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皆の過去とつながりが少し見えてきます。
「そのようなことが......な」
話を聞いたゾイドとセバスチャンはその過酷な話に言葉が出ない。こういう話はこの世界には多くあるのは事実だ。
しかし自分の関係者、となるとやはり思う所もある。クロードという幼子をセバスが連れてきて執事の教育を始めた事は当然知っている。
しかし、この数年間執事として成長を続けるクロードの中に、これほどまでの激情が宿っているなど全く知らなかった。クロードは自ら金を貯め、力を手に入れ盗賊に復讐を果たすために死に物狂いであらゆる知識を得ようとしていたのだろうか。
ヒロシはどの段階で気づいたのだろうか。クロードが起こした事件の渦中にいたから、その行動に何かを感じただけなんだろうか。
『セバスさんがじいさんの要望に応えて自信をもって紹介したのがクロードだ。そんな男がいきなり男爵家令嬢の前で喧嘩を売るなんて普通あり得んだろう』
確かにそうだ。冒険者などアルガスの街には腐るほどいる。クロードが冒険者とこれまで交わらなかった訳ではない。普段は普通に接している。なのに何故、今日この日だけはこのような行動に出たのか? 答えなど出ようはずもない。
それでもゾイドはしばらく考えてからクロードに言った。
「何故、ワシがヒロシを手元に置いているかについて......じゃな? よかろう話してやる」
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ゾイドの曾祖父にあたる人物。名をグルドと言った。
グルドは山で猟をしながら、取れた毛皮を売り、肉を食べ庭に小さな畑を作り毎日を暮らしていた時には川で魚を取り、山で山菜を見つけたりしていた。
家族はもう他界しており、未婚の彼はこのアルガスの山奥で一人暮らしていた。グルドは冒険者でもあった。山で十分暮らせているので金が必要な時以外はギルドに行くこともなかった。
ただグルドの腕っぷしの強さは地元では有名で、大きな討伐依頼が出た際にはギルドは真っ先にグルドに依頼を届けていたという。
ある日、グルドは夢を見た。
年頃の女性が森の中の大岩の上で倒れている夢だ。狩りをした後に汚れを落とす川の近くで、いつも服と獲物を置くあの大岩だ。
そして夢の中でグルドは満月が一本杉にかかるのを見たところで目が覚める。随分とリアルに思える夢だった。現実のようだったとグルドは思った。
その日を境にグルドは毎日同じ夢を見るようになる。
グルドはこれはもしかして神のお告げか何かではないだろうかと考え始めた。今夜の月の状態からすると明日か明後日には月は奇麗な真円を描くだろう。しかしグルドは月の満ち欠けに詳しい知識を持っているわけではない。
これを神のお告げとするならば、『間違えました』では許されないような気がした。グルドは今日から一本杉が見える大岩の横で野営を開始することにした。
夢の話を真に受けて自分がバカだと思うが、崇拝する創造神アザゼル様からの啓示かも知れんとグルドは余計な事を考えるのは止めた。
その日と次の日は特に何もなかった。月はほとんど奇麗な円を描いているが。もしや来るのが遅かったのかとも考えたが、もう数日はこの場に居ようと考えた。そしてその日は来た。
満月が一本杉にかかろうとするその時。多くの野生動物や魔獣が一斉に吠え始めた。遠吠えのような声も聞こえる。飛び起きたグルドは辺りを警戒しながらテントから出てきて驚愕した。
大岩の上に女性が倒れている。
どこから来た? いつ来た? テントに入る前には居なかったはずだ。眠ってからもそんなに時間は経っていないはずだ。グルドは恐る恐る近寄ると女性の顔を覗き込んだ。
生きている。
髪は黒っぽく長い。見たことのない服を着ている。グルドは辺りに聞こえる獣たちの声を聞き早々に家に戻ることにした。
夜間の移動は本来避けるべきだが、グルドは獣達の意識が他に向いている間に移動した方が良いと考えた。グルドは皮袋に薬草を詰め込むと、戦斧を背負い、娘を抱き上げ急いで家へと向かった。
次の日、目を覚ました女性は最初何を話しているのか全く分からなかったが、何故かすぐに言葉を話せるようになった。名前はロザーナと言った。
行く当てのないロザーナを街に連れていき、紆余曲折を経て結局グルドの家で住むことになった。当時は市民パスなどない時代なので冒険者登録をするだけで済んだ。国境間の出入りもまだそんなに煩くない頃だったのが幸運だった。
男女の共同生活はやがて恋へと発展し、その形を愛に変えた。
2人目の子供ができた頃、グルドは領主のオーガの討伐依頼を単騎で達成する快挙を上げる。褒美として士爵を下賜されロングフォードの家名を授かる。
それを機にグルドは街へと移ることを決め、このアルガスの街にロングフォード家の礎をつくったのである。
士爵は基本当代限りであるが、ロングフォード家の人間は何かで武功やリンクルアデルの発展に影響を及ぼし次代もその次も士爵としてアルガスの街に根付いていく。
そして今代でゾイドが男爵になりロングフォード家はアルガスの街でその名を不動のものとしたのである。
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これがワシの知るロングフォード家の歴史じゃ。
物語はゆっくりとですが動いていきます。
お読み頂きありがとうございます。