254 奇跡
よろしくお願いします。
その後、無事に式典も終わり俺たちは控室へと戻ってきた。実は俺とクロ、シンディは舞台から出た後にそのまま控室に戻ってきていたのだが。言い訳としては俺が体調不良、クロは看病、シンディは護衛って事にしている。
その連絡を受けたじいさんとソニア、サティが式典が終わると、俺を心配して(と言う事にして)、すぐにこちらへと戻って来た訳だ。他の偉いさん方々はまだ席上で他の関係者たちと談話中であるとの事。だけど陛下もいるので早々に切り上げて引き上げてくるだろうとの事だ。
そして、陛下達が戻って来るのを待つ間、じいさん達と一緒に今は反省会の途中である。
「でね、クロちゃんよ。俺はね、お前の煙幕のタイミングは早すぎたんじゃないかって事が言いたいわけよ」
「そうですかねぇ? 丁度良いと思いましたけど?」
「だってさ、陛下まだ喋ってたじゃん。話の途中でいきなりボカンだぜ? 良かったのかな?」
「あれ以上は引きずっても意味ありませんよ。あのタイミングが一番良いんです。『みなまで言わすな』これはこのパターンにおいては鉄則ですよ」
「うーむ、そうか。そう言われてみればそんな気もするな。変な所でお前って気が利くよね」
「ふっふっふ、その辺について妥協をするつもりはありませんからね」
「まあ、では良しとしよう。あと、何でお前達戦闘服を着てたのさ? 無いって言ってたろう? シンディも着てたよな? 何でさ?」
「えーと、それはですね」
「待つんだシンディさん。知らないで良い事もある。ヒロシ様、別に良いではありませんか細かい事は」
「なんだよ、言えよ」
「......ええと実はですね、召喚武装のスキルが発現しまして」
「え?! マジで! へー良かったじゃん。あれ便利なんだよね」
「そうですね。私は執事の服装でいる事が多いですので重宝しそうです。それだけの事ですね。そう、ただそれだけの事でございますよ」
「ふーん。じゃ、シンディ話してごらんなさい」
「え? で、でも」
クロは何と言うか分かり易いんだよね。嘘はついてないのは分かってるけど。それはシンディとて同じ事よ。シンディはチラチラとクロを見ているが、クロの事は気にするな。さあ教えてもらおうか。
「ええとですね......クロードさん、仮面持ってきてなかったんです」
「バカものぉぉう!」
「いえ、クロードさんは悪くなくて、多分、その私がクロードさんを起こした時にですね」
ああ、胸ぐら掴んで引っ叩いてたあの時か。その時に落っことしたと。でも、それも元はと言えば居眠りしていたクロードが悪いのではないのかと思うけどな。
「いざ、正門の前に到着した時に仮面が無いって事に気が付きましてね。頭がおかしくなるかと思いましたよ。すると突然頭の中にピコーンっとスキルが発現しましてね。なんていいタイミングなんだと泣くほど嬉しかったですね」
なぜだろう、神様が見てくれていた以外の理由が思い当たらないぞ。
「それで、私はこのままでも仕方ないかなって思ってたら私にも発現したんです」
神様は意外と近くに居るのだろうか? タイミングが良すぎるだろう? エラく事情に精通しているような気がするが......まあ気にしない。気にしない方が良い事もある。
「いいわね、私もそのスキル欲しいわ」
「サティは持ってないんだね」
「そうなのよ。クロちゃんのくせに生意気だわ。しかしヒロくん、あなたローランド様と陛下に格好つけちゃったわね。驚いたわよ、ローランド侯爵がいきなりあんな事言いだすなんて」
「そうなんだよね......意外と俺の正体って知らない人が多いんだなって思ったよ。格好つけちゃったかなぁ」
「そうね、でも格好良かったわよ。ね、ソニア?」
「うふふ、そうね」
「ん? そうなの、なら良いのかな?」
「でも、不思議なのよね。陛下は当然仮面の男の正体を知っているはずなんだけど、言動や態度が自然なのよ。不思議だわ」
