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よろしくお願いします。

 アネスガルドの通達。


 それは援助物資の返還である。そもそも援助とは名目だけで、背に腹は代えられないセントソラリスにアネスガルドは毎年一定額の金品の受け渡しを条件に援助を申し入れていたのだ。


 セリーヌは流石に驚きアネスガルドに対して抗議を行った。しかし結んだ契約書を再度確認してみると、そこには確かにそう記されていたのだ。それは援助と呼べるものではなくただの借入と言えるものであった。


 おまけにブリザードがここまで長引くとは流石に予想をしていなかった。むしろ年々酷くなる被害に対処する事が難しくなってきており援助を断る事も出来ない状態である。


 一昨年と昨年に続き、援助物資の代金を満額支払いできなくなってきている状態に、アネスガルドより書簡が届いた。そこに記されていた内容はとても許容できるものではなかった。


『金品による支給品返還が行われない場合、支給物資の全品回収またはそれに応じたセントソラリスの領土を段階的に引き渡すべし』


更に驚かせた一文がある。


「その両方が満たせぬ場合は、どちらか一方の王女を人質として差し出すこと」


 これがアネスガルドが出した要求であった。要求する土地の広さはおよそセントソラリスの30%以上にあたる。


しかも支払いは現在進行中で滞っているのだ。彼らが要求する面積は更に大きくなるだろう。かといって、王女を差し出す訳にはいかない。


 女王セリーヌは悩んだ。契約に基づいてアネスガルドは要求している。とりあえず物資の返還を考えるが状況はそれを許さない。思い悩むセリーヌは徐々に元気をなくし部屋へと籠りがちになった。


 その状況を間近で見ていたのが、第二王女であるカミーラ・オルノワである。彼女は聖女として国民からの指示も高かったが教会での職務が多く、そのため内政や外交などに通じている訳でもなかった。


 王城へと上がるたびに第一王女であるナディアから話は聞くことはすれど、自身で何かできる事は何もなく、彼女もまたナディアと同様セントソラリスの未来を憂いている事しかできなかった。


 アネスガルドの要求は日増しに強くなって来ている。一年後の期限に完済できない場合は武力をもって領土を制圧する事も辞さないと言ってきたのだ。こちらに非がある以上、武力をもって応じる訳にもいかない。


 かと言って金品も食料もとても一度に返済できるものでもない。今セントソラリスは極寒の北の地で存亡の危機を迎えているのであった。


 しかしそこで転機が訪れる。


 カミーラに神託が降ったのだ。


 神託の内容は直ちに女王へと届けられ、王女や内務卿を始めとする大臣達の耳にも入る事になる。


 その神託の内容とは、ただ一言、


『国を救いし英雄から知恵を借りろ』

 

 であった。


 その抽象的な内容に女王をはじめ大臣達は肩を落とした。それもそうだろう、そんな者がセントソラリスにいればとうの昔に立ち上がっているはずだ。仮にいたとしても今の状況をどう改善できると言うのだ。


 神託の内容を聞いたナディアはドルスカーナの可能性を示唆した。もしかしたらこの国ではないかも知れない。他国から助けが入るのかも知れないと。事実ドルスカーナやリンクルアデルでは英雄らしき人物が現れたと吟遊詩人も詠っていると。


 しかしアレスガルドからの仕打ちを受けたセリーヌ女王の返事は冷たかった。英雄は元より他国など信じられないと。既にドルスカーナへは何度も書簡を出しているにも関わらず返事が来た試しはない。


 ブリザードの影響もあって前回の礼も出来ていないこちらに非があるのは認めるが、そのような国家間の状態で何を頼めばよいと言うのかと。そもそも英雄など居た所でどうしようもないと。今求められているのは武力ではなく物資なのだ。


 話を聞いていた内務卿のバドリーも同意見であった。これは隣国ではなく自国で解決すべき問題であると。もし借金が無くなるのであれば領土を差し出す事も悪くはないのでは? とまで言い出す始末だった。


