295
よろしくお願いします。
夜の帳に紛れ、各人がセリーヌ女王陛下の待つ部屋へと入っていく。皆が揃ったことを確認し俺は先程までの概要を皆に話した。
ある程度の予想を先に話をしていたとは言え、皆複雑な表情を浮かべている。しかし、この場で一番驚いていたのはセリーヌ女王陛下であった。
「なんと、お主たちは両国の内務卿であったのか。そして其方はリンクルアデルの第一王女だと? そしてこちらはドルスカーナの王女とは」
「「このような形でご挨拶をさせて頂くご無礼をお許しください」」
二人は王族の畏怖をバシバシ出して挨拶をしている。今、女王陛下の周りは王族だらけだ。この場所だけ光ってたりしないよな? 畏怖が駄々洩れで眩しいぜ。
早々に各々の自己紹介も終わり、俺たちは早速本題に入ることにした。まずはここに来るに至った経緯も含め全て女王陛下へと話を通した。
「つまり、両国王は全てヒロシに任せるとそういったという事か?」
「ええ、お母さま。間違いありませんわ」
「両内務卿として、また両王女もその理解で間違いないのか?」
「そうですな」
ゴードンさんが代表して答えた。
「おかしくないか? ヒロシは言ってはなんだが、伯爵家の息子だ。儀礼爵位はあるだろうが、実際は......ただの商人ではないか!? それを......その者に全て任すと言ったのか?」
「その通りですね」
今度はロッテンさんが答えた。
「すまぬが意味が分からぬ。それではヒロシが決めたことを両内務卿は従うというのか? ヒロシが信用に足る人物であるという事は分かるが......」
「もちろん話は聞きますが、概ねその理解で間違いありません」
「ドルスカーナも同じです。一言申し添えますと、ダルタニアス王は彼なら絶対に力になれると言う信頼の現れです」
「あのダルタニアス王がそこまで信頼を寄せるというのか? この男に? この男は一体何なのだ?」
「リンクルアデルも同じですな。そしてこちらにおられるアンジェリーナ王女はヒロシ・ロングフォードとの婚姻を望んでおり、王家もそれに対して反対をしていない」
「ドルスカーナではボニータ王女が同じ状況ですね」
「なんだ......と? ヒロシ、お前は一体何者なのだ?」
「あの......ゴードンさん、ロッテンさん。そ、その話はまた今度にしてくれませんか?」
「む? そうだな、まずは明日の事だな」
「お願いしますよ......」
「しかし、ヒロシよ。其方はこの状況を予想し、その上で両内務卿や王女を連れてきたと言う訳か? そしてセントソラリスにも伝え聞く猛者達を護衛として。訳が分からぬわ」
「王女たちに関しては......いえ、まあ、最悪に備えた訳ですが......どうやら今の状況を見るとその方向に向かっておりますね」
「結果を見るにお主の予想通りと言う訳か。なるほど恐るべき慧眼。お主はこの場だけでは計り知れぬ。それでは聞きたいものだな。其方の考える最悪のシナリオを」
俺は一度息を吐きだすと皆を見渡して言った。
「アネスガルドの野望。それは契約によるセントソラリスの征服です。奴らが欲しているのは領土の一部ではない、その全てだと思われます」
「まさか? いくら何でも領土全てなどと......」
「あながち不可能ではないのですよ。女王陛下が催眠状態下にあれば」
「なるほどな。どんどん金やら物資を貸し付け、その都度契約で領土を奪っていくという事か」
「その通りですゴードンさん。女王陛下のサインだ。そして実際に取引自体は行っている。表向きは合法なんですよ」
「その通りですヒロシさん。しかしそれは契約自体に不正が無いのであれば暴きようがないという事も同時に示しているのでは?」
「ロッテンさん、俺も最初は契約が正しいものであれば仕方のない事だという思いが先に立ってました。しかし、このネックレスの秘密を知ったからには考えを改める必要がある」
「つまり、契約書にも何か秘密があるという事か?」
「あると思います。本来催眠状態下であれば正式な契約書でも良いはずなのですが、女王陛下は覚えのない文言が入っていると言ってます。恐らく念には念を入れて契約書自体にも細工いるのでしょう。つまりアネスガルドは女王陛下の催眠は不完全なものであると認識している」
「では、どうするのだ?」
「それはですね。それを利用させてもらいます」
「つまり?」
「女王陛下は既に契約書の中身を見たといわれてましたよね?」
「うむ、確認した。しかし内容自体は悪くなかったのだ。前回の契約を無しにしてくれるという内容だった」
「今となっては全く信じられませんが」
「そうだな」
「それでは、具体的にどうしていくのかを話していきます。しかし事が進んだ際にはほぼ間違いなく事態は違う方向へと進んで行く事が予想されますので......」
「ヒロシよ、それは仕方が無かろう。まずは話を聞かせてくれないか」
「承知致しました。それでは......」
俺は話した。その可能性を。もちろんその通りに進む確証はない。しかし事を収める為にアネスガルドには無理やりにでも俺のシナリオに乗ってもらう必要がある。
問題は俺が考える最悪の結末の引き金を、俺自身が引いて良いのかと言う点だ。皆は俺の話を黙って聞いてくれた。そこまで考える必要があるのかという意見も出たが備えあれば憂いなしだ。絶対に上手くいく保証なんて生きていく上でも何一つないのだからな。
あと俺は女王陛下に言って白紙の契約書を数枚用意してもらった。これで少し試したい事がある。恐らく大丈夫だとは思うが、ぶっつけ本番で試すにはリスクが高いからな。
一方でその際に起こりえる可能性についても俺はゴードンさんとロッテンさんに意見を求めた。二人の回答は言わずもがな。それが一番手っ取り早く確実だという事だった。
もちろん、その言葉を聞き出す前に二人はその当事者になろう者達に話を聞く仕草だけはしたがな。その彼らの愚問だと言わんばかりの態度に、内務卿はため息を一つ。そして笑いながら同意してくれたのだ。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。