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よろしくお願いします。
そうして俺たちは三日間をウエストアデルで過ごした。商業に関してはとりあえずワインの生産地として名を上げる事を目標にすることにした。後は流通だ。
よく考えたら船でロングフォードに送るにせよ毎回ドルスカーナへ送らなくてはならないのだ。そうするとドルスカーナへは当然それなりの費用を支払う必要が出てくるだろう。あくまでリンクルアデル内で完結させて、ドルスカーナへは輸送量が安く済むと言う事で安価で販売する方が得策だ。
うーむ、そうなるとやはり橋を架ける事になりそうだな。10日間の移動は流石にキツい。今回のように野盗に襲われる可能性もある。やはり橋をかけて通行料を取る、払いたくない人は遠回りをしてもらうか船での移動を考えてもらう。
これだな。コンセプトはロングフォードとアルガス(旧ローランド)を繋いだ時と同じにしよう。問題はどこに架けるかだがこれは帰りに考えるとしよう。まずはドルスカーナに行く事が先決だ。
リカルドさんは今後の資金繰りが楽になることもあってホクホクだぞ。ただでさえ陸の孤島扱いなのに橋を架けようかなと言う話をしたら、全面的に協力してくれると約束してくれた。
あとNamelessの支社を置くかもとお願いしたら、いくつでも好きなだけ建てろと言われた。一社で良いんですけど......いいのかリカルドさん? 信用してくれるのは嬉しいが俺の胃がまた少しキリリと痛んだ気がするぜ。
そうして、ある程度の先行きが見えた所で俺たちはドルスカーナへと出発したのだった。
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着いたのは良いが、直接レインヒルズへ向かって王城に入るのは流石に無礼だろうな。まずはサティの実家で一休みしてから誰か使者を出してもらう事にした。
街並みが特に変わったこともない。ここドルスカーナの郊外はのんびりした風景と雰囲気が漂っており俺はとても好きだ。......いや、待て。キビサトを育てているのかあれは? 以前まで雑草扱いだったキビサトが農地の真中で誇らしく茂っているぞ。
もしかしたら思ったより作業が進んでいるのかも知れないな。よく見たら遠くに見える農地までキビサトで埋め尽くされているかのようだ。気合が入ってるなダルタニアス王。
そして馬車に揺られることしばらく、俺たちはサティの実家へと到着したのだった。
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「お兄さま!!」
「うわぁ!!」
ドアを出てきたかと思えば彼女は俺に向かって一直線にやってきた。
今俺に抱きついているのが誰か分かるだろうか? いつもサティがやる三点ホールドではない。顔が胸へと擦り付けられているから、言うなれば四点ホールドか。
「ちょっと、アンタ何やってんのよ」
「サティお姉さま、お帰りなさい」
「え、ええ。ただいま。それより何やってんのよ。離れなさいよ」
サティはリリーの服を引っ張るがリリーが離れる気配はない。そう、彼女はサティの妹であるリリーである。どうしたのだこの変わりようは。俺はギリギリと締め付けられる体を懸命に堪えながら考えた。
「ぐぬぬ、離れなさい......よ!」
「嫌です! やめて、お姉さまやめて下さい!」
サティは両手でリリーの体を引っ張るが離れない。完全にホールドされてしまったぜ。どうすればいいのだ。するとソニアが横に来て言った。
「お久しぶりね、リリーちゃん」
「ソニアお姉さま!」
リリーは俺を離したかと思うと今度はソニアの方へと抱きついた。ソニアはよしよしとリリーの背中と頭を優しく撫でている。サティは呆然としているぞ。久しぶりと言うか初めてじゃないか、サティのこんな顔を見るのは。
「シェリーちゃんもロイくんもいらっしゃい。疲れたでしょう? さあ中に入って」
「はい、リリーお姉ちゃん」
「うん、リリーお姉ちゃん」
二人は向こうで待ってくれているブライトさんとシーナさんの方へと走って行って抱きついていた。何と柔軟性の高い子供たちだろうか。ご両親も小さい子供は久しぶりだからなのか嬉しそうだ。
メロメロパンチを多分に喰らっているに違いない。ご両親のしっぽは大きく左右に揺れているぞ。ここにいる間二人は贅の限りを与えられ甘やかされてしまうのか。ちょっと注意が必要だな。
前回はゴミクズ同然の扱いであったが俺の地位も少し、いや相当上がったと言えるだろうか。仮面の男についてあれこれ言う事は出来ないがな。とにかく良かったと思うことにしよう。
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レイナ達はトニーさんと細かい話をするとかで挨拶も早々に談話室へと入って行った。大まかで聞いた内容では、来る時に見た通りキビサトの生産は始まっておりもう少しで収穫できる所まで来ているとか。
シュガの実も問題はない。ロングフォードでは既に加工に入っており段階的に輸送は始まっている。現在はテスト期間みたいなものだが、生産が本格化すれば結構な量が行き来する事になるだろう。
この辺りもラザックが居ればなんとかなるとは思っている。問題は現在建築中の工場だ。フェルナンデス家は工場を持ち今後砂糖を生産していく事になる。
トニーさんは元々狐族の強種でありながら商業に興味があるという稀有な存在だ。恐らくその戦闘民族の血は長女に全て受け継がれたと思われる。とサティに言ったらぶん殴られたがな。はっはっは、間違ってないだろう? だが口は禍の元だ、気を付けよう。
とにかく、トニーさんは燃えているのだ。俺はその姿を見て心底応援したくなったのだった。そんなこんなで明日は工場を見に行かせてもらおうという事になった。
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