287 船内談話室 (女子の部)
よろしくお願いします。
大した話もしていない男子会を横目に船内談話室にて。
「ちょっと、サティ。教えてよね」
「何をよ?」
「何ってそりゃあれよ。あの事よ」
「あの事って何よ?」
なんとなく集まった談話室。ここで今、ヒロシを除いて重要な会議が始まろうとしていた。ナディア王女、ボニータ、アンジェ、リーシア、ラース、サティ、クロ、シンディである。
普通に茶を飲んでいただけだったのだが、ボニータの発言で突然勃発したのであった。
「だからヒロシ様の事よ。その......あなた群れのリーダーなんでしょう?」
「ふふん。まあ、そうね。でもソニアと明確に序列をつけているわけではないけど」
「そうなの?」
「そうよ。結婚したのは私の方が早かったけど、出会い自体はソニアの方が早いし。当時はヒロくんは薬草しか持ってなかったから身分とか色々と取り払うべき壁があったのよ」
「へー、そうなのね」
「え? ヒロシさんは伯爵家の嫡男なのではないのですか?」
「ナディア、ヒロくんは養子なのよ。説明しにくいんだけど」
サティはなぜかナディア王女にも敬称をつけなくても良くなっていた。理由はよく分からないがそれがサティなのだろう。突っ込んではいけない。
「そうだったんですか? つまり元々平民出身の方ってことですよね? それがまたなぜ今や伯爵家の跡取りに......持ってるものが薬草だけってどういうことですか?」
そこでお茶を入れていたクロードが代わって話を進めた。
「ナディア王女、ヒロシ様は当時男爵家だった別邸の前に行き倒れていたんですよ。それをソニア様が手当てをしたところが始まりです。無一文で倒れてたんですよ」
「まあ! まさに運命的な出会いだったのですね。物語のようですわ。ん? 行き倒れてたのですか?」
「そうなんです。それでゾイド男爵、今は伯爵ですが......の援助を受けて商売を始めることになったんです。その頃は私も一緒にヒロシ様と毎日山に薬草を集めに行ったものです」
「そんな事が」
「で、紆余曲折を経てサティ様と結婚し、その後ソニア様と結婚する時にゾイド様がヒロシ様を養子に迎えたんですよ」
「なるほど、人に歴史あり。色々あったのですね」
「それが今や儀礼爵位では男爵、商会はリンクルアデルでも最大規模の会長、加えて国家御用達商会の看板を持ち、国王のメダル保持者でもあります」
「非の打ちどころがないわね。どうしたらそうなるのよ......」
ナディア王女は絶句している。
「こうやって聞くとやはりヒロシ様はすごい方ね。サティ、ももも、もし望むなら入ってあげてもいいわよ」
「だからボニータ、あなたさっきから何を言ってるのよ」
「何ってだから、あれよ、その......あなたの群れに入ってあげてもいいわよ」
「別に入んなくても良いわよ」
「なんでよ!」
「何でって......私がお願いしている訳じゃないし、って何で群れに入る話をしてるのよ?」
「ふっふっふ、やはりボニータは後回しね。ヒロシ様と結婚するのは私が先ってことよ。なんたって私はもうお父様には気持ちは伝えておりますし」
「わ、私も一応は......何と言うか分かってくれてると思うわ」
「ちょっと待ちなさいよ。あなた達ヒロくんと結婚したいの? するつもりなの? 仮にも王女なのよ? 全然それっぽくないけど」
「お姉さまは酷いです。でも、サティお姉さまなら良いですわ」
「王女の身分なんてもう良いのよ。ロイヤルジャックもなんなら今辞めてもいいわ」
「ボニータ......あなたそれロッテンさんが聞いたら泡吹いて卒倒するわよ」
二人はサティに食い下がり、群れに入る許可を得ようとワチャワチャやっているがナディアはイマイチよく理解ができない。
「あの、ヒロシさんは確かにお金持ちなのでしょうけど、仮にも王女であれば嫁ぎ先は王族や公爵、諸外国の方になるのでは? いずれ彼自身が伯爵になるとはいえ......」
「爵位もどうでもいいわ」
「ああ、ボニータさんは強種の獣人ですからそう言うのは二の次なのかしら? あれ? ヒロシさんは商人ですわよね? あの方は飄々としてとても戦闘ができる感じにはみえませんけど」
「戦闘はもちろ......うーん、悪いわね。詳しく言えないけど色々あるのよ」
「色々? そそそ、それはもしかして夜の戦闘の事かしら?」
「ととと、突然なに言ってるのよこの王女は。いきなり変なこと言うんじゃないわよ。びっくりするじゃない」
「コホン、失礼。ちょっと飛躍しすぎたわね」
「だからちょっと待ちなさいよ。親がどうか知らないけどヒロくんがどうするか、どう思っているのか聞いてないのでしょう?」
「そう、そこよサティ」
ボニータはサティの手を両手でグッと掴むと言った。
「なによ?」
「お願い、貴方からもお願いして頂戴。序列にこだわりなんてないから」
「え? ちょっと驚いたわ。あなたが序列に興味を示さないなんて」
「当たり前でしょう? でも正直に言うと気になってない事はないわよ? ただそれで突っ張って機を逃したら本末転倒だわ」
「まあそうかもね。あなたもしかして真剣なの?」
「当たり前じゃない! 何言ってんのよ」
「ごめんなさい。ちょっと驚いちゃって」
サティは本当に驚いていた。プライドの高い獅子族が頼み事をするだけでも珍しいのだ。それが頼み事どころか序列も気にしない等と普通は信じられるものではない。
ヒロシの妻候補として、夫となるものを大事に考えてくれる事は大切なことだ。サティはボニータの一生懸命さが分かり嬉しく感じていたのだった。
しかし口に出して言わないのがサティなのであるが。
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