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思わず間抜けな声が出てしまったぞ。ちょっとローランドさん、何を言っているんですか?
「マスカレードよ! 居るのだろう! どこかで見ているのだろう!」
『ええ、隣で見ておりますとも』とは言えない。どうしたんだ? 俺がここで『はーい』と手を挙げながら立ち上がる訳ないだろう。
「私にはわかる! お前が近くで、直ぐ近くで私たちの事を見ていてくれている事はな! どうかその姿を少しで良い、私達に見せてはくれないか!」
どうもガチっぽいぞ。ローランドさんどうしたんだ? 俺は少し狼狽するとゴードンさんの方を見た。ゴードンさんは目を見開いたまま固まっていた。あれ? あの......ゴードンさん?
『ちょ、ちょっとゴードンさん、なに固まってるんですか! ローランドさんは突然なに言ってるんですか?』
『......ローランドはな。お前が仮面の男って事を知らんのだ』
『え? ええ!?』
『誰にでも秘匿事項を話す訳にはいかぬだろう。騎士団は仕方が無いにせよ、侯爵クラスでも選ばれた者しか陛下は許可しておらんのだ。ましてやローランドはついこの間まで伯爵であったのだ。言える訳が無かろう』
俺はローランドさんを見る。拳を握り、両手を拡げ、演説を続けている。
「マスカレードよ! ああ、マスカレードよ!」
どんどん熱が入ってきたのか、ローランドさんの口調は徐々にオペラ調へと変化しているように思う。それはそれは凄い演説だ。すごすぎるぜ......ここまで熱いローランドさんを見るの初めてだ。軽く引く程にな。
『......何とかしろ』
『え?』
『何とかしろと言ってるのだ!』
『そ、そんな無茶な。どどどどうやって!?』
『そんなもん分かるかっ! おおお、お前は北の塔のてっぺんの窓から侵入できるのだろう? あれ位の勢いであの銅像の上にでも飛び乗ったらどうだ? そうだ飛べ! 飛ぶのだ!』
『な、何をメチャクチャ言ってるんですか! 出来るわけないでしょう!』
『お前、あのローランドを見て何も感じないのか? 見ろあのキレッキレの動きを。これで姿を現さなかった日にはアイツは向こう三年涙に暮れて過ごす事になるぞ』
なんてことを言うのだ、ビビらせるのはやめてくれませんか。ローランドさんは止まる様子もなく身振り手振りを交えて演説を続けている。
クソッ、どうすりゃいいんだ。俺は右側の席へと目をやりクロを見る。クロは腕を組んだまま何やら難しそうな顔をして目を瞑っているようだ。
アイツなりに考えているのか。それは有り難いが気付いてくれ! 俺は更なる念を送るが全く相手にされず、少し諦めかけた頃に隣に目をやるとシンディと目が合った。流石シンディ、勘が良いぜ!
俺は軽く右手を出して二本の指で『動け、下に来い』と言う仕草をすると、シンディは両手を使って頭の上で〇のサインを作り隣のクロへと声を掛けた。シンディよ、お前は天才か? とにかく良かった、これでアイツらにも手伝ってもらう事が出来そうだ。
しかし、戦闘服をどうするか。最悪二人は仮面をつけただけになるが仕方あるまい。そう思って改めてシンディを見るとクロの肩を大きく揺すっていた、と思ったら彼女はクロの胸倉を掴んでほっぺたをビシバシと叩き始めたぞ。何をやっとるんだ。
アイツ......まさか寝てたのか? クロはビックリしたかのように飛び起きて、ほっぺたを押さえながら呆然とシンディの方を見ている。この状況で居眠りが出来るクロは大したもんだが、お前は後でお仕置きだ。
『それでは私は少し席を外しますけど、ゴードンさん何かあったら誤魔化して下さいよ?』
『うむ、任せておけ。それ位しかできなくて悪いが約束する。後始末は任せろ』
『分かりました、それでは行ってきます。あ、そうだ。すみません、早速一つお願いがあるのですが』
『なんだ? うむ、なるほどわかった。閉会時の時のものを使うか。心配するな、任せておけ』
ゴードンさんは直ぐに近くに居る自分の側近を呼び寄せ指示を出し始めた。俺は上着を脱いで階段を駆け下りる。二人はもう着いているだろうか? ぶっつけ本番だがやるしかない。
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下に降りると丁度クロとシンディがやって来た所だった。
「ヒロシ様、どうなっているんですか!?」
「シンディ、ローランドさんが突っ走っちゃってな。今は見ての通りとしか言いようが無いんだ。とりあえず動くしかない。クロ、お前大丈夫だろうな?」
クロは斜め下の方に目線をやるとギリッと奥歯をかみしめている。
「クロードさん、すみません。あの時は咄嗟にああするしかないと......」
シンディよ、気にするな。別にコイツが何かに怒ったり恥じたりしている訳じゃない。今こいつは単に欠伸を噛み殺しているだけだ、俺には分かる。おまえ本当にあとでお仕置きだからな。
「シンディ、クロは通常運転だから別に気にすることは無い。それよりクロ、お前、アレ持ってんのか?」
「ええ、持ってますよ。ただ戦闘服はどうしようもありませんね」
「あっちは持ってんのか?」
「あっちも持ってますよ」
クロは当然ですと言う顔をしている。居眠りしてた割には態度が強気じゃないか。まあでも助かったぜ。これなら何とかなるか。俺は簡単に作戦を伝えると散開したのだった。
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