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よろしくお願いします。
「まず、言葉を紡ぐ度に魅了系のスキルを使わないで頂きたい。それは言惑というのですか? 初めて聞くスキルだ」
「何を言っているのでしょうか?」
「そもそもおかしいと思ってたんだよね。契約書に偽装の魔法がかかっていたのはすぐに分かった。だけどなぜ誰もそれを確認しないのか。普通契約の前にそう言った不正が無いか調べるでしょう? たとえ魔封をするにしてもだ」
「それはセントソラリスの問題でしょう?」
「それなんだよな。全てはセントソラリスが悪い、勘違いしているというように仕向けてるんだ。あなたは中々の策士のようだ。しかし根本的なところがおかしいのですよ。少し自分のスキルに頼りすぎじゃないのかな? 全て言惑のスキルでどうにかしようとしても駄目だぜ」
「何の事でしょうか?」
「悪いけどそれ、俺には効いてないから」
「!?」
「ハッキリ言ってこの契約書は誰が書いたのかってところだよ。書面はアネスガルドが準備したのだろう? それでその上から偽装魔法をかけた。それがバレたからそれはバドリーがした事ってのは筋が通らない。だが皆それで納得してるんだよな。変な話だよ。」
ノーワンは俺から目を離さない。
「そうだろう? つまりは貴方が書いたこの碌でもない契約書に貴方かバドリーが偽装魔法をかけたんだ。アネスガルドが記した契約書に不備がないかをセントソラリスが確認し同意のもとでサインが行われる。その手順を踏んでいる以上、言い逃れが出来るはずもない。契約書を作成したのはアネスガルドだ」
「貴様......」
「この斜線が入った契約書が証拠だ。貴方はこの国に奸計をもって侵略しようとしたのだ」
「貴様! そのような戯言を抜かしてただで済むと思っているのか?! アネスガルドは無償で援助を行うと今私が認めたではないか! それを両国と関係のない貴様のような田舎商人に文句を言われる筋合いなどないわ!」
ノーワンは俺を指さして叫んだ。
「だから俺には効かないって言ってんだろう? 無償は後付け、都合の良い貴方の言い訳に過ぎない。しかしそれが正当性をもってしまうとは。言惑のスキルか......単純だが恐ろしいスキルがあったものだ」
「ドルスカーナとリンクルアデルはアネスガルドと事を構えても良いという事か! 田舎者が愚弄しおって! 発言を撤回しない場合には戦争になるぞ!」
「それもおかしいんだよな」
「なに?」
「本当にアネスガルド王家はこの状況を知っているのか?」
「なんだと?」
「いや、そのままの意味だよ。自分で言ってたじゃないか、王妃様は重篤で執務が出来る状態ではない。そして王はまだ若く執務などできないと。じゃあ誰がこの案件を知っているんだ?」
「それは......」
「貴方、もういいか。お前が勝手にやってる事なんじゃないのか? 逆に聞きたいが、戦争などと言っているがそれを王家は許すのか? 明らかに非が自国にあるというのに? いや、許すざるを得ないのか? そのお前の持つスキルの前には」
そこで俺は陛下を見て言った。
「私の考えとしてはノーワン内務卿はここで拘束するべきでしょう。証拠は今言った通りです。更に彼によって王家が乱されている可能性が考えられます。更にそれは民にも及んでいるかも知れません。彼を捕らえ王妃に至急お会いになるべきだと具申致します」
「言惑のスキルだと......今この瞬間にも私は惑わされているというのか?」
「彼と話すと、そうですね暗示にかかると言えばいいのでしょうか?」
「とことんコケにしてくれたものだ。アリアナ、その者を拘束せよ!」
「はっ」
アリアナが一歩足を踏み出した時だった。ノーワンはアリアナを手で制し叫んだ。
「止まれ!」
「なっ」
