの話だ。決闘は代表者三名により決着する形で良いな?」
「もちろんだ。約定に従わねば意味が無かろう?」
「ふん、アネスガルドと事を構えるなどと後悔する事が無ければ良いがな」
「無駄口を叩くな。話は終わりだ、戻るが良いアネスガルドへ。二日後に対峙するその時まで震えて眠るが良い」
アネスガルドの者達は宣戦布告とセリジアホールデムの約定に守られ自国へと戻っていった。セントソラリスは即日各地に向けアネスガルドとの状況を告知した。
つまり二日後に両国は命運をかけた戦いにその身を置く事が正式に決定したのだ。
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会談の後、俺たちは談話室へと場を移し陛下と話を続けた。セントソラリスがアネスガルドとの約定を決めた以上、俺たちの役目は基本終わりとなったに等しい。
後は両国間でどのように始末をつけるのかと言う流れへと変わっていくだろう。今からの話は懸案として残っているものはいくつかあるがそれを陛下がどのように判断するのか、と言うのに尽きる。
「ヒロシよ、今回の件では本当に世話になった」
「いえ、陛下。まだ全ての問題が片付いた訳ではございません」
「確かにそうだ。しかしお主がいなければ余はあの首飾りによってセントソラリスの統治をアネスガルドへと委ねていたかも知れぬのだ。何と恐ろしい事か」
「あの首飾りと、恐らくは要所でノーワンが暗示を掛けていたのでしょう。一瞬とは言えアリアナさんやアッガスの足を止めるほどの強制力を持った力だ。あの言惑と言うスキルは中々厄介だと思います」
「すると向こうの王家も......ノーワンの手に落ちている可能性は高いであろうな」
「私としては間違いないかと思います」
「両国の内務卿の意見も聞きたいものだな。聞かせてはくれぬだろうか?」
そうして陛下はゴードンさんとロッテンさんの方を見た。ゴードンさんとロッテンさんは目を合わせるとゴードンさんが話を始めた。当然二人で話はしていただろうから、説明役をロッテンさんが譲った格好みたいだな。
「陛下。アネスガルドの王家も心配ではありますが、セントソラリスにおいても考える事はいくつかございますな」
「お主の言う通りだ。だがお主の口から聞かせて欲しいものだな」
「まずは大本命である決闘についてです。失礼ながら聖騎士団の団長であるアリアナ様は少々その身に抱えている問題があると? その状態で決闘を行えるのでしょうか?」
「......尤もな疑問だな」
「先程の噂、つまりジルコニア大陸の真偽はともかくとしても、アネスガルドの軍備増強の話は噂ではなく事実です。その部隊を率いる三大鬼と呼ばれる剛の者......セントソラリスに対抗できる者がいるのかどうか? 三大鬼はアッガスやサティと同じく他国にも名が轟くほど有名だ」
ゴードンは立てていた指をもう一本増やして話を続ける。
「二つ目。申し上げにくい事ですがノーワン卿も言っていた事です。セントソラリスはブリザードの脅威は消えはしたが、今後国を盛り立てていく術がまだ整っていない。セントソラリスの内需が潤っていないのはアネスガルドのせいではなく、この国が抱えている問題なのです」
「その通りだ」
「正直な私の感想を申し上げても?」
「構わぬ」
「アネスガルドの王家がノーワン卿の手に落ちている事は恐らく間違いないでしょう。ならあの場でノーワン卿に断罪を下し、その首をもってアネスガルドの王家の前へ晒しても良かったのでは? 証拠もあるのですから」
俺もそう思う。アネスガルドとの今後の関係を考えての事だと思いはしたがな。
「因みに......語弊を恐れずに言えばあの時点なら仮にアッガスが戦闘を始めても問題なかった。彼は自分でアネスガルドから先制攻撃を受けた、と無理やりながらドルスカーナ側の理由付けまでしておりましたからな。おまけに部屋の外にはサティやウインダムもいた事を思えば、むしろ一網打尽のチャンスだったと言っても良い」
「お主の言いたい事はよく分かる。しかし先に述べた通り、奸計の中とは言えアネスガルドからの援助を受けたのは事実。そしてその奸計を企てた者がセントソラリス側にある可能性も捨てきれぬ中でその様な事はできぬ」
「そうですか、ドルスカーナであれば恐らくは......」
と言いながら、ゴードンさんはロッテンさんをチラッと見た。
「あ、ゴードン卿。それはダルタニアス陛下の事を言っているのですね? また言いましたね?」
「いや、その、違うのだ。そういうつもりではないのだ。済まぬ、この通り謝罪する。この通りだ」
「まあよろしいでしょう。コホン。仮に、仮にですよ? ドルスカーナが同じ目にあったとしましょう。言いたくはないですが、まあ今回はゴードン卿の想像通りになるかと思います」
「つまりは烈火の如く怒り狂い、あの場で皆殺し、そのままアネスガルドを徹底的に蹂躙、辺り一面焼野原するという事だな?」
「そ、そんな恐ろしい事を考えていたのですか? 流石にそこまでは......」
「いや、だからそんなつもりはないのだ。何と言うか......謝罪させてくれ」
「しかし実際のところダルタニアス陛下は許さないでしょう。なので可能性としては十分考えられる所が怖くもありますが」
ゴードン卿も中々逞しい想像力をもっているな。だが俺も思う。ダルタニアス王ならやりかねんと。そしてアッガスは間違いなくその先陣を切るだろうな。暴虐の王の二つ名は伊達ではないはずだ。
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