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27

サティに変化が。

 その後、俺はじいさんとセバスさんと今後の連携について話をした。有事の際には手際よく動いてくれる事に安心したよ。俺の仮説が正しければそう遠くない間に全ての心配ごとは消えさるだろう。


 さ、そういう訳で明日の引越しに備えて準備をしなくちゃなっと思ったところで何もモノがない事に気付いた俺だった。辛いぜ。


 時間が出来たので、俺は部屋でボーッとしている。ここにきてまだ数日なのに何だこの忙しさは。とか思ってたらクロードが入ってきた。


「失礼致します、ヒロシ様」


「お前どうしちゃったの?」


「いえ、改めてこれまでの非礼をお詫び致します。これからは誠心誠意頑張りますのでよろしくお願い致します」


「うん、まぁそれはありがたいけどさ」


「ところで、サティさんとの模擬戦は如何でしたでしょうか?」


「ん? ああ、あぁぁア"ァァァァァ!」


「い、いかがなされましたか?!」


「忘れとったぁぁぁぁ」


 俺は部屋を飛び出して裏庭へと走っていった。


『信じても良いのですよね? ヒロシ様?』


 クロードは走り去るヒロシの後ろ姿を見て呟いた。




-------------------




「遅いわね」


 サティはご立腹だった。すぐ来るのかと思えば待てど暮らせどちっとも来ない。時間を決めてなかったこちらも悪いがあの流れからするとすぐ来るだろうと思うじゃない。あの飄々とした余裕の態度。


 あの狂犬のハゲは確かに強いと思ったが、それでも一発で吹っ飛ばされたんじゃ話にならないと思うけど。にも関わらずあの余裕。掴み所のない男だ。とか考えていると向こうから走ってくるヒロシを見つけた。うん? 一旦花壇の方へ入っていったと思ったら、反対側から歩いて出てきてわ。


「すまない、待たせたな」


 余裕ぶってるが肩で息をしている。走ってたところを見られたとか思わないのかしら?


「私も今来たところよ」


「なんだお前も忘れて...」


「何よ?」


「いや、何でもない。では、早速始めようか」


「あなた、武器持ってないじゃない」


「武器? あぁ、別に必要無いだろう(組手程度で良いだろうし)」


「くっ、随分と舐められたものね。私は本気でいかせてもらうわ。その調子のいい口が二度ときけないようにしてあげる」


 そう言うとサティは腰から剣を引き抜いた。


 おい、待て。コイツは一体何を考えてるんだ。模擬戦とは言ったが実戦とは言ってない。真剣でするわけないだろう。使うにせよせいぜい木刀とかじゃないのか。この世界のスタンダードが分からんぞ。


「殺しはしないけど、腕の1本や2本は覚悟することね!」


 そんな物騒なモン振りあげて腕の1本や2本だと? 殺すのと同義ではないのか? こっちは丸腰だぞ!


「ちょ、ちょっと待っ」


「行くぞ!」


 そう言うとサティは飛びかかってきた。




-------------------




「では、私はサティさんの所へ稽古をつけてもらいに行って来ます」


「あ、あぁ。頑張れよ」


 クロちゃんは剣を片手に部屋を出て行った。だから何で稽古をするのに剣を持って行くんだよ。こっちの世界では稽古イコール真剣勝負なのか? 実戦的すぎるだろう。命がいくつあっても足りんわ!


 それにしてもアレは恐ろしい女だ。

 

 クロちゃんを行かして良かったのだろうか? ハゲ(狂犬(ハウンドドッグ))の前にまずサティに殺されてしまうかも知れない。でも、筋は悪くなかったからな。あの殺意は俺だけに向けられたと思うようにしよう。そうしよう。しかし剣を捧げるとかどういう意味だ? とか思いながら俺はベッドに寝転んだ。


 そのベッド脇にはサティの剣が置かれていた。



------------



「サティさん。今日からよろしくお願いします」


「えぇ、こちらこそよろしくね」


 サティさんはクールビューティーな感じがするけど、非常に親切で優しく物腰も柔らかい。狐獣人はプライドが高い人が多いけど、サティさんはそれを考えても素晴らしい獣人だと思う。


