289
よろしくお願いします。
ゆっくりとゲートが開いてゆく。
まずはナディア王女達が出ていって話を通す事になっているのだが、俺はこの目で外の様子を見たいのでゲートの横から顔を少しだけ覗かせているのだった。
そして外気が船内へと流れ込んできた。
「さむっ!」
「もう、ヒロ君。外を見るならしっかりと上着を着てないと風邪をひくわよ」
「す、すまん。分かってはいたのだがな。しかし猛烈に寒いぜ」
「まだしばらく船内にいるんでしょう? 奥で待ってればいいのよ」
「そうだな、そうしよう。つい外を見たくなってな」
ナディア王女は護衛を連れて先に出ていく。 王女は俺の方を振り返り一度頷くと踵を返して歩き始めた。頼むぞナディア王女。
これから王女が女王に対して話す内容が一番重要なポイントと言っても良いと考えているのだ。
俺たちがゾロゾロついていくわけにもいかないので、女王陛下に説明が終わるまで俺たちは中で待機している事にしているのだった。
「で、ヒロ君これからどうするの?」
「女王様に会うことが直ぐにできれば一番良いのだろうな。ナディア王女の説明次第ってところだろうけど」
「それで?」
「そこで話をするのは俺と両内務卿、そしてクロとレイナだな」
「私たちはどうするのよ?」
「一旦は待機だよ。何事もなく話が進めばそれで用事は終わりだ。リンクルアデルとドルスカーナから物資を援助しアネスガルドへの返済と充てる。それだけでセントソラリスはずいぶん助かるはずだ」
そこで二人の内務卿も話の輪に入ってきた。
「確かにそれが決まれば一番話が早いだろうが、どうやって今度はセントソラリスから回収するかだぞ?」
「そうね。ヒロシさん何か上手い回収方法があるのですか?」
二人は俺の方を見る。
「えーと、現時点では何もないんですけどね。まずはアネスガルドの領土占領と王女引き渡しを防ぐ。代わりに物資の返還を行う。それの方法については女王陛下とのお話次第の部分もありますね」
「ううむ。それでは両陛下の危惧した通りにならぬのか? つまりは払い損だ」
「私もその通りだと思います」
「それを上手く進めるために契約書を見せてもらう事が必要ですよね。お二人とも当然契約書にはお詳しいのでしょう?」
「「それはもちろん」」
「加えて、こっちにもレイナを連れてきております」
「それで?」
「偏見をもって物事を見るのは良くないのですが......その契約書の内容が正式なものかを判断する必要があります」
「言っちゃ悪いがヒロシよ、契約書は正しいと思われるぞ? 改ざんの可能性はまずないと考えられる」
「私が説明致しましょう。契約書は基本上書きができないのです。特別な魔力によって封印が施され、破ることも燃やすこともできません」
その話を聞いてレイナも言葉を繋げる。
「Namelessの場合も同じですね。契約書の更新は書き換えではなく、追加形式で行われます。一度封印したものは解く事が出来ないからです」
「まあ改ざんなどの不正が無い事に越した事はないんだ。まずは契約書の内容をよく確認してアネスガルド側へ交渉できる余地があるのかを見つけないといけないんだ」
「それは仰る通りですね。それではヒロシさんは何を心配されているのですか?」
「心配というか気になることがあるんですよ」
「それは?」
「こちらへ来る前からですけど、契約書の中身に対する内容がどのようにして変わったのかという事です。私も先ほどの内容は流石に知っておりましたが、それを正とするとどうも気になる事が一点だけ」
「それは?」
「白金貨、そもそもこの借金の額についてです。女王陛下は認知していなかったという話だったでしょう?」
「そうだな」
「何故なのでしょうね?」
「よく読んでいなかったか?」
そう言いながらゴードンさんはロッテンさんをチラッと見た。
「む。ゴードン卿、それはダルタニアス王の事を言っておられるのですかな?」
「あ、いやいや。申し訳ないロッテン卿。悪気はないのだ。卿の意見を聞きたかっただけなのだ」
「まあ、王はあのような方なので、契約云々に関しては苦手かとは思います。なので否定はできないところですが、契約書等々の内容は妃様と私の方で確認することにしております」
「本当に悪気はなかったのだ。謝罪させてくれ」
「ふふ、分かりました。不問に致しましょう」
「卿の心遣いに感謝する。それでヒロシの考えはどうなのだ?」
「今言われたように、契約に関することは本来内務の方で厳正に確認がなされるはずです。リンクルアデルでも王の一声と言うのは中々無いのではありませんか?」
「そうだな、その場合でも我々の方で確認は怠らない」
「ですよね、本来そうだと思います。なので今回の場合......言いにくい事ですが、その内容が変わっていたかもしれないという疑問が残っております」
疑うことは良くないがな。だが備えあれば憂いなしの気構えで考えた方が良いだろうと思っている。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。