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よろしくお願いします。

 関係者と言ってもロッテン及びゴードンの二人が入った事くらいで変わったことは特にない。だが国の中枢を任される二人が話を聞くという事は両国が直ぐにでも行動に移すという誠意の表れだろう。ナディアは再度二人を交えた所で説明を行った。


「概要はざっとこのようになる。そこでどのように援助を行うかという事に関して其方たちの知恵を借りたいと言う訳だ。ナディア王女よ、現在の援助内容について詳細を教えてもらえるか?」


「はい」


 ナディアは状況を細かに話した。援助を受けた上で金品の返済が出来ていないものは二年分となる。今年を入れると三年分になるのだが。しかし驚くべきはその金額でなんと年あたりで白金貨五千枚であった。


「白金貨五千枚?! 一年で白金貨五千枚だと!?」


「どうしてそのような途方もない額になるのだ? 信じられんが?」


 両国王の驚きの声を受け、二人の内務卿も話を始める。


「援助物資の内容を見てもどうしてこの額になるのかが分かりませんね。失礼ですがセリーヌ女王はどうしてこの話を受けられたのでしょうか? 北の国での事情は分かりませんが、我が国での相場ではせいぜい白金貨五十枚程度ですよ?」


「リンクルアデルでも大体同じかと思いますね」


「その......申し訳ありませんが内政に関しては私には判りかねます。母も本国の内務卿と相談したうえで決定していると思うのですが」


「そうですか......」


 そう言うとロッテンはチラッとナタリア妃の方を見る。白金貨五千枚など簡単に右から左へ動かせる額ではない。ドルスカーナにしてもまだ砂糖事業が始まろうとしている段階で国庫に財が潤沢にある状態ではないのだ。


 その状況を知らないナタリア妃ではない。助けるとダルタニアス王が言ったのであればそれに応えるのが妻、いや内政を任されている者の務め。しかし後ろに控える妃衆とナタリアを以てしても妙案は浮かばないのであった。


「アンジェよ、何か思う所は無いか?」


「お父さま、話を聞く限り相場とは大きくかけ離れているのは本当の様です。ただ援助というのにモノを返せと言うのは考えにくい事です。現状を見るに援助ではなく物品を売る、もしくは貸したと言う内容です。せめてその書類を見せて頂ければ......」


「そうよな。ナディア王女よ、その書面は流石に持ってきてはおるまい?」


「ええ、それは内務卿であるバドリーが厳重に保管しておりますので」


「だが確かにアンジェの言うように援助ではなくあくまで貸しであったということか。そうであったならセントソラリスには当然返済義務が発生するという事だ」


「いえ、確かに援助という話だったはずなんです。でも......」


「しかしのう......」


「やはり......難しいですよね。分かってはいるのです。途方もない額であるという事は......」


「待て」


 その時にシュバルツが声を上げた。


「そう言えば神託が降ったと言っておったのだな。その神託の内容をもう一度教えてくれ」


「はい。ですがたった一言、『国を救いし英雄から知恵を借りろ』です。最初は吟遊詩人に詠われる黒い男の話かと思ったのですが、お金の話ですし......」


「ふむ。ダルタニアス、いや皆の衆よどう思う?」


「恐らくわしの考えもお主の考えに追いついたと思うぞ?」


「良い考えと思うわ」


「そうですね、彼ならば或いは?」


「ナタリアもロッテンもそう思うか? リンクルアデルの知恵袋はどう思うのだ?」


「ゴードンですよ、ダルタニアス王。もちろんその考えに至っております」


 ナディアは皆の話している内容に考えが追いつかない。一体何の話をしているのだ?


「あ、あの皆さん?」


「ナディア王女よ。英雄かどうかは別として一人会わせたい人物がおるのだ」


「吟遊詩人が言う黒い方ですか?」


「いや。うーむ、詳しくは言えぬが商人だ。だが知恵を借りろというならば、貸してくれそうな男だ」


「そうだな。或いは思いもしない人物が国を助ける事もある」


「陛下、それでは?」


「そうだな、ロッテン。シュバルツも良いな?」


「もちろんだ」


 ダルタニアス王はロッテンへと向き直り伝える。


「ヒロシをここに呼べ。大至急だ」


「畏まりました」


 ロッテンは一礼すると慌ただしく部屋を出て行ったのだった。



---------------------------------



「ハクショイ、ハクショイ、ハクショイ、ハックショーーーイ!」


「もうっ、ビックリするじゃない。大きなくしゃみね。どうしたの? 風邪でも引いたの?」


「ごめんサティ。いや......何だろうか? 突然背筋に寒いものが走ったような気がするのだ。それも超特大だ。全身が凍るかと思ったぜ」


「前にもそんな事があったような気がするわ、何だったかしら?」


「何だったかな?」


 そう言いながら俺は遠くに揺れるキビサト畑を眺めた。


「ヒロシさん、早く鼻を拭いてくださいな」


「おとうさん、鼻水たれてるわ。風に吹かれて揺れてるわ」


「おとさん、ばっちい」


「おお、ソニア済まない。鼻水が暴発したのは久しぶりだ。はっはっは。あと、ロイよ、ばっちくないぞ。いやちょっとばっちいか。だがもう大丈夫だ」


 そう言いながら俺はソニアから紙を貰って鼻を拭くのだった。


「まあ、こちらも大方終わりだ。明日にはロングフォードへ戻ろう」


「うふふ、そうね。今回は早く用事が済んで良かったわね」


「そうよ。ヒロくんはいっつも変な事に首を突っ込むと言うか、巻き込まれるんだから。今度こそロングフォードから動かないわよ」


「そうだな。その頃にはクルーザーも出来てるだろうから皆でゆっくりと休みを満喫しよう」


 そんな事を言いつつ俺は皆と笑いながらリンクルアデルへ戻ってからの休暇について、あれやこれやと思いを馳せるのであった。


 その時、キビサトの向こうから砂煙が上がり徐々にこちらと近づいてくる馬車にサティが気が付いた。


「あら? なんだか馬車がすっごいスピードで向かってくるわね」


「そうねぇ。誰かしら?」


「ん?」


 俺はシェリーとロイを小脇に抱えながらそちらの方へと目を向けたのだった。


 少しまた背筋に冷たいものが走る感覚と共に。




お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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