 僕はサティさんと向き合い身体の使い方をはじめ基本的な所から学ぶ事にした。はじめから真剣で稽古するのは危ないそうだ。僕は自分で体を鍛えていた時は素振りはしていたけど体の使い方とかまで意識が回らなかった。流石サティさん、ありがとう。僕は未熟者だと思い知った。これからはもっと努力して心も体も強くならないといけない。


 休憩の合間に気になっていた事を聞くことにした。ヒロシ様の事だ。元々の約束はあるにせよ、ヒロシ様はサティさんを、サティさんは僕を鍛えてくれる事になった。その時にサティさんは少なからずプライドを傷つけられたと思う。


 誰でもそうであると思うけど特に獣人は誇りやプライドを大事にする。それを模擬戦と言う形を経て今に至るわけだが、僕自身ヒロシさんの実力は気になるところだ。


「あの、サティさん。聞いていいのか分かりませんが、さっきのヒロシさんとの模擬戦はどうだったんですか? いえ、言い難かったら良いんですけど」


「別に構わないわ。あれ程の実力の違いを見せつけられたらね。完敗よ。完敗過ぎて今は別に悔しくもなんともないわ。あれは一言で言うと......化け物よ」


「え?! そ、それほどまでなんですか?」


「えぇ。普段は実力を隠しているのか知らないけど......ちょっと見たことも聞いたこともないレベルだったわ。もちろん私自身の実力が足りてないから私レベルで、ってことだけどね」


「そうですか。しかしアルガスの盾、いや大陸屈指の上位ランカーのレベルが足りてないってことは無いと思うんですけど」


 その時のサティさんは僕にはどう見えたんだろう? 少し寂しげでそれでいて満足そうで。サティさんはアルガスの盾において間違いなく強者だった。その自信(プライド)が砕かれたとき、彼女はどう感じたんだろう。僕は人生経験の少なさなのかサティさんの表情を上手く読み取れなかった。


「あなた、ヒロくゴホン、ヒロシさんの執事になるんでしょう?」


「はい」


「協力して」


「はい、それは構いませんが......一体何を?」


「私は彼と(つがい)になるわ」


「ファ?」


 変な声が出た。なんだって?


「あの時は余りに悔しくて最後に獣人化したの。それでも手も足も出なくて、最後に剣を捧げたわ。あなたも獣人ならこの意味はわかるでしょう? 彼は笑って受け取ってくれたわ」


「はい、意味は勿論分かります。しかし獣人化しても手も足も出ないって本当ですか?」


「本当よ。それでも私の剣は彼にかすりもしなかったわ。彼の子を産めば狐族の将来は安泰よ。もちろん番なんだから御主人様には尽くすし、心から尽くせるわ。今まで大した実力もないのに発情するクソみたいなオスばかりで恋だの愛だのには全く興味がなかったけどね。恥ずかしいけど、一瞬で落とされたわ」


 すごいな、ヒロシ様。獣人相手に真っ向勝負で惚れさすなんて。相手は獣人でも上から数えた方が早いくらいプライドの高い狐族だ。狼族も高いけどね。しかも獣人化までして完封とか、正直信じられません。


「でも、ヒロシ様はこっちの世界の常識に疎いですから、剣を捧げる意味を理解しているでしょうか?」


「問題はそこよ。私もそれ位わかってるし無理強いはする気もないわ。だからあなたに助力を頼んでるんじゃない。嫌なの?」


 怖い。さりげなく腰の剣に手を掛けるのを止めて下さい。


「もちろん協力はします。ヒロシ様の幸せのためになるのであれば。しかし後ろめたい事は嫌ですよ?」


「もちろんよ。本当の意味で振り向いてくれないと意味がないわ」


 その言葉を聞いて僕はサティさんは真っ直ぐな人なんだなと改めて好感を持った。






お読み頂きありがとうございます。

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