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よろしくお願いします。
ノール長老は少し首をかしげながら答えた。
「大森林の上で戦闘をするとでも?」
「アネスガルドはセントソラリスに武力での領土占領を示唆しているんだ。飛行船で大森林を抜ける事は可能なのだろうか?」
「大森林に被害が及ばぬ限りは我々には関係のない事ですな」
「そう言うと思ったよ」
「ただ、これはリンクルアデルにも言える事ですが、空からの攻撃はあまりお勧めできませんな」
「どうして?」
「なに、古い伝承に残る話なので大したことでは。年寄りの独り言とでも」
「本当に勿体付けるのが好きだね?」
「申し訳ございません」
「もう少しだけお願い」
「うむむ、掟がございますので......強いて言えば大森林に守護があるように空にもですな......」
「空にも守護を持つ者がいるってのかい?」
「そのようなことは一言も申しておりませんですな」
「全く......なかなか言ってくれないね。でもバルボアの際にはリンクルアデルは飛行船でバルボアへ攻め入ったよね? あれはどうなの?」
「大森林の上での戦闘はございませんでした。また、ラスの話でも空からの攻撃はなく、不時着してから戦闘に入ったと聞いておりますな」
「確かに......そうだったはずだな」
「流石は賢王と言ったところでしょうか? どこまで話を知っているのかは存じませんが空と大森林での戦闘を見事に避けておいででしたな」
「ちなみにドルスカーナが戦争を起こした場合はどうなるの?」
「小規模戦力で言えばドルスカーナは圧倒的ですな。いくらアネスガルドが軍事に力を入れているとは言っても小規模戦団でドルスカーナに直接戦争を仕掛けることはないでしょう」
「まあ......なんとなく想像はつく」
「小規模戦団で個別に軍を移動させれば良いのですからな。獣人だけあって魔獣と遭遇しても森での戦闘は問題ないでしょう。バルボアの件以降、それも今では許されませんが」
アッガスみたいな戦士が軍団を率いて森から出てくるのは脅威だろうな。納得だ。そういう意味ではダルタニアス王は他国へ侵略もせず上手くやっているという事か。大した人だ。
「なんだかその話を聞いていると、本来戦争なんて起きそうにないと言うか起こらない気がするんだけどな」
「確かに。どちらかと言うと国同士の戦争への軍備ではなく、大森林からの魔物や魔獣の流出に備えていると言った方が良いかもしれませぬな」
「なるほど。それが本意なのか不本意なのかは知らないが、大森林の果たしている役割は大きいな」
各国が軍隊を率いて戦争をしない訳はどうやらここにあるようだ。神罰が下ってからでは遅いのだ。下手をすれば国が滅ぶ。本末転倒ってことだ。
「よし、それでは聞き方を変えようかな」
「何なりと仰って下さい」
「言っても答えてくれないじゃん」
「申し訳ございません。全ては私の不徳の致すところ、この身を八つ裂きにされて......」
「ごめんごめん、責めてるわけじゃないんだよ。掟の重要性は理解しているつもりなんだ。ええと、空に守護を持つ者がいるかどうか知らないけど、守護を持つ者同士話はできたりするのかな?」
「......」
「あくまで仮定だから。ただの興味本位として聞いてるだけだ」
「もしそんな者が本当に居るのなら、話すこともできるかも知れませぬな」
「ほう」
「......」
「どうやって話ができるんだろうね?」
「さて、どうするのですかな?」
「ノール長老、どうしたらもう俺たちの話はもう少し上手く進むと思う?」
その時、俺はノール長老の口元が薄く微笑んだのを見逃さなかった。あれ? 何か今のは悪手だったのかな? 長老は姿勢を正し俺の方へと改めて向き直った。
「ホッホッホ、ようやく私のターンになりましたな。全てが上手くいく簡単な方法がございます」
「え? そんなのがあるの?」
「はい。森を開くのも掟を知るのも思いのまま。先ほどの空のお話についてもですな。なに、極めて簡単な誓約に対して少々貴方様の承認が必要なだけでございます」
「マジで? 全く人が悪いぜ、ノール長老。そういうのを待ってたんだよ。その方法を聞かせてよ。それでいこうぜ」
「ええ、問題ありませんとも。あなた様が乗り気で嬉しい限りでございます。では全て承認したと言う事でよろしいですかな?」
「当たり前だろう。ん? ちょっと待て。誓約ってのをまだ聞いてないから、承認するかどうかは答えようがないけどさ」
『チッ』
「何か言った?」
「いえ」
「ふーん、まあいいや。じゃあその条件やら方法を聞かせてよ」
「畏まりました。簡単なことです。後は貴方様次第でございますゆえ」
「そうなの?」
「はい。では説明致しましょう。それはですな......」
話を始めた長老を見て俺はつぶやいた。
おい......いったい何を言ってるんだ?
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