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よろしくお願いします。
そして城を出る時バルボア城の横には王族専用飛行船スローンオブスカイが停泊しているのが見えた。つまり陛下が来ていると言う事だ。今回は王妃様と二人だけだが、新生バルボア誕生の日をどうしても共に迎えたいと言う事でやって来た。
おかげでゴードンさんとローランドさんはいつも以上に忙しくしていたけどな。でも、この話が出た事で住民たちは更に勢いづいた。街を上げてのお祭り騒ぎになる事は言うまでもないだろう。そしてそれをローランド侯爵は喜んで受け入れた。
移動する船は常に満杯。陸路を利用して十日間の旅を経て到着した人も多い。護衛の冒険者はもちろん、露店をはじめ食堂、酒場、宿屋、全てが有り得ない程に忙しい。これ程までに活気に溢れた街を一体だれが想像できたであろうか?
街人の目が白く濁り、生きる活力を失くして日々恐れながら生きていたあの暗いバルボアの街はもうどこにも無い。誰もが前を向き未来を考えることが出来るようになっているのだ。
王族をはじめ関係者を乗せた馬車が街の中を優雅に駆けてゆく。道の両脇はリンクルアデルとバルボアの旗が揺らめき、また人々は小さな旗をその手に馬車に向かって一生懸命に手を振っている。
当然陛下達の乗る馬車には近づけない。一定の間隔で馬車が並びその後ろを住民が追いかける形だ。馬車はバルボア記念公園に入る前に、神殿跡へと向かった。時間の都合で全てを見れる訳ではないが、その神殿がどのように祀られているのかを見てみたかったのだ。
神殿の前、そこには既にドッズとサラが他の従業員と共に待機しており、馬車が停まると跪いて臣下の礼をとった。陛下は馬車から降りると彼らに向け楽にしてよいと声を掛ける。陛下の周りにはウインダムの隊長が五名並んでいる。セイラムもいるぞ。
「ドッズ」
「ははっ」
「怪我をしたと聞いておったがもう良いのか?」
「ありがたきお言葉、お蔭様で見ての通りすっかり回復しやした」
「それは良かった。それで、この慰霊碑と言うものはお前が作ったのか?」
「はい、ヒロシ様からアドバイスを受け、あっしら職人たちが心を込めて作りました」
「なんと素晴らしい、そして美しい石碑か。それに犠牲になった人々の名が彫られておるのか。何と細かい作業だ。よくやってくれた。神々の下でバルボアの民は安らかに眠れるであろうよ。余も王族である前にリンクルアデルの一人の民。彼らの安らかなる眠りのために祈らせてくれ」
そう言うと陛下は慰霊碑に一礼し、そのまま祈りを捧げた。そしてその後、ドッズと職人へ向き直ると一言だけ伝えた。
「ドッズよ、大儀であった」
「ははっ」
もうその時ドッズはそれ以外の言葉を発することが出来ないくらい泣いていたぞ。職人仲間も号泣の勢いだ。その後陛下は神殿跡を外から眺めてから展示館へと足を踏み入れた。サラから色々と展示物の説明を聞いていたぞ。
今回の目的は慰霊碑を見る事だったので駆け足になってしまったが、神殿跡も含めて見る所は多い。今度はゆっくり来てみたいと言っていたぞ。俺も見たい。
馬車はそのまま神殿跡出るとゆっくりと迂回し、バルボア記念公園の裏側へと到着する。裏側とは言っても、来賓が専用で出入りする場所だからそれはそれは丁寧に仕上げられている。当然一般市民の立ち入りは禁止だ。俺たちはそこから来賓室へと入り記念式典が始まるのを待つのだ。
バルボア記念公園は石垣に囲まれた大きな広場である。こういう式典が催される事を考えて片側に大きな門を建て、その先を真っすぐ進んで反対側の正面に陛下や大臣クラスが座る専用の観覧席が設けられている。今俺たちがいる建物がそれだ。
その左右には特権階級や来賓者の為の来賓席が設けられ、その足元には演武などの催しが出来るような広いステージが設置されているようだ。ドルスカーナで模擬戦をしたような会場の作りだと思われる。
今回は広場の中心を開けるような形で柵が設けられており中に入る事は禁止されているらしい。民衆は門の横側からステージの手前まで伸びている観覧席でのみ陛下達の話を聞くことが出来るようになっている。
開かれた門からは続々と人が入場してきており観覧席を埋めているようだな。ただこの公園の門はいつも開かれており、いつでも誰でも入場可能とのことだ。扉を作ったのは形式美ってやつになるのかな。
部屋の中にいるのは両陛下、ゴードン内務卿、ローランド侯爵ご夫妻、ロングフォード伯爵、そしてラザック准男爵ご夫妻と錚々たるメンバーだ。ラザックは緊張のあまり吐かないか心配だ。
夫婦でいるのはローランドさんとラザックさんで、あとは俺とソニアとサティだ。後は各人の護衛やら執事などが一部同室を許可されている。ウチの場合はクロ、アリス、そしてシンディが居る。じいさんはセバスさんとローズさんが来ているぞ。
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