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よろしくお願いします。
「久しいのヒロシ卿よ」
「大変ご無沙汰しております。コーネリアス伯爵」
無事にウエストアデルへ到着した俺達は早速伯爵家へと出向き挨拶をしている。今回も前回同様、皆で伯爵家の屋敷に滞在して良い事になった。ありがとうございます。
「ワシの事は普通にリカルドと呼べと言っただろう? 余所余所しいのは無しだ」
「そう言って頂けると嬉しいです」
「ゴードン内務卿からも色々と話を聞いておる。其方はもうワシと階級も変わらんしの」
「いえいえ、私はまだ何も持っている訳ではありません」
「何を言っとるか。ゾイド伯爵の息子であり次期伯爵は間違いない。加えて国王陛下のメダルを持ち大陸でも有数の大商会の会長。嫁さんはドルスカーナ伯爵家とリンクルアデル伯爵家の御令嬢。正直、ワシがお前に敬語を使うべきか悩んでおる」
そうか......最近マスカレード系の話が多かったので忘れがちだが、それを除けても俺ってかなり偉いと言うか、特権階級っぽくなってきているみたいだな。本当に勘違いしないようにしないと。
ん? いまドルスカーナ伯爵家って言ったか?
「ドルスカーナは族長ですよ?」
「お前知らんのか? ドルスカーナはな、何やら新しい国家事業が立ち上がると言う話があり、それを機に階級制度をより明確化するために他国の階級制度を使う事が決定したんだと」
「へー」
「族長は伯爵家になる。ドルスカーナも今は国を挙げて変わろうとしておるようだな。リンクルアデルに追いつき追い越そうとしているのがよく分かる」
「ほー」
「それにリンクルアデルの英雄の話はお前も知っておるだろう? 前に族長の娘が誘拐される事件が起こってな。それを仮面の男が助けたと言うではないか」
「......」
「加えて、ダルタニアス王の演説の際に舞台でロイヤルジャックとの模擬戦にも参加しておる。英雄はドルスカーナの人間ではないのかと言うのが最近の噂だ」
「おおお」
「どうした?」
「いえ、そうなのですね? でも獣人なんでしょうかね?」
「分からん。が、吟遊詩人がそこらじゅうで詠いまくっておるわ」
「......そうですか」
「あと、聞いておるとは思うがお主自身も爵位がない訳ではない。ゾイド伯爵は男爵の称号も持っておるのだから、お主は儀礼爵位として男爵を名乗る事は出来るのだぞ?」
「陛下よりそのような話は聞いておりますが、階級制度には疎いもので......」
「それもゴードン卿が言っておったわ。お主は商売の方で尽力してもらった方が良いとな。政治の世界には入らん方が良いだろう。ワシもそう思う」
「ありがとうございます」
「まあ、上手く使い分ければよい。ズルいとかと思わぬ事だ。それが必要な時はある。そしてそれをお前は持っている。それだけの事だ」
「畏まりました」
「まあ、国王のメダルを持っているのだ。名乗らずともそれを見せれば問題は片付くだろうがな」
「返した方が良いのかなとも思ってますが」
「バカ者。そんなものは返せと言うまで持っておったら良いのだ。悪用したいと考えている訳ではあるまい?」
「もちろん」
「なら気にすることは無い」
「承知致しました」
良いのかな? でも良いのだろうな? でも、いきなり返せって言われても悲しい気分になりそうだが。
その後、レイナたちも交えてワインの話となった。ワイン農家は諸手を上げて喜んでくれているようでこれだけでウエストアデルは大きな利益を上げる事になる。ほとんど流通しておらずワイン農家と言えど街で兼業していたくらいだからな。
リカルドさんにはここはワインの名産地として売り出す事を既に話している。実際他所でワインを主に作っている場所はないのだ。ここからロングフォードに仕入れてNamelessが各地に向けて販売を行う。
ラザックには悪いが輸送関係は全て任せるつもりでいるからな。最初は大変だろうが上手くやってくれ。
「社長」
「どうしたレイナ?」
「今ワインの産出量と消費量を考えておりましたが、ウエストアデルはワインだけで十分な売上げを確保できるはずです」
「そうなの?」
「ええ、Namelessが仕入れてからの売り先は既にリンクルアデル中にあります。今後社長が考えているワインの位置付けですね......ええとランクに分けると富裕層は放っておかないでしょう」
「そうなれば良いなとは思っているが、上手くいけばの話だぜ?」
「間違いないでしょう。飲むため、見るため、見せるため。高級ワインは飛ぶように売れるはずです」
するとリカルドさんが話に入ってきた。
「そうなのだ、ヒロシよ。お前のお陰でウエストアデルも持ち直すことが出来る。しかしワインが売れるとはなぁ。世の中分からんものだ」
「まあ、皆知らないだけですからね。売れると思いますよ。それには売り方を考える必要も出てきます。それをNamelessはお手伝いしているだけです」
「そうか、他にあるか?」
「今はまだ。しかしワインだけでも十分な利益が見込めそうです」
「そうか、それは本当に有り難い。アデリーゼへの税金も滞るのではないかと心配しておったからな」
「今はまだありませんが、お願いしたい事はあります」
「何でも言ってくれ」
「ワインの農家ですが、その農家ごとにボトルにラベルを貼ってくれませんか? 例えばリカルドファームとか、ヒロシファームとかです」
「それにどんな意味があるのだ?」
「毎年、アデリーゼで品評会を行いたいと思います。そこで各農家から秘蔵のワインを出品するのです。特権階級や富裕層がワインを飲み、これをテイスティングと言います。そこでワインのランクを決めるのです」
「なるほど」
「仮に今年はリカルドファームの赤ワイン。名前はそうですね、レッドティアにしましょうか。これが品評会で一位を取る。当然皆これを欲しがるでしょう。そして農家は同じレベルを作る必要が出てくる。何年も一位を取り続けたらどうなると思います?」
「どうなるのだ?」
「ブランドになるんですよ」
「ブランド?」
「はい。リカルドファームのワイン、その中でも品評会で金星を挙げたレッドティア。それだけで高値で取引されるようになります。高級ワイン醸造商会が作る至高の一品。これが持つ威力は絶大です。富裕層は金に糸目は付けないでしょう」
「素晴らしい。流石国王のメダルを持ち国家御用達商会の称号を持つだけある。礼を言うぞヒロシ卿」
「大袈裟ですよ。それにまだ机上の空論ですからね、これからも協力をお願い致します」
「もちろんだ、何でも言ってくれ」
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