290
よろしくお願いします。
「契約書の差し替えなどを言っておるのか? そのような事が出来るのか? ただでさえ普通の商売ではないのだ。それこそ国王、セントソラリスの場合は女王だな。そのサインが必要になるはずだ」
「契約内容に不備があった場合も同じですね。追加で記入したりすることはできません。筆で消して上書きなども許されません。その場合は書き直しを行うのです。その上で女王陛下のサインを行い、魔法にて契約がなされます。それ以降は先ほどの通りです。破る事も燃やす事もできなくなります」
「この場合はアネスガルドが書面を用意し、それを納得した上で女王陛下がサインするのだ。その後封印を行うため、アネスガルドが後から何かすることはできないと思うぞ」
「ですよね、そうなんですけど。だから疑問というか引っかかる部分なのですけど」
「うむ、言いたいことは分かる」
「まずは女王陛下との話と契約書の確認が先決であると?」
「そうなれば良いなとは思ってます」
本来契約が交わされた後で変更はできない。追加も修正もできない。その場合には違う契約書をもって上書きを行うのだ。サインをする前であっても上書きは許されない。
つまり情報陛下が白金貨の件を知っていればその段階でサインをして契約を結ばずに、アネスガルドへ契約書の変更を伝えれば良かったのだ。
しかし現段階では女王陛下は全て納得した上で書面にサインをして、魔法で契約書を封印したことになる。もちろん契約書はこちらと向こうで二通ある。
どちらかだけ文章が違うという事もない。用意はアネスガルドが行い、それを認めて女王陛下がサイン。封印をしてアネスガルドへ一通を返却する。アネスガルドが後から契約書に手を加えることは不可能だ。
仮に変えれたとしても一通はセントソラリスが持っているのだ。二つの文章が違えばそれこそ問題になるからな。
見せてもらえるかどうかはまだ分からないが、その契約書を見て問題がない場合は正直アネスガルドの言い分は正しいという事になる。うーん、考えれば考えるほどアネスガルドは悪くないよな。
もうこれは契約は正しいと考えて、その上でどうやってセントソラリスに協力が出来るのかという話になるかも知れない。
しばらくすると係りの者が俺たちを呼びに来た。
幸いなことに速やかにナディア王女が女王様へと説明をしてくれたようで、俺たち一行はとりあえず王城の客間へと通された。この後、恐らく謁見の間へと連れていかれるだろう。
大した検査や身元確認もせず城に入城させてくれたのは全てナディア王女の説明のおかげだろうな。本来こんな簡単に入城させてもらう事はできないと思う。
事情を知る王女様は良いとしても女王様には少し後ろめたい気もする。だが兎に角問題点がどこにあるかを確認することが先決だ。
こうして呼ばれるまでの間、その辺りの事を重点的に話をした。こちらの本当の身分を隠しているとはいえ、助けになれないかという思いで来ているのだ。変な誤解を与えて話を難しくする事は良くないからな。
あと、本当の身分を伝える際にもナディア王女から口添えすると約束してくれてはいる。印象が悪くなるのは避けたいのでぜひお願いしますと伝えた。王女にはお世話になりっぱなしだぜ。
謁見の場に行くのは俺と両内務卿、そしてクロとレイナ。この五人が今回のレギュラーとして金銭問題の解決にあたる。
アンジェは知恵袋的な存在として後ろに控えてもらう事にした。ボニータにしても控えだ。何というか王女組は形式ばったところに出るとスイッチが入りそうな気がしたのだ。
商人なのに王族の畏怖が駄々洩れとかよろしくない。とても言い訳できる気がしない。出番まではおとなしくしておいてもらう事とする。
そうしていよいよ謁見の間へと移動することになったのだった。
--------------------------------
「待たせたな。余がセントソラリス女王、セリーヌ・オルノワである」
「はは」
「そなたがリンクルアデル商人のヒロシという者か?」
「は、ヒロシ・ロングフォードと申します。周りは私の商会の者たちでございます」
「遠い所良く来て、く、れ……全く、ナディア王女にも困ったものだ。まさか連れて来るとは勝手な事を。しかし来てしまった事は仕方がない。とりあえず用件だけは聞くとしよう」
「はは」
と言いつつも俺はこの女王の発言に引っ掛かりを覚えていた。なんて言ったんだ今?
「あまり固くなる必要はない。ナディアより事情は聴いているだろう?」
「はは、私はリンクルアデルのシュバルツ王とドルスカーナのダルタニアス王よりセントソラリスの力となるよう申し付けられただけの事でもございます」
「我が国の手伝いをせよとそう申したのか?」
「そちらのナディア王女から伝え聞く話によりますと、何やら身に覚えのない借金でお困りとの事。何かお力になれれば良いと思い、こうして付いてきてしまった次第です」
「そうか、そうか! 礼を申さね、ば、うむ、サインをしたのは間違いなく私なのだがな。私なのだが、うん? そう、私なのだが見た覚えのない文章が......いや、文章は間違いなく確認しておるの、だ、が」
その時、横に控えていた一人の男が会話に割って入ってきた。
「おやおや。女王陛下はまだその様な事を申しておられるのですかな? いい加減に認めてもらわねばアネスガルド側もいつまでも待ってはくれませんぞ?」
横からゆっくりと歩き出てきたこの男は丁度セリーヌ女王とヒロシの間に立ち仰々しく話を始めた。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。