「なんだろう、俺もそうなんだけど、久しいなって思ったんだよね。不思議だよな」
不思議な事ってあるんだな。いよいよ俺も受け入れる時が来てしまったのか。
そんな事を話しているとゴードン内務卿が皆を引き連れて帰ってきた。ローランド侯爵は涙を拭きながら戻ってきたぞ。俺はどうすれば良いだろうか。
するとゴードンさんが俺の方を見て廊下に出てこいと言う仕草をした。よし、待ってました。話を合わせに行くとするか。
「すみません、ゴードンさん、お待たせ致しまし......あ、へ、陛下」
「ヒロシよ、ローランドの為に済まなかったな。あと民の為によくやってくれた、礼を言うぞ」
「いえ、とんでもありません。それよりも陛下に対してもローランドさんに対しても礼節を弁えず大変申し訳ありませんでした」
「いや、あれは仕方ないだろう。しかし不思議なものよ。マスカレードと話しておる時は、お前を相手にしているとは露ほども感じぬのだ。なぜかのう」
「いえ、実は私もそうなんです。別人格って事じゃないですよ? なんかこう、不思議な感じです」
「はっはっは、そうだな。まあ良いわ」
「ゴードンさんもありがとうございました」
「ああ、気にするな。私の無茶ぶりに良く応えてくれて感謝しかないぞ。だがな、実はよく分からんのだ。私は正門にお前達が来る事を伝えて、出る時に花火でもあげろと。そう言ったんだがな」
「え?」
「お前たちが正門から入ると言うのだから、それを衛兵に伝えておけば良いだけの話ではないか。そうだろう? まあお前は下から出てきたわけだが、それは置いておくとしてだ」
「そうなんですけど」
「だから、お前たちが帰る時には花火を打ち上げれば良いと思ったんだ。不思議なのはその花火だ」
「と言いますと? いいタイミングでしたけど?」
「正門に花火は設置しておらんのだ」
「え?」
「誰が用意して誰が打ち上げたのかも分からん。それこそ不思議な事だとは思わんか? もう一つある」
「なんでしょうか?」
「舞台の魔道具、そう拡声器だな。あれは機能しておらん。先ほど聞いたら使う予定が無かったから魔石を入れてないと言っておった。間違いないぞ? 事実魔石は入っておらんかった」
「そ、それはちょっと冗談にしても盛りすぎでしょう?」
「いや、本当の事だ。あの時のお前の言葉がどうやって皆に伝わったのか......」
「ゴードンにヒロシよ、もう良い。民が喜んだのだ。バルボアがその時計の針を再び刻み始めたのだ。これ程嬉しいことは無い。これは神が用意してくれた祝福だ。余はそう思えてならぬのだ」
「そうですか、そうですよね」
「その通りかもしれませぬなぁ」
「それで良いのだ。そう、答えは『神のみぞ知る』だ。さあ中へ入ろう。皆が待っておる」
そう言うと陛下は俺とゴードンさんの肩へ手をやり部屋の中へ入るようにと促した。中へ入るとローランドさんは先ほどの興奮が収まっていないようだ。俺はローランドさんに手を引っ張られてテーブルへと連れて行かれる。
そして式典の成功を喜び、これからの発展を皆で大いに語り合うのだった。
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全ては運命か。それとも因果か宿命か。
上手い言葉は見つからなくとも、そんな事は関係なく針はその時を刻んでゆく。
再び時を刻み始めようと足掻くバルボア。苦難の中で様々な幸運が重なった事はただの偶然かもしれない。ただの神の悪戯かも知れない。しかしそれを経てその身に光を浴びることが出来たなら。
それを人は『奇跡』と呼ぶのではないだろうか。
いつも応援して頂きありがとうございます。
この回でバルボア復興編は一旦終わりとなります。
一応の区切りとはいえ後日談はまた出していくつもりです。
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引き続きよろしくお願いします。