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お久しぶりです。
よろしくお願いします。
セントソラリスの飛行船、グランドセントアークはその大きな船体を真直ぐに保ち優雅に飛行を続ける。
大森林の中に聳え立つ山々を迂回し船はゆっくりとセントソラリスへと向かう。船内から見る山脈は雄大で頂上は雲がかかって見る事ができない。
ナディア王女の話では書簡を運ぶだけでも片道数か月かけてドルスカーナへ行くことが必要らしい。しかしそれは当然と思われる。アデリーゼや旧ローランドからバルボアへ抜ける事が楽に思えるくらいだ。
流石にここに道路を引くことは難しいだろうな。ああ、大森林なのでそもそも道路を引くこと自体が難しいかもしれないな。天罰コースは避けたい。
しかし森の中を歩いて進むとこの山を見る事はできるのだろうか。そもそも人がこの山を越える事が出来るのだろうか? そう思わせるには十分な程その姿はまさに圧巻の一言であった。
隣ではガイアスがずっと驚嘆の声を上げている。ホントこいつは、と思っていると隣にはフィルとクロもいて何やら三人でずっと歓声を上げていた。まあ気持ちは分かる。
後あれだ。かなりの距離を飛んでいるようには思うが、この山々をドルスカーナから眺める事が出来ないという事はこの星が球体である事を示しているのだろうか?
それとも神々の力によりその姿は特定の場所からしか見る事が出来なくなっているのだろうか? 効率よく飛行をするために高度を上げて飛んでいるように思えるが、この高度から後ろを見てももうドルスカーナは影も形も見えない。
俺はぼんやりとそんな事を考えながら窓から見えるこの景色から目を離せずにいたのだった。何と言うか、まあどうでもいいかと思ってしまったのは秘密である。
同時に俺はノール長老との話を思い出していた。曖昧な表現には違いないが彼は俺に多数のヒントを与えてくれたと考えている。いつも意地悪な質問をして悪いけど勘弁して下さい。
一つ、重大なことはアネスガルドがもし空から武力による占領行為を行った場合は何某かの抑止力が入るという事だろう。大森林に被害が及ぶ場合は言わずもがな。
空にも大森林と同じく戦闘を許さない何かがあるのだと推測される。それがサーミッシュなのか、神々なのかは分からないが。
今更ではあるがシュバルツ陛下にももう少し詳しく聞いておきたかった。ノール長老が言うには陛下は何某かの知識があるのだろうと推測していたからな。
アンジェなら何か知っているのだろうか? 後で聞いておくのも悪くないだろうな。
結論としては戦闘行為をしない場合、今回の移動や物資の補給等々に関して空を利用する事は問題ないという事だろう。事実今も空を飛んでいるわけだし。
つまり神々は大森林や空を利用して移動することに関しては問題にしていないのだ。
もし、セントソラリスで商売になるものがあった場合、当然交易が始まるわけだが現在輸送方法がないのだ。陸送はほぼ諦めている。この大森林と山々を抜ける事は得策ではないだろうな。
残るは海と空なんだが。空の場合は飛行船が圧倒的に足りない。王家が所有している飛行船を果たして商人風情が所有する事が出来るのだろうか?
変なところで不興を買いたいとも思わないからな。この辺りは慎重に見極めて行く事にしよう。問題はアネスガルドがどのように考えているのかが分からない事だ。
交渉が上手くいって借金を減額の上、二国が肩代わりする。そしてセントソラリスは借金返済のために二国と協力して商売を始めて自国での完済を目指す。
これが一番良いと思われる。誰も損をせず良い着地ができるのではないだろうか? 問題はアネスガルドがゴネた場合だが、契約書で縛っている以上それを元に話をすればいいのだから大丈夫と思うのだけどな。
契約書があるのに侵略だの戦争だのには簡単には発展しないだろう。
しかし先ほどから女性陣の姿が見えない。どうも奥の談話室から声が漏れてるので打合せ中だろうか? ゴードンさんとロッテンさんは部屋で休むと言っていたな。
邪魔するのも悪いからクロを連れて船内の探検を......と思ったらクロもいないので俺も部屋で休む事にした。と思ったら横にセイラムがいた。
「あれ? いつからいたの?」
「むー。ずっといたよ」
セイラムは俺の方を上目遣いで見上げる。お前本当は女の子だろ? そうだと言ってくれ。騎士団の鎧姿とのギャップが大きすぎて現実を直視できない。
「皆はどこへ行ったんだ?」
「あっちの部屋で集まってると思うよ?」
「騎士団やロイヤルジャックの部隊の皆さんは?」
「彼らは別の階だね。このフロアには隊長クラスしかいないよ」
「まあ、それはそうか」
と話しているとガイアスと目が合った。フィルと何か飲み物を飲んでいたようだな。
「お前はこの階にいるんだな」
「突然なんだよ!」
「いや、スマン。なぜか嫌味を言わないといけない衝動にかられたのだ」
「勘弁してくれよぅ」
「スマンスマン」
「おい、ヒロシ。女性陣はどこへ行ったのだ?」
「お、アッガス。多分あっちの部屋で何事か相談中みたいだな」
「あれだよ、女子会だぜ」
「ヒロシ様にアッガスさん。ガイアスはさっきからこんな事ばっかり言ってるんですよ」
「フィルが大変な役どころってのは皆が知ってるよ。ご苦労さん」
「まあ、良いんですけどね」
フィルに労いの言葉をかけていると、アッガスが言った。
「女子と言うのならそこの女性は入っておらぬではないか」
「あれ? アッガスは初めて会うのか?」
後悔先に立たず。
この時、俺はセイラムについてもっと詳しく話しておくべきだったのだ。
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