「このクソ共が! 我を誰だと思っているのだ! アネスガルドは貴様らを絶対に許さぬ」
すごいな、言惑のスキルとは聖騎士の団長を足止めする事が出来るのか。想像以上に厄介なスキルだ。これはアネスガルドは既にコイツの手に落ちていると考えても良いかも知れん。
「何を言ってんだよ。許さないのはセントソラリスの方だろう? お前は自分のスキルに頼りすぎて話す内容がイチイチおかしいんだよ。だがお前のスキルは想像以上に厄介なようだ。悪いが黙らさせてもらうぞ」
「貴様、本当に効いていないのか? お前は一体何者なのだ、ただの田舎商人ではないな!?」
「そうだな。ただの商店ではなく、少し大きい商店の社長だ。田舎者かどうかは知らんがな。ちなみに魔封は普通に使ってるからな。アネスガルドと交易が無くて助かったよ」
「このクソ商人が......商人の、たかが商人の分際で......クソがぁ」
「本性が出始めたか? まあ予想はしていたがな」
俺が立ち上がると、ノーワンの周りに控えていた護衛が一斉に前に歩み出てきた。場は一瞬触発の状況になりつつある。
「貴様は他国の商人だろう? 本来この話には関係ないはずだ。口をはさむな部外者が!」
「ここまできて部外者はないだろう?」
「いや、部外者だ。アネスガルドは他国の介入を認めない」
「もう、あれだな。お前の言葉がアネスガルドの言葉になってるんだな。お前の発言が王家に認めてられているのか知りたいものだ」
「やかましい!」
しかし、今のノーワンの言葉には一理ある。本来俺は二国の話にそれほど介入できる立場にないのだ。あくまでセントソラリス側に立っているだけだ。問題は二国間で解決するのが筋というものかも知れない。しかし、このままノーワンを戻すと余計に問題は難しくなるだろう。どうしたものか。
と考えているとドアが開いて男が入ってきた。
「ヒロシよ、そろそろ俺の出番じゃないのか?」
「アッガス......」
振り返るとアッガスがロイヤルジャックを連れて入ってきた。
「ん? 誰だお前らは! 獣人か? 誰に断って部屋に入ってきたのだ!」
「そりゃ、セントソラリスの人に断ってに決まっているだろう? お前の後ろの護衛が俺の護衛対象に危害を加えるかも知れないのでな。入室させて頂いた訳だ」
「ふん、獣人如きが偉そうに。下等動物は小屋でエサでも食っておれ」
「あん? この野郎、立場ある人間が獣人を侮辱するか。その意味は分かっているんだろうな?」
そう言いながらアッガスは俺の方へと歩を進める。顔がすっかり狂暴になっちまってるな。ノーワンはここで殺されてしまうかもしれん。その時だった。
「止まれ!」
「ん? 何だこれは?」
ノーワンは言惑のスキルをアッガスにも使ったようだ。
「ああ、これが先程から聞こえていた言惑のスキルと言うやつか。という事は、お前は俺に攻撃を仕掛けたって事だな? お前はロイヤルジャックのアッガスに先制攻撃を仕掛けたって事だな?!」
「ロイヤルジャックのアッガスだと! ま、まさか暴虐の王か!? な、何故こんな所に? しかも護衛対象がこの商人だと!?」
言いながらアッガスの気が大きく膨らんでくるのが分かる。おい、お前ここで獣人化する気じゃないだろうな?
「ドルスカーナを侮辱した上に先制攻撃を仕掛けるって事がどういう事かその身に刻んでやる」
話が大きくなってるぞ。
「貴様に首の骨が折れる音を聞かせてやるわ! ハアアァッ!」
言ってることが無茶苦茶だ、おいやめろ。と思いながらも実はこっちの方が話が早く済みそうかも、と一瞬考えてしまった。でもやはりセントソラリスの手前、ここはまず女王陛下に......と思った時だった。
「待たれよ」
言葉を発したのは女王陛下であった。
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