297 アネスガルドとの会談
よろしくお願いします。
どうやらアネスガルドの人間が到着しているらしい。俺達とは特に挨拶をする場も設けられることはない。それが普通ではあるので、とやかく言うつもりも思うところもないが。
談話室に運ばれてきた昼食を食べながら俺たちは最終的な打ち合わせを行っていた。後一時間もすれば会談が始まる。そこからが本番だ。皆が緊張した面持ちの中ではあるが、否が応でも時間は過ぎてゆく。
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そして会談は始まった。
会談の場にはアネスガルドから来たと思われる人間と護衛が複数人テーブルの向こう側で控えている。その反対側にはセントソラリスの女王と内務卿、そして数名の関係者。そこには王女も含まれている。
俺達と言えば会談のテーブルから少し外れたところで着席させられている。同じテーブルにすら付かせてもらえないのだがこれも仕方ないだろう。ただの商人という事だからな。
ちなみに俺たちサイドはレイナ、そしてクロだけだ。両内務卿には今回は遠慮してもらった。とは言え、部屋の外で皆と待機はしてもらっているがな。待機してもらっている理由は恐らく後で明らかになるだろう。
まずはこの会談の場に出させてもらえた事を感謝するべきだろう。王女がバドリー卿に他国からの賓客をぞんざいに扱うべきではないと強力に求めてくれた。協力を申し出てくれた両国に対して義を重んじるべきだと。
当然この席に着くまでにバドリー卿から嫌味を言われた訳だがそんな事は気にしない。せいぜい立派な報告書を仕上げる事ですな、と言われた程度だ。いや、気にしないと言ったがやはり気分が良いものではないな。
バドリー卿は席を立つと挨拶を始めた。
「それでは、今回の援助に対しての対応方法について話を始めたいと思います。アネスガルドの皆様においてはようこそお越し下さいました。セントソラリスを代表してお礼申し上げます」
そして彼はこちらに少し目を向けると続ける。
「本来ここにいるべきではない者達が混じっておりますが......一応紹介をさせて頂きましょう。こちらはリンクルアデルで商店を営んでいるというヒロシという者です」
「初めまして、ヒロシ・ロングフォードと申します。この度は同席を許して頂き大変感謝しております。今回の件については本国の意向もあり訪問させて頂いた訳ですが......」
「もう宜しいでしょう。それよりこちらのアネスガルドの方々の紹介に移らせて頂きましょう」
最後まで言わせろや。と心で毒付きながらも向こうの紹介を待つ。
「こちらアネスガルドの内務卿で在らせられますノーワン・サイード様でございます。本日は前回の契約についてセントソラリスからの要望を聞き入れて頂き、契約の更新に来て頂けました。大変有り難い事です」
そしてバドリーはノーワンに対して一礼すると言った。
「ノーワン卿、何かお話すべき事はございますでしょうか?」
「バドリー卿、特にはない。早速進めさせて頂くとしよう。前回の契約自体が受け止めてもらえないというのであれば仕方がない。まあ本国の要求も聊か強い言葉を使っておったゆえな、許されよ。それで今回は改めて契約改訂を決断したと言う訳だ」
「セントソラリスにとっても大変助かります」
ふむ。一見アネスガルドはセントソラリスの事情を考えてくれているように見える。これが本当に真意であればと思うがな。さて、これからどうなるか?
「それでは、早速契約の話に移りたいと思いますが如何ですかな?」
「もちろん問題ございません」
そう言うとノーワンは隣に座る男へ軽く合図を送る。男は鞄から契約書取り出すとそれをバドリーへと渡した。彼はそれを受け取るとバドリーに差し出しながら話し始めた。
「内容をご確認下さい。セントソラリスにとっては問題ない条件となっているかと思います。前回同様二枚一組です。一枚は契約内容、その次に両国のサインを入れるようになっております。これも前回同様ですが、それを二組用意しておりますので、その両方にサインを頂ければ完了となります」
「こ、これは」
バドリーはしばらく契約書を呼んでいたかと思うと声を上げた。
「これでは、いや、本国としては大変ありがたいのですが......つまり全て無償で良いという事ですかな? もしそうであれば......女王陛下、これを、これをご覧下さい!」
バドリーはやや興奮気味にそう捲し立てると契約書を女王陛下のもとへと運んだ。
「陛下、アネスガルドは今回の援助について全て無償で対応するとしております。前回の契約は破棄されるという事ですぞ!」
「そうか、それは有り難い。礼を申さねばならぬな」
するとテーブルの向こうからノーワンが話しかけた。
「女王陛下、礼には及びません。全て無償での支給です。ですので契約というよりは受取書と言っても良いものかも知れませぬな」
「確かにどこにも返還に関する内容はないようだな。有り難い事だ」
「こちらとしても両国が歩み寄れる良い機会と捉えているのです。二組ともアネスガルドは既に私の方がサインをしております。お妃様は体調を崩されておりますので......この話が纏まればきっと喜んでくれることでしょう」
「キャサリン妃殿下の具合はどうなのだ? サインも出来ぬのか?」
「はい、正直なところ病状は一向に良くなる気配もなく......しかしこれできっと元気が出ることででしょう。それにまだアレックス王が健在です。きっとキャサリン様も元気になりまたアレックス王と再び......」
そこでノーワンは言葉を切って、唇を噛み締めた。
「すまぬ、余計な事を聞いた。キャサリン妃殿下にはくれぐれもご自愛頂くようお伝えしてくれ」
「は、ありがたきお言葉ですセリーヌ女王陛下」
「うむ、それでは......そうだな、折角ドルスカーナからきた商人が同席しているのだ。彼にも見せてやれ」
「は? 今何と?」
この言葉はバドリーも意外だったようだ。彼は驚いたように女王陛下の方へと向き直った。
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