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クルーザーを見た俺たちはスバンと別れ屋敷へと引き上げてきた。ラザックとNamelessの皆はついてきているぞ。そしてそのまま談話室に入り今後のことについて話をしている。
「と言うわけで一旦ロングフォードへ戻って、ドルスカーナへと行くことになる。エミリアを中心としたアルガスチームは引き続きクルーザーとエステに注力してくれ。レイナチームは俺と同行してドルスカーナでの商会立ち上げに尽力してもらうことになる」
「了解致しました。クルーザーは直ぐにでも製作に掛かりますが、出来上がり次第連絡致します。工期はそうですね、数か月はかかるかと思いますけど」
「それぐらいで丁度良い。出来たらすぐにドルスカーナの事務所あてに伝書鳩を飛ばしてくれ。レイナ、伝書鳩は直ぐにアルガスと連絡をつけることはできるのかな?」
「はい、そこは問題ありません。ドルスカーナで商会が開かれ次第手配致します」
「了解」
「あと、ラザック。ソニアから聞いたんだが卸をやっている業者に知り合いがいるそうだな?」
「卸ですか? はい、いくつか商会はありますけどね」
「その中で奥さん同士が仲が良い商会があるはずなんだ。何て言ったっけな、ソニア?」
「エスタって言ってたと思うわ」
「ロングフォードについたらその人をうちの商会、いや屋敷にするか。屋敷のほうに連れてきてくれるか? 少し話したいことがあるんだ」
「分かりました」
「ちょっとした食事会と思ってくれたら良いさ。奥さんもつれてくると良いよ」
「ありがとうございます。ソニア様とは懇意にさせてもらっておりますので家内も喜ぶでしょう」
「お前にはバルボアの件と復興に関してこっちに付きっきりにさせてしまったからな。奥さんにはその辺の謝罪もしないとな」
「いえ、バルボア復興に尽力できたことはラザック家にしても誉でございます。並居る貴族や商会が利権を奪い合う中に参入できたのですから。妻も感謝こそすれ迷惑など微塵も思っておりませんので、どうかお気になさらず」
「そう言ってもらえるとありがたいがな。まあとにかく戻ったら一度来てくれ」
「ヒロシさん、確かもう一人アロマや栄養剤をNamelessから直接買い付けている人もいたわ」
「そうなのか。そっちはそうだな、ウエストアデルとバルボアでの話が出来るか......ラザック、その人も分かれば一緒に呼んでくれて構わない」
「ええと、名前はヴァーリンだったかしら? とにかく三人でいつも行動しているそうよ」
「畏まりました」
「後は......そうだな、陛下とゴードンさんに挨拶だな」
「陛下からはいつでも来いって言われてるから、いつでも大丈夫よ」
「まあ、俺はそうでなくても最近行ってるからなぁ。よし明日にでも行こう。それでロングフォードに戻るのは明後日にするか」
そんなことを話して今日の所はお開きとなったのであった。俺はその後爺さんと話している。
「そうか、ドルスカーナへな。まあ一度行って状況を見ておくべきだろう。しかしお前もあっちこっちと忙しいのう」
「まあ、暇で何もする事がないよりかは良いと思ってるよ」
「それでの、お前の住むところ、つまり拠点となる場所じゃな。アルガスとロングフォードとどっちが良い?」
「うーん、拠点としてはどっちが良いのかなぁ。基本的にはどっちでも良いんだけど、じいさんの居る方が良いな」
「そう言ってくれるのは嬉しいがの」
「基本はロングフォードで良いんじゃないの?」
「まあアルガスはすでに完成しておるしの。特に向こうで住む必要はない。移動も楽になったので以前より行き来し易くなったしの」
「俺もシェリーとロイの事があるから、あまり頻繁に移動したいと思わないんだよね」
「そうじゃろうな。では一応ロングフォードを拠点とするか。多少でもドルスカーナにも近いしのう」
「了解だぜ。俺は伯爵家の仕事は手伝わなくていいのか?」
「Namelessの稼ぎでロングフォード伯爵家は驚くほどの収益がある。今以上にする事などないわい。政治関連に直結する事はワシがやっておくから気にせんでも良い」
「そう言ってくれると助かるんだけどな」
「逆に何かあったら遠慮なく言うんじゃぞ? それこそ今更かも知れんがの」
「いや、じいさんの助けがないと俺は何をするにも自信がない」
「はっ、よく言うわい」
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そろそろ夕食の時間だろう。そう思いながら最後の封書を開けようとペーパーナイフに手を伸ばした時、執務室の扉が勢いよく開かれた。扉の向こうには我が娘アンジェリーナが立っている。
「アンジェ。急いでいるように見えるがドアはノックしてから開けるように」
「え、ええ。ごめんなさいお父さま。ちょっと聞きたい事があるのよ」
「まあ、大体わかる。明日の昼食会の事だろう?」
「ヒロシ様がやってくるのね?」
「その通りだ。明後日にはロングフォードへ戻るらしいからその挨拶だろう」
「やっぱり......戻られますのね」
「ドルスカーナ絡みの仕事もあるようだ。バルボアで大変だったろうに。ロングフォードへ戻ったら少しは休めと言ってやろうかと思うのだがな」
「わ、わたしも一緒に......」
「ならぬ」
「どうしていつもそればっかりなのですか! お父さまは意地悪です!」
「だから、そう意地悪意地悪と言ってくれるな。仮にも一国の王女がフラフラと諸国行脚が出来るわけないであろう?」
「でもでもでも」
「お前は毎日のようにヒロシとダンスの練習と称して時間をとっておったのではないか。 伝え聞いた所によると最後の方はダンスというよりお茶会の方に注力しておったと聞いておるが?」
「お父さまはそのようなスパイのような真似事を......」
「人聞きの悪い事を言うな。そのような事くらい自然に耳に入ってくるわ」
「じゃあ、ロングフォードに行ってもよろしいわよね?」
「何がじゃあだ。何の関係もないではないか。ヒロシとは十分時間を取れたのだから我慢をする事だ」
「お父さまのバカ!」
そう言うとアンジェはそのまま走って行ってしまった。彼女が明るく元気に、そして活発になった事は王としても、親としても本当に喜ばしい事だ。そうだ、彼女もまた失われた時を取り戻したのだ。そう思えば多少のわがままは親としては聞いてやりたいのだがな。
そう思いながら私は最後の封書をナイフで開けると中を確認した。
「おお、これは......」
私は手元の呼び鈴を鳴らすと執事を呼んだ。
「ゴードンを呼べ」
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