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よろしくお願いします。
近々砂糖事業の件でドルスカーナに行かないといけないと思っている。向こうもやる事が多いから丁度良かったとは言え、俺はバルボアの件で付きっ切りだったからな。レイナの話では、事業を始めるにあたりこちらは事務所というか倉庫を決める事くらいらしい。
それだけで良いのか? と言うかレイナはいつの間にそっちまで手を回していたのだろうか。前にレイナは二人いるのではないかと思ったが、もう少し多かったとしても驚かないぞ。
「ふむ。それではヒロシよ、今度はまたドルスカーナへ行く事になると。そう言う事か」
「はい、砂糖事業の事も気にはなっておりますので」
地獄のダンスレッスンが終わり、俺は陛下達とお茶を楽しんでいる。正式な伯爵でもない男が両陛下と王女様までいる中でお茶など飲んでよいのだろうか?
大臣クラスでさえそんな機会はそうそう無いというのに。ゴードンさんはもう今となっては気にする方がおかしいと言っていたが、俺は勘違いをしないように日々心掛けなくてはならないだろう。何度も言ってるけどな。
「確かに砂糖も大事かとは思いますが、それより聞きたい事があるわ」
「なんでしょうか、マリー様」
「レイナから聞いたのですが、あなたアデリーゼにエステを開くことを考えているようね? それはいつになるのかしら?」
おい、今サラっと爆弾発言をしたよな? エステじゃないぞ? もちろんそれもあるが、今『レイナから聞いたと』言ったのか? アイツ、まさかマリー様とのパイプを作り上げたと言うのか? Namelessの副社長ではあるが、あくまで一般市民だぞ? 恐ろしい、どんな手を使ったと言うのだ。
「あら? 何か不思議そうな顔をしているわね? レイナの事かしら?」
「あ、あう」
「彼女はリンクルアデルを代表する商会、Namelessの副会長、あなたの言葉で言えば副社長ね。もはや彼女は富裕層で言えば間違いなくトップクラスにいるのよ? 社交界に顔を出すのは当たり前でしょう? 」
そう言われてみれば......そうなのか?
「彼女の社交界における立場は相当なものよ。そしてそれを周りに示すだけの存在感、振舞い、全てにおいて完成されていると言っても良いわ。流石Namelessの副社長を任されるだけの事はあるわね」
その上司である俺は、社交ダンスが踊れずに地面に転がっているわけだが。
「ご迷惑をお掛けしていなければ良いのですが」
「そんなことは無いわ。偉ぶることもなく商会の長である貴方を常に立てようとする態度が素晴らしいわね。知識も豊富だし、話していてとても楽しいわ。エステの事もその時に聞いたのよ。この私に対して社長の判断ですので約束は出来ませんと言っていたわね」
お前はお妃様に対して何ちゅう事を言ってるのだ。嘘でも良いから約束しろよ。首が飛ぶぞ。
「お気に触ったのであれば大変申し訳ありません。全ては私の責任でございま......」
「気に入ったわ」
「え?」
「社長の号令が掛かれば明日にでもオープンできると言っていたわ。私に対する回答をその手に持ちながらも貴方を立てるその器量。そして毅然とした振舞い。貴族にしても良いくらいだわ」
「そ、そうですか」
「そうよ。その時から必要な時は私のテーブルに呼ぶようにしているの。それは他の社交界の者達も含め既に周知の事実よ?」
マジか。女性陣が座るテーブルが何人掛けかは知らないが、そういうテーブルは何と言うか派閥があるのだ。お妃様と言う女性の頂上にぶら下がる形で多数の派閥が存在する。
お妃様のテーブル。それはやんごとなき立場の人や派閥のトップのみが着席できる特別な席。レイナはそこに呼ばれることがあると。他の女性陣からすると垂涎の的だろうな。
うーむ、済まないなみんな。その辺りは任せっきりだぜ。
「言いたいことは分かってるわ。貴方はそれこそお忙しいでしょう。伯爵家からはゾイドとソニアが、商会からはレイナが。皆が十分にその役割を果たしているわ。それ以外にも今ならあなたを呼ばなかった理由も分かりますけど」
そう言うとマリー様は口を手で隠してクスッと笑った。おのれぇい!
「なんと言いますか。ソニアありがとう。ちなみにソニアは普段はレイナと一緒なのかい?」
「私はマリー様と一緒に座ってるから」
ソニアは既に天元突破を果たしていたか。流石としか言いようがない。
「そうか、ソニアにもレイナにも面倒をかけるな」
「うふふ、良いのよ。でもいつか違う殿方ではなくヒロシさんとも踊りたいわね」
「え? 踊ってるの?」
すると、マリー様がすぐに反応した。
「当たり前でしょう、伯爵家の御令嬢が壁の花になるなどあってはなりません。それ以上に紳士たちが放っておきませんし」
「それもそうですね」
「だから貴方も社交界デビューをしたらマナーとして他の女性をエスコートする必要があります」
面倒くさい。スマンが面倒くさすぎる。出来れば一番後回しにしたい仕事だぜ。だが任せっきりも本当に申し訳ないので、そこはちゃんと踊れるように頑張ろうと思うのだった。
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