258
よろしくお願いします。
レイナがやってきた。エミリアも一緒だったようで一緒について来ていた。そして秘書だろうか? 何人かの女性も一緒だな。全員がキャリアウーマンに見えるぞ。
「社長、大変お待たせ致しました」
「いや、いいよいいよ。いつもご苦労さま。じゃ、早速クルーザーを見に行こうか」
「はっ、お供させて頂きます」
入口の前にはスバンが待機していた。
「お、スバン。久しぶりだな、案内してくれるのか?」
「社長のお越しを社員一同首を長くしてお待ちしておりました。さあ中へお入り下さい」
スバンの言葉遣いがおかしい事になっている。お前元船乗りで、へい、何とかでさぁ口調だったよな? 大丈夫か? それをみて大きく頷くレイナとエミリア。あとをついてくる秘書陣はメモを片手について来ている。
入ったらいきなりロビーのような場所になっている。天井は高くシャンデリアがいくつもぶら下がっている。床は板張りの上に高級そうなカーペットが敷かれている。廊下も広くとっており腰辺りまでは板張りだ。
備え付けの手すりから上は明るい基調の板が綺麗にはめ込まれている。所々窓を取り付けまた、所々に飾り棚を備え付けている。
「へえ、すごいな。入っただけで既に俺は感動しているよ」
「勿体なきお言葉です社長。まずは受付で部屋のカギを受取るのですが、今回は全ての部屋を見れるようにしておりますので鍵は不要です。貴重品等が無ければ右から出も左からでも、真中からでも好きな方からお進み下さい」
「受付は誰が利用するんだい?」
「基本は部屋でご自分で貴重品を管理できるのであれば名簿への記帳と部屋のカギの受取りですね。あと案内係も兼ねておりますので困った際にはこちらへいらしてもらえれば全て対応できます」
「すごいな、ホテルみたいだ」
「ゾイド様のホテルを参考にさせて頂いております」
「へぇ、じゃ右から行ってみるか」
ロビーを出て右側へと歩き出す。基本的に船内の廊下と船外の廊下、どちらでも歩けるようになっているようで、所々に出入り口が設けられている。船外の廊下と言ったが、通路ではないな。言い方が難しいが外みたいなもんだ。でっかいプールサイドを歩く感じかな。
「このエリアからは景色を眺めるもよし、釣りに興じるもよし。そんなエリアです」
「ふーん、これだけ広いとゆっくりと休めるね。よし、ここからは外に出よう」
と言いながら外を歩く事しばらく。見事な風景だ。狭い船ではないのでゆっくりと歩くことが出来るし、揺れもほとんど感じない。酔っぱらっても海へ落ちないように柵の作り方も完璧だ。
そして船首の方へと歩いて行って俺はアゴが外れる所だった。手前には何十人がくつろげるのかという程のリビングセット。ソファなんて何個置いてあるんだこれ? その奥には大きなプール、プールサイドにはドリンクバーをはじめとしたベッドやサイドテーブル。
「レイナよ」
「はい、社長」
「俺、ちょっとビックリしちゃってるんだけど」
「くっ、やはり小さすぎましたか?」
「違うわ!」
その後、下に降りて行くと下にもプールがあった。食堂、大広間、団欒するスペース。会議室、至れり尽くせりだ。部屋は当然のようにデカく各部屋にはシャワー室が設けられている。ハッキリ言って、この部屋だけで十分に感じるのだがな。
かなりの時間を要して俺たちは会議室へと戻ってきた。
「如何でしたか社長?」
「そうだな、まずレイナの考えを聞きたいな」
「実は言い難い事ではあるのですが、社長のご家族のクルーザーとしては少々出来上がりが大きすぎたとは感じておりました。それで先ほどの社長の言葉を聞いてやはり大きかったかと」
「ふむ」
「更に違うクルーザーを作る事を考えたのですが、このクルーザーを見てもらってから話しを進めようかと。次に作るとしても、じゃあこの船をどうするかという問題もありますし」
「なるほどな。まあそう言う事だよ。まずは良くやってくれた。この出来栄えは俺の想像をはるかに超えている。もはや完璧と言って良いだろう。これ以上の装備を俺は望まない。あったとしてもだ。海の上という限られた空間の中で多少の不自由があっても良いだろうと思うからな。まあ、この出来なら早々見つからんだろうが」
「ありがとうございます」
エミリアや秘書たちは拳を握って小さくガッツポーズしているのが見えた。だが、悪いな。俺が本当に言いたいのはここからだ。
「だが、これを伯爵家として使う、またはNamelessとして使うと言った場合は俺の意見は少し違う。まさに今レイナが言った通りだ。なんと言うかな、はっきり言うと豪華すぎるのだ」
「はい」
「だからと言って、これが悪いと言う訳ではない。ただ少し俺には分不相応と思うんだよな」
「ではどうしましょうか?」
「そうだな。実は設備やコンセプトは非常に気に入っている。そうだな、これより半分ほどの大きさにしよう。それなら家族とNamelessの従業員を多少乗せても十分走れる。他の従業員は観光船に乗るようにすれば良いだろう」
「分かりました。コンセプトはこれを元に改善を重ねたものを装備します」
「はは、ほどほどにな。理由はもう一つある」
「それは?」
「あまり目立つ事をするとな。どうしても妬みとかやっかみが出てくるんだよ。一部の特権階級や富裕層は俺たちのクルーザーより少し上を買える、という位の設定にしておいた方が良いのだ」
「なるほど、お見それいたしました」
「そうすることで敵は減らせるわけだ」
「それではこの船はどうしましょうか?」
「その敵を減らす事に最も効果のあるお人に買ってもらうとしよう」
「それは?」
「近い内に話すさ」
そして俺は、これからこのクルーズ船はビジネスになる事をレイナとエミリアに説明した。そしてこの船を基準に、ロイヤルパレス級、パレス級、ガーデン級、ヤード級、一般級と5階級に分けるように指示した。
ロイヤルパレス級のこの船の半分のサイズがガーデン級、つまり新しくできる俺の船になる。お金持ちはパレス級をご購入頂いて優越感に浸ってもらおうと考えている訳だ。俺がガーデン級を持つと言うのが一つの指標となるだろう。
更に、ロイヤルパレス専用停泊所をプラチナ、パレスとガーデンはゴールド、ヤードがシルバー、一般は一般停泊所。そのようにランクごとに停泊所の設備を変える事も合わせて指示をした。何を置いても特権階級と富裕層が好きなのは何か? それは先ほども言ったが間違いなく優越感なのだ。
ここを上手く刺激すればモノはいくらでも売れる。いやらしい考え方だけどそれが事実なのだ。
お読み頂きありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。