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よろしくお願いします。
「そっか、アッガスは初めて会うんだな」
「ん? ああそうだな。当然初めてではあるが、そもそもなぜ子供がこの船に乗っているのだ?」
「子供って、一応成人してるんだぞ」
「そうか、それは失礼。で、誰だ?」
「ウインダム一番隊の隊長だよ。名前はセイラムだ」
「よろしくね?」
「おお、そうか。セイラム殿か。こちらこそよろしく。ワシはドルスカーナ、ロイヤルジャックのアッガスと言う。ん? 今何と言ったかな? はっはっは、すまぬな。ちょっとおかしな文言が聞こえたような......」
「僕はウインダムのセイラムだよ?」
「そうかそうか......ウウウ、ウインダムのセイラムだと!? おいヒロシ、この子は何を言っておるのだ? 流石にワシでもウインダムのセイラムの事は知っておる」
「まあ、そのリアクションになるよな。俺は嬉しいぜ。だがなアッガス、これは現実なのだ」
「現実だと? まさかこの女の子が本当にあのセイラムだというのか?」
「そうなのだ。鎧の中までは見たことがないだろう? 俺もそうだったが」
「た、確かに鎧姿しか見たことはなかったが......しかし信じろというのか、この女の子が噂に名高い天才剣士だと」
「あと一つ」
「なんだ?」
「この子は女の子ではなく、男の子だ」
「なんだとぅ!! お前いい加減にしろよ!」
「いや、俺にキレられてもあれなんだが......事実なのだ」
「ほ、本当なのか?」
そう言いながらアッガスはチラッとセイラムへと視線を落とした。
「どこからどう見ても年端のいかぬ女子ではないか」
「んと、見る?」
そう言うとセイラムはズボンに手をかけた。
「「「「やめろうぅ!!」」」」
四人が叫んだのはほぼ同時であった。しかしアッガスの狼狽えぶりは相当だ。見てておかしくなってくるぜ。
「んと。分かったよお兄ちゃん」
「「「お兄ちゃん?」」」
ハモるな、そこ。フィルなんて口に手を当てたまま機能が停止しちまってるじゃないか。
しかしセイラム、お前この状態を分かって演出してるんじゃないだろうな? 俺の腕に抱きついてくるんじゃない。要らぬ誤解を生むだろうが。
「ヒロシよ、おお、お前は何をやっているのだ?」
「い、いや、俺がやってるわけではないだろう。アッガスよ、事実を、頼むから事実だけを見てくれ」
「心配するな、事実を見ろと言われれば今見ている。この鬼畜が!」
「おいおいおいおい!」
「ヒロシさん、流石に俺も言葉がねぇよ」
「ガイアス、お前は何を言っているのだ。べべ別にやましい事はないぞ? 本当だぞ?」
「この娘はお前に抱きつかれて嫌がっているではないか」
「アッガス、お前の目は腐っているのか? どう見ても抱きつかれてるのは俺の方だろうが」
「ヒロシ、早くその娘から手を放せ」
「お前さっきからセイラムの事を娘と呼んでやしないか? まさか貴様、考える事を放棄したのか?」
「ヒロシさんが壊れちまった......」
「おい、お前らいい加減にしろよ。セイラム、頼む、事情を説明してくれ」
「えとね。お兄ちゃんに棒で殴られて妹になる事になったんだ」
「ゴラアアアア!! 端折りすぎだバカモノ! それにお前は弟枠だろうが!」
「き、貴様と言うやつは......この変質者がぁ! もう許せん、この場で叩き斬ってやる」
「こんな男をアニキと慕っていたとは......アッガスさんせめて苦しまないように送ってやってくれ」
「違う、違うんだ。やめろ、大剣から手を放せ。セイラム頼む、このままでは死んでしまう」
「往生際が悪いぞ、この犯罪者が! 死ねぇぇい!」
「うおおおおお! マスカレードナイトォォゥ!!」
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「えへへ。僕が隣にいるのにずっと考え事してたからちょっと意地悪をしただけなんだ」
「このおバカさんめ。そのちょっとの意地悪で俺は危うく命を落とすところだったんだぞ? まさかこんな所で武装召喚する事になるとは思いもしなかった」
「えへへ」
「えへへじゃありません」
「お兄ちゃんも武装召喚できるんだね?」
「ああ最近だがな。むっ、話をすり替えるんじゃない」
「えへへ」
「だからえへへじゃありません」
「しかし驚いたぜ。話を聞いても信じられねぇ。弟になってたなんてなぁ」
「お前は知って......そうか妹、いや弟になる辺りの話は知らないのか。でもあれだぞ? 縁組とかをしたわけじゃないからな?」
「しかしセイラム殿がこんな若い娘だったとは意外だった。本当に信じられん」
「よろしくね?」
「うむ。こちらこそよろしく頼む」
二人は握手をしているが、その絵面はどこからどうみても美女と野獣にしか見えなかった。
あとアッガスは現実を受け入れられず、女性で押し通すことにしたようだな。お前の心の安らぎの為だ、好きにするが良い。
「よし。ようやく話が元に戻ったわけだ。えーと......脱線の規模が大きすぎて会話が思い出せん」
「あれだ、女性陣はどこへ行ったのかという話だったはずだ」
「そうだ、そうだった」
「うむ。女子会と言うやつが開かれているのではないかと言う話だ。何だ女子会とは?」
アッガスはその辺りの用語に疎いようだ。
「アッガスさん、女子会とは女子だけが集まって本音トークをする恐ろしい場所だ」
「ほう。ガイアスはそういう事をよく知ってるのだな」
「まあな。あそこは選ばれた者しか入ってはいけないのさ。一つ分かるのは男が入っても碌なコトにはならねぇって事だ」
「クロが入ってると思うぞ?」
俺はガイアスに言った。
「サティさんが連れて行ったから、多分お茶の用意とかだろうが......恐らく巻き込まれていると見た」
「うむ、そうだろうな。ヤツもツイてないが仕方がない。これもヤツの仕事ゆえな」
「そうだな」
俺はガイアスと二人、黙って談話室の方へ手を合わせたのだった。
「何をやっとるんだお前らは」
「いや、ちょっとクロの成仏......じゃなかった業務の成功を祈ってただけだ。せっかく男衆が集まっているんだ。こっちはこっちで楽しむとしようぜ」
「そうだな」
「あれ? ラースは?」
「知らねぇ。リーシアと部屋で寝てんじゃねえのかな? アイツら良い奴なんだけど付き合い悪いんだよ」
「ガイアス君よ。人の好さは付き合いだけで決まるものではあるまいよ。飲みにケーションとか言ってるとお前は一発アウトだぜ」
「む、そうなのか。でも俺は仮にもリーダーなんだぜ?」
「出たかオレオレ気質。天空の剣の闇が見えてきたな。見えるぞ、お前が破滅へと落ちていくその姿が」
「うむ、ワシにも見える」
「ボクにもちょっと見える」
「え、アッガスさんとセイラムさんにもかよ」
「ちょうど良いからお前のリーダー育成教育を始めるとしようか」
「ええ。お願いしますよ皆さん。時代錯誤の男の考えを正してやって下さい」
「フィル、てめぇどういうことだ!」
「良かったな、ガイアス。お前クビ寸前だったんだな」
「......なんかよく分からねぇが、とにかく話を聞くべきだと本能が言っている気がする」
「そうだ、今は本能に従うのだ」
そうして俺たちはガイアスを肴に男子会を始めたのだった。
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