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まだ続けて投稿するつもりです。
ウエストアデルを出て5日目、旅も半ばに差し掛かっていた。あと一週間ほどでアルガスに到着する。馬車はゆっくりとデコボコの道を進んでいく。
しばらくすると護衛の人が近道を行こうと言い出した。山の中を突っ切った方が早いらしく2日は短縮できるという事だ。父は予定通り進むことを進言したが最終的に折れて山の中を行くことにした。
それが失敗だった。道を外れて1時間ほどだろうか?少し開けた場所に出た時に冒険者が叫んだ。
「襲撃だー!」
護衛の冒険者が叫ぶと護衛は馬車を囲むようにして陣形を整える。前からだけでなく横や後ろからも来ている。完全に待ち伏せされていたようだ。
クロードは訳が分からなくなった、どうなるんだろう? 震える事しかできない。一団は馬車の前で止まった。盗賊の一団の頭領だろうか?が大声で叫んでいる内容に耳を疑った。
「ご苦労だった。お前はもうこっちに来い。てめぇら! この獣人のおっさんは店の開店資金をしこたま持ってるらしいぜ! 男は全員殺せ! 女は好きにしろ!」
話している間に一人の冒険者が盗賊の方へと駆け出した。
「お前、どこへ行く!」
「貴様、まさか......裏切ったのか?!」
他の冒険者が罵声を浴びせているが、冒険者の男は見向きもせず走っていった。
その後はまさに蹂躙だった。残った冒険者達は最初は反撃しようとしていたが、その誰もが踵を返して逃げ出した。それは信じられない光景だった。我先にと逃げ出す冒険者たちに盗賊が襲い掛かる。
逃げながら後ろから矢を撃たれる者。囲まれて切り刻まれる者。魔法で生きたまま焼かれる者。冒険者の誰もが守るべきものを守らず逃げ出し、そして惨殺された。
身体能力の高い獣人とは言え所詮は一般人、レベルも違えばクラスも違う。なにより圧倒的多数の前には意味を成さない。
父は家族を守るため必死で抵抗したが、やがて力尽き盗賊に切り殺された。母は男たちにつかまり犯されようとした時に抵抗して殺された。兄は俺を馬車下部の道具入れの中へ押し込み言った。
「お前はここで隠れていろ。見つからないことを祈っている。俺は父ちゃんと母ちゃんを助けに行く」
それだけ言うと兄は扉を閉め、上に他の木箱を置いて扉を見えなくした。馬車の下から兄が殺されるのをクロードはただ見ている事しかできなかった。
辺りが血の海へと変わった頃に戦闘が終わった。お頭と呼ばれた男は馬車に置かれていた宝箱を手に取り高笑いをしている。
隙間からは顔は見えなかったが、その言動から狡猾で、残忍に思えた。怖くて微動だにせず怯えていたクロードであったが、一団が去った後どうにか馬車を抜けだした。
火を放たれなかったのは不幸中の幸いだった。クロードは変わり果てた家族を見て気が狂いそうになった。このまま自分も死んで家族の元に行きたくなった。
それでも最後まで自分を生かそうとしてくれた兄の為、自分を守るために立ち上がった両親の為にクロードは家族の墓を作り、必ず仇を取るとその幼い胸に誓った。
それはクロードが10歳の時、前日家族で誕生日を祝ってくれた次の日の出来事だった。
その後、道沿いをフラフラしていた所を偶然通りかかった旅人に拾われ、クロードは一人アルガスへ到着する。幸運だったのはこの時の旅人がクロードを奴隷商ではなく孤児院に連れて行った事だろう。
当初ショックで言葉を話すことが出来なかったクロードであったが、少しずつ元気を取り戻し孤児院で暮らしていった。それから何年かが過ぎた後、孤児院への慈善活動で立ち寄った際にセバスチャンとクロードは出会ことになる。
失われた言葉もいくらか話せるようにまで回復していた。その後セバスの強い薦めでロングフォード家に引き取られることになったクロードは執事としての教育を受けるのだった。
その胸に消えることのない復讐の炎を宿して。
読んで頂いてありがとうございます。