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よろしくお願いします。
と言う訳で帰ってきたぜロングフォード。
「いやぁ、やっぱり我が家が良いなぁ」
「おじいさまはお屋敷でも良いって言ってたけどね」
「そう言うなよソニア。やっぱ、ロングフォードの家って言ったらここなんだよな」
「新しく家を建てるとか言ってたじゃない」
「サティ、巨大な屋敷がもう二つもあるのだからここで十分だろう? 俺は意外と庶民だったって事がよく分かった。ここでも十分過ぎる位なんだよな」
「まあ確かにそうね。ここでも広いくらいだと思うわ」
俺たちはじいさんの屋敷に戻らず商会へと帰ってきている。何と言うか住み慣れた我が家だ。やっぱりここが良いぜ。今回は飛行船は断ってバイバスを利用して帰ってきた。途中のホテルで一泊して子供たちもご満悦だ。疲れたのか早速寝てるけどな。
明日はゆっくりと休んでラザックとは明後日に会うことにしよう。俺はメイドに明日ラザック家へ日程についての伝言を頼んだ。レイナたちにも明日は休むように言ってある。アイツらホント働き過ぎなんだよな。
とにかく一段落だ。ドルスカーナも大方準備が整っているだろうからこのまま上手く着地できることを祈るのみだ。今後の予定はドルスカーナでの事業開始とその他諸々、その後バルボアでの設備点検とクルーザーの試乗。まずはこれをキッチリと終らそう。
そんな事を想いながら俺もベッドへと入るのだった。もちろん三人でな。ムフフ。
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大森林を北へと北上し大きな山を越えるとそこは一面の銀世界が広がる。大森林と山に囲まれたこの地には短い夏と長い冬が存在する。南部のドルスカーナ、中部のリンクルアデルと位置付ければここは最北端と言えるだろう。
山々に隔絶された地域には北部独自の文化が根付き、その地に住まう民は厳しい冬に耐えうるだけの知恵と逞しさを持っていた。
そのとある場所、ある建物の一室で。
「どうだ? 詳しい事は分かったのか?」
「いえ、それが黒い恰好をした仮面の男と言う事以外何も」
「リンクルアデルで英雄と呼ばれ、ドルスカーナでは賓客として民の前に姿を現しているのだぞ? そこまで情報がありながらなぜ正体が掴めぬのだ?」
「本当に知らないのか、秘匿されているのか。どちらかだとは思いますが深く聞き出すと怪しまれる可能性もありますので......」
「そうか......だがその者とどうしても会わなくてはならないのだ。事は急を要する、それはお前も分かっているだろう?」
「は、もちろん心得ております」
「仕方があるまい。まずは恐らく事情をよく知る人物から直接話を聞くしかあるまい」
「その人物と言いますと?」
「ドルスカーナでは賓客として招かれておるのだ。その主催者であるダルタニアス王に決まっておろうが」
「しかし、ダルタニアス王が素直に我々の言う事に耳を貸すとは思えませぬが」
「分かっておる。しかしこのまま何もせぬままでは手遅れになってしまう」
「確かに。万が一のためにドルスカーナへ応援を頼むのも一つの手でございましょう」
「問題はドルスカーナが都合よくこちらの願いを聞いてくれるかどうかなのだがな」
「確かにドルスカーナは情熱的ではありますが、反面気分屋とも言えますからな」
「そうなのだ。しかしダルタニアス王はリンクルアデルの賢王とも仲が良いと聞く。上手くリンクルアデルとも話が出来れば幾分話も通じやすくなるとは思うのだが」
「我々はこれまで他の国との外交関係を積極的に築いておりませぬ故、最初は警戒もされるかも知れません。相手にされないかも知れない可能性もあります」
「手前勝手と言うのは重々承知だ。だがどうしても......」
「そうですな......ここで可能性を説いても仕方のない事かも知れません」
「この二国の協力が得られなくとも、せめて黒い男に関する情報だけでも教えてもらいたいものだ」
「しかし神託では黒い男とは言っておられなかったのでは?」
「『国を救いし英雄から知恵を借りろ』吟遊詩人の誰もが謡う英雄だ。その男しかおらぬだろう?」
「確かにそうではございますが......」
「奴らががもしその気になれば我が国は負けはせずとも甚大な被害は免れぬ。一国ではどうにもならぬのだ。協力してくれる仲間が必要なのだ。引き続き出来る限り黒い男の情報を集めるのだ。そしてドルスカーナのダルタニアス王へ書簡を用意せよ」
「畏まりました。しかし書簡はもう何度も届けておりますが、未だに一度も返事が来たことはありません」
「私が直々に行こう、それなら無視も出来まい。母上には話を通しておく」
「しかし、そのような事......」
「構わぬ。私が出向いた事で我が国が下になると言う訳ではない。準備が出来たら直ぐに発つ」
「それでは気球を用意させますがよろしいでしょうか? 流石に貴方様が徒歩であの山々と大森林を抜ける事は許されません。何より時間が掛かりすぎますでしょう」
「アレを飛ばすには莫大な費用が掛かるのだ。そんな事をして民への負担が大きくならぬのか?」
「一度や二度では問題ありますまい」
「今までの使者が大森林で命を落とし、その書簡を届けることが出来なかったと言う事もあるのではないか?」
「時間は掛かりこそすれ、幸運にも今のところ全員が戻ってきております」
「そうか、無事ならば良い。書簡はやはり王に直接手渡す事が肝要という事か。とにかく手配を頼んだぞ」
「......畏まりました」
男は一礼をすると静かに部屋を後にした。一人残された彼女は軽く溜息を一つ吐くと、窓に映る自身の姿を見た。そして窓へと近寄るとそこから舞い落ちる雪を眺めるのだった。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。
気に入ったプロットが出来ず書いては消しての繰り返しです。
もう少しノリはじめたら投稿回数を増やせるかと思います。
すみませんがもう少しこのペースで続けさせて下さい。