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よろしくお願いします。

 俺たちは謁見の場を後にして皆の待つ部屋へと戻ってきた。


「くそっ、あのバドリーとか言う奴、許せませんよ!」


 クロはさっそく毒づき、皆へと事の詳細を話した。両内務卿の話もあり、皆は一様に不機嫌な様子へと変わる。ドルスカーナ側に至っては既に興味をなくしているようにも見える。


「そうか。まあ一応義理は果たしたのだ。帰れば良いではないか」


「まあアッガスの言う通りではあるのだけどね」


「ヒロシ様、僕もあの物言いには我慢なりません」


「クロの言うことも尤もだ」


「私も、女王陛下が決めているというのであれば申し上げる事はありませんね」


「ロッテンさんの言う事も当然だ」


「じゃあ、なぜヒロくんは賛成しないのよ?」


「サティ、どうも何というのか、言葉にし辛いんだけど......」


 そこにナディア王女が入ってきた。目には涙を溜め唇を噛みしめている。


「ヒロシ様、皆さん、本当に申し訳ありませんでした。さぞ不快な思いをされたでしょう」


 流石に王女に言われたのであれば、いくら不快に感じたとはいえ直情的に文句を言う訳には行かない。クロも黙っている。大人になったもんだ。


「まあ気にしないでください。とは言っても、流石にあのバドリー卿の言葉はきつかったなぁ」


「本当にすみません。彼については後程改めて厳しく注意しておきます」


「いや、あまりお気になさらず。突然やってきた私たちの事を信用できないのも仕方ありません」


「そんな......」


「だけど、ただちょっと......」


「ちょっと?」


「ええ、女王陛下だけどナディア王女がドルスカーナに来るときにはよろしく頼むって言ったんだよね?」


「確かに言いました」


「でも、さっき話した時はもう必要ないと言うか、そもそもナディア王女が勝手に突っ走ったみたいな言い方だったように思うんだよね」


「ええ。お母さまはきっと疲れているのです。そうに違いありません」


「疲れてるのか。でもこんな事を言うのは失礼だけど、国の行く末を決める重大な局面と言っていい。それを疲れたからどうでも良いとぞんざいに扱うものではないだろう? 何と言うか女王陛下は少し様子がおかしく見えた気がするんだ」


「そうなんです......お母さまは、この話の時はいつもあんなに苦しそうに」


「苦しそうに......か」


 そこでロッテンさんとゴードンさんが話に入ってきた。


「確かに苦しそうと言うか、話し方が変ではありましたな」


「そう、私も思いました。なんかこう無理して話をしているような」


「確かに滑舌が良くなかったし、言ってる事が真逆だったりしてた気がするんだ」


「はい。いつもはもっと普通に話しています。ドルスカーナへ行く時もはっきり頼むと仰いました」


「うーむ」


「それに、今帰られると本当にもうお終いになってしまいます」


「どうしたの?」


「お母さまとバドリーが話しているところを聞いたのです。明日、予定通りアネスガルドが入国してくると」


「アネスガルドが? 予定通り?」


「ええ、私がドルスカーナへ行っている間に、お母さまがアネスガルドの入国を許可したのです。お母さまはそんな事は絶対にしないのに!」


「訳が分からなくなってきたぞ。女王陛下は一体何をどうしたいというんだ」


「分かりません。でも、不思議なのですが......バドリーの話では良い内容であると聞こえました」


「良い内容?」


「アネスガルドは今回の契約での行き違いを認め、条件を無効にして新たに契約を結び直す準備があると」


「さっぱり分からん。それが本当なら本当に良い話じゃないか。なら帰ってもいいという事か? だからバドリー卿も早々に帰れば良いと言ってた訳か。うん? そうすると一応の辻褄は合うのかな?」


「でも私には信じられません。あれほど強硬に進めていた領土占領、もしくは私か妹のカミーラの引き渡しを突然取りやめにするなどと」


 皆黙ってしまった。ハッキリ言って混乱しているのだ。女王陛下の考えが分からない。その状態で他国の人間に一体何ができるというのだろうか。


 バドリー卿の物言いは確かに失礼であった。だが突然押しかけてきた人間が手を貸すなどと信じられないだろう。悪質な訪問販売だと思われても仕方がない。


 ましてや、あの謁見の時点で既にアネスガルドからの再契約の話を受け取っていたはずなのだ。信頼できない他国の人間よりアネスガルドとの再契約を上手く収めた方が良いに決まっている。


 となると結論は、早々に帰れとなるわけだ。その通りだと思う。しかし、問題はナディア王女だ。なぜ彼女は今回のアネスガルドからの要求を素直に喜べないのか。


 その理由は女王陛下にある。女王陛下の態度が違うと言い張る彼女の直感と言って良いだろう。だが王女は直感から導き出したその可能性を口には出さない。


 自らの国の恥をこれ以上晒したくないのか。それとも女王陛下を陥れる事になる事を危惧しているのか。もしくは今以上の混沌を国へ与えてしまうのか。


 その可能性とはなんだ?


 アネスガルドからの要望が善ではなく、悪とした場合。そこには一つの可能性が浮上する。。


 女王陛下が認めない契約の文言。


 一定しない女王陛下の考えに、普段見せない滑舌の悪さと態度。


 女王陛下の言葉を無視したように話すバドリー卿。


 領地占領の危機に瀕しながら他国の援助など必要ないと言い張るセントソラリス。


 早々にアネスガルドを引き入れ再契約を結びたいというセントソラリス。


 考えるのだ、これらが導き出す最高と最悪の結末を。


 誰にとって最高なのか、誰にとって最悪になるのか。


「あの、ヒロシ様?」


 呼ばれた俺は顔を上げてナディア王女を真直ぐに見た。


「ナディア王女、すまないが今夜中にセリーヌ女王陛下ともう一度会いたい。会うのはそうだな、お互いに二人か三人としよう。今夜を逃して真実を見極めるチャンスはない。何とか取り次いでもらえないか?」


 ナディア王女は俺を見つめ返しと答えた。


「必ず。必ずお取り計らい致します。どうか、どうか救いの手を......」


「全力を尽くすとしか言えない。細かい内容はその時に話す」


「分かりました。必ずお知らせに参ります」


 そう言うとナディア王女は部屋を出て行った。そして俺は振り返り皆に言った。


「こんな事はしたくはないし考えたくもないが、俺はある可能性について今夜調べようと思う」


「ほう? その内容とは? 何か手伝う事はあるか?」


「いやアッガス、今時点で手伝うことは何もない。しかしこの可能性が当てはまってしまった場合、事態は大きく動くことになる。手伝いどころか中心人物へと変わる位にな」


「おもしろい。では聞かせてもらおうか。その可能性とやらを」


 アッガスはニヤリと笑って俺の方を見据えた。


「ああ、皆もしっかり聞いてくれ。これは俺が考えていた悪い方の結末だ」


 そして俺は話を始めたのだった。


お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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