 セントソラリスの内務卿バドリー・グラハムは長くセントソラリスの屋台骨を支えてきた男ではある。しかし長く続くブリザードの被害に耐えることが出来ず、アネスガルドからの援助に後ろ向きだったセリーヌ女王を説き伏せたのも彼であった。


 今回のアネスガルドのからの要請に難色は示すものの、領土の一部を差し出すのも致し方ないとまで言い切る彼の事をナディアは好きにはなれなかった。


 もちろん代案の無い反対はただの言い掛かりに過ぎない。ナディアは自分でそう分かっているだけに、自分の能力の無さを呪った。もうアネスガルドの手はそこまで伸びてきているのだ。


 ようやくブリザードが収まりを見せ、これから返済を進めて行こうとした矢先の申し入れに誰もが驚きながらもどこか諦めたような雰囲気が漂う。セリーナは見るからに疲弊仕切っており、ナディアは何とか愛する母を助け平和なセントソラリスを取り戻したかった。


 一方、聖女としてまだ未熟なカミーラも自身の実力の無さを嘆いていた。もっと自分に実力があればもっと詳しく内容が分かったのではないかと。未熟なカミーラでは神託を全て受け切れる体力と精神力が宿っていないのだ。


 まだ成人すらしていないカミーラですらここまで責任を感じているのだ。それに対してなんと私の不甲斐ない事か。ナディアの胸で泣くカミーラを優しく抱きながら、彼女は一つの決心をする。


 『ならば、私が直接ドルスカーナに行って確かめる』と。


 それはドルスカーナにナディア・オルノワが訪れる数日前の事であった。



--------------------------------------



「セントソラリスがそのような事になっておるとはな......」


 流石にダルタニアス王は下らぬ事だとも言えず、ナディアを見つめた。自国の弱さを他国へと伝えるのはどれだけ辛い事か。肩を落とすナディアにダルタニアスは声を掛けた。


「セリーヌ女王はお主がここに来ている事は存じておるのか?」


「はい......二人の時に話をした際にはよろしく頼むと。流石に今の状況で国を空ける事も出来ないので......」


 そこで横で聞いていたシュバルツが口を開いた。


「よろしく頼むと言ったのか? 前向きではなかったと言っていたではないか?」


「そこは何とも......母も疲れているのか......でも間違いなくよろしく頼むと」


「そうか。で、どうするのだ? 困り果てた王女を処刑しようとしたダルタニアス王としては?」


「人聞きが悪い事を言うな! 意地の悪いやつだ、分かって言っておるな?」


「はは、まあな。知らぬ仲ではないからの」


「あの......?」


「まあこちらの話だ、ナディア王女よ。今はドルスカーナはセントソラリスを見捨てぬという事だけ理解しておればよい。そうよなダルタニアスよ?」


「ふん、まあそう言う事だ」


「そして、リンクルアデルもな」


「そ、それでは......」


「まずは金額や援助物資の内容など詳しい事を教えて欲しいものだな。ダルタニアスよ、済まないが別室で待つゴードン内務卿を呼んでも良いか?」


「ああ、勿論だ。そうだな、ロッテンも呼んだ方が良いな」


 そう言うとダルタニアスは執事を呼ぶと関係者を中へ入れるように伝えた。


「本当にありがとうございます。両国家から助けが貰えるかもしれないなどと......夢のようです。お二人と今日お会いできた事はアザベル様のお導きです」


「喜ぶのはまだ早いぞナディア王女よ。協力はするが出来る事が果たしてどれだけあるのかが全く分からぬからな。もっと詳しく聞いてからとなる」


「それでも、それでも私は......」


 ナディアは零れる涙をこらえることが出来ず、嗚咽を殺して泣くのだった。




お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  あれこれ考えながら書いたてら、長くなってしまいました……(^^;λ  愚にもつかないと思われましたら、スルーしていおいてくださいませ_(._.)_  >感想  ん~、この章に入ってから…
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