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再び森がその形を変えてゆく。結界が解かれ、元の神々しい大森林が目の前に現れた。俺は皆とその様子を見て、大森林へと足を踏み入れた。そして俺は右前方に目をやると言った。
「そこに居るんだろう? すまない、今回は本当に色々と無理を言ってしまった。良かったら姿を見せてくれないか」
「いえ、お気になさらないで下さい」
サリエルたちは姿を現しゆっくりと歩いてくると俺の前に跪いた。なんで跪く必要があるんだ? 周りのエルフたちは戦闘要員だろうか? 誰も首飾りなどでその姿を隠していないけど良いのか?
「ヒロくん、この人たちは?」
「ああ、サティ。あとお前達にも言っておかなくてはならないな。この感じだと......サリエルさん、良いんですよね?」
「私の事はどうかサリエルと。あとそれが王の決めた事であれば、私からは何も申し上げる事はありません」
「王?」
その問いにサリエルは何も応えない。
「サティ、クロ、そしてシンディ。彼らは今回この作戦に協力してくれたサーミッシュ、いやエルフの民だ」
「やはりヒロくんの言った通りエルフだったのね......絶滅していると言う噂だったけど。会議の時も結局分からないって事だったわね?」
「ああ。前の会議の時はエルフの事は伏せておいたんだ。絶滅の噂を上手く使って姿を変え、サーミッシュとして生きているんだ。そして大森林の守護者でもある。これらは全部秘密だ。そのつもりで頼むよ。サリエルさん、本当に助かったよ、ありがとう。向こうで倒れている奴は対応してくれたんだね。改めて感謝を」
「いえ、先ほども申し上げました通り守護者としての務めでございます。お気になさらないで下さい。それにしても見事な腕前でございました。先ほど我らの場所を一瞬で見つけた眼力、そして先ほどの技の数々。なるほど、ラスを以て勝てる気が全くしないと言われたことがよく分かります」
「大袈裟だよ。でもエルフの協力がなければ作戦は間違いなく成功しなかった。先日の約束があるから皆には言えないけど、この御礼は必ずさせてくれ」
「いえ、貴方様の為に力を振るう事は我らの喜び。お気になさらないで下さい。もし、どうしてもと仰られるのであれば、たまに森に来て頂くだけで結構です」
「はは、サリエルさんはそればっかりだな。分かったよ、近々家族で遊びに来るよ。で、さっき口にしてた王ってなに?」
「一同楽しみにしております。その際にはラスにお声掛け下さい」
「肝心な事は言ってくれないんだな......わかった、了解したよ。後、もしかしたら盗賊の生き残りが......」
「心配ご無用でございます。仮にいたとしても明日の朝を迎える事が出来る者は一人も居りませんでしょう」
「そうか......手出し無用と言っておきながら後始末を頼むようで格好がつかないな」
「どうかお気になさらず。貴方様のお役に立てることはエルフの望みでもあります」
「なんかさっきから大袈裟だな。でもそう言う事なら......悪いけどお願いさせてもらうよ」
「お任せ下さい、それでは我らは失礼致します」
そして彼らは直ぐにその姿を消していなくなった。俺はその後、武装解除すると馬に乗り皆でバルボアへと戻ったのだった。
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俺はバルボア城へと戻った後、関係者を集めて事の顛末を話した。ホークスとマーカスは最初から言っていた通り盗賊達を圧倒した。一部の者を除きそのほぼ全てをその場で粛正したとの事。
大森林の事は全てを話す訳にはいかないがサティが上手く話しをしてくれた。俺たちはアミバルが大森林の方へ向かった事で追跡をかけ、俺は近くで待機していた事になっている。そしてサティが引き上げてくる時に合流したと。パッカードさん達とは行き違いになったんだろうなと話をしておいた。
とにかくこれでハイリル派残党の討伐は完了した事になる。ローランドさんが頭を痛めていた問題もこれでまた一つクリアできたと言う事だ。ローランドさんは涙ながらに感謝し、協力をしてくれた皆の事を必ず陛下へ報告すると約束していた。もちろんゴードン内務卿も了承済みだ。
ドッズたちドワーフも薬が効いたのか回復した。本当に命を落とさなくて良かった。彼らは回復するとすぐにでも作業を再開したいと熱く語ってくれた。本当に嬉しい限りだ。
あと、パッカードさんが森での一件をそこら中で吹聴した事により、仮面の男の存在がより現実味を増した。増したと言うより目撃者がいるんだから存在しているのが確定したと言って良い。
『マスカレード現る』この話は瞬く間にバルボアから各地へと伝染し、吟遊詩人が各地からその話を聞くために相当な人数がバルボアへきているらしい。
あとそこにサイレンスなる仮面の男の従者が加わったもんだから話題が爆発した。街の皆だけでなく他国も含めてだがその話を聞きたがっているようだな。
吟遊詩人は大忙しなわけだ。内容は知らないが、前回の時のように大袈裟にされてないことを祈るばかりだが、そんな願いも空しく戯曲や舞台でもバルボア大森林の戦いはバルボア城陥落の話と共に長く伝えられる事となる。
そして時は緩やかに流れ、少し街が落ち着きを見せ始めた頃。
明日、バルボア記念公園で完成式典が執り行われることになった。一部完成していない遊具を除きそれ以外は全て完成しているから問題ないんだと。
当然俺たちも出席するぞ。あれからバタバタしていた事もあり完成形を見るのは初めてだ。俺は皆と馬車に乗り込み式典が行われるバルボア記念公園へと移動したのだった。
機嫌よく出かけた俺であったが、またそこで一つの事件に巻き込まれる事になるとは、この時思いもしなかった。
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