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よろしくお願いします。
グスは周りの仲間に声を張る。
「おい! 一体どういう事だ! なぜコイツは矢で射られているんだ! コイツだけが何故......誰か見た奴は居ねぇのか?!」
「わ、わからねぇ。 突然すぎてイイイッ」
グスの前に男は前のめりに倒れ込んだ。その背中には無数の矢が突き刺さっている。
「ど、何処から飛んできたんだ?」
グスは腰から剣を抜き背中に背負っていた盾を構え周りを観察する。誰の気配も感じない。いや、何の気配も感じない。静かすぎる。突然盾を構え始めたグスに仲間が声を掛ける。
「おい、グス何やってんだ、そんなところで」
「お前ら、盾を出せ! ナニかに攻撃されるぞ!」
「はあ、お前アミバル様の言う事聞いてなかったのか? ここは戦闘禁止だろうがよ?」
「それを見てもそう言えるのか?」
「え? ああああっ、おいグス、どうしたんだ? こいつらどうしたんだ!?」
「分からん! 突然弓矢で狙われた! 早く盾を構えろ! 何か、いや誰かいる!」
「おお、くそ、誰だコラァ! 出てこいやぁかっかっかっかっぁあ」
今度はその男が蜂の巣にされ崩れ落ちる。それを見た他の仲間は流石に状況を理解し一斉に盾を構えグスへと固まっていく。
「グス! どこに敵が居るんだ?! チクショウ、戻った方が良いんじゃないか?」
「ああ、だが後ろを向いたら格好の的だ。とにかくガスに入ってくるなと伝えるぞ! ゆっくりと後ろへ下がれ!」
「よ、良し、分かった」
盗賊達は固まり入ってきた隙間へとゆっくりと後退する。下がりながらグスは大声で森へと叫ぶ。
「姿を見せやがれ、この卑怯モンが! ああ?! それともビビッて前に出てこれねえってかぁ!? 出てきてみやがれ!」
「貴様ら如きに何を恐れる事などあろうものか......」
「!?」
その声はどこからか、いや木の上から聞こえたような気がした。
「脆弱で浅ましい人間どもよ......この森は貴様のような者が立ち入って良い場所ではない」
「だ、誰だ? 何処に居る? 姿を見せろって言ってんだろうが!」
「姿を見せる? とうに見せているではないか?」
「なんだと?」
「カヒュッ」
ガスの隣で盾を構えている男の側頭部に矢が突き刺さる。盾を構えて尚、横から矢が突き刺さるなど有り得ん。どうなっているんだ?
「うおおおおお! なんだと! おい! お前ら、盾を横にも展開しろ! どこからか狙われているっ。くそ、この卑怯もんがぁ! なっ! あれは、アイツらは何だ!?」
いつから居たのだ? いや本当に初めから姿を見せていたのか? 見上げた木の上に、所々金の刺繍が入った腰までの白い布を纏った一団がいる。両腕には金の腕輪のようなものを装備し、頭ににも金の鉢金のようなものを嵌めている。同じく白のスカートのような物を金のベルトで留めて、膝までの編んだブーツのようなものを履いている。
いつから居た? 手には弓か? あと妙な形をした弓のようなものを持っている者もいる。吟遊詩人が持っているハープをデカくしたようなものだ。なんだあれは?
真中に立つ男も同じく白い色ではあるが一人だけローブのようなものを着ている。その男が左手を上げ軽くグスの方へと振るう仕草をすると。ハープを持った男がそれをこちらへと向け......と思った時には無数の矢が飛来した。
飛来した矢はグスの横にいる男の盾を直撃し、盾を真っ二つにして弾き飛ばしてもまだ矢は降りやまない。そのまま男をハチの巣にしてようやく止まる。
一度に今何本の矢を放ったのだ? 周りにいる白い布を着た一団は誰も動いていない。こちらへと弓を向けている男が一人いるだけだ。アイツ一人でこの矢を全て放ったのか? いや、そもそもあれは男なのか? それすら分からない。
「姿を見せた所で何も変わらぬ」
「だ、誰だお前ら」
「大森林に入って来ておきながら、名を聞かねば分からぬと申すか無知なる人間どもよ」
ローブの男は今度は右手を振るう。
「大森林を汚す者は何人たりとも許す訳にはいかぬ」
ローブの男は再び左手を振るう。その度に仲間が一人ずつハチの巣にされていく。全く攻撃が見えない。見えた所でどうしようもない。この圧倒的な物量をどうやって防げと言うのだ? 何故一思いに全員を狙わない? まさか、まだ交渉の余地が残されているのか? グスは考える。
「ま、待て、待ってくれ! 俺たちは大森林に対して禁止行為をしていないだろう? 戦闘はしていないだろう? 何故だ? 何故攻撃するのだ? 俺たちは何もしていない!」
「貴様らが犯罪を犯し、その度にこの大森林を利用し隠れていたという」
「だが戦闘などしていないだろうが!」
「戦闘はしていない。しかし神々が愛する大森林が犯罪に利用され、更に我らが犯罪者と同義であるなどと思われること自体が神の御心に背くことである」
「なんだと?」
「大森林での戦闘を悪としているのだ。その前提であれば戦闘を行うもの全てが対象になるとも言える。だがその前提で貴様ら犯罪者を追ってきた人間を攻撃したら我らも犯罪者と同義となる」
ローブの男は一人で自身を納得させるように話をしているように見える。グスの方などまるで気に掛けていない。そんな者はそこに居ないと言うように。
「ハッハッハ、まさに屁理屈。だがまさにその通りだ。何故その事に思い当たらなかったのか......」
「おい! さっきから何の話をしている?」
「これは失礼。なに、つまりは貴様らの浅ましい考えで、我らは王から不興を買う所であったと言う事だ」
「王、だと? 森の王?」
「グス......あれは、あれは間違いねぇ。それにあの服、いや戦闘衣装と武器......俺は聞いた事があるんだ、あれは」
「なんだ、知っているのか? 誰だアイツらは?」
「あ、ああ間違いねぇ。あいつらは......あいつらは神々の御使い......天使だ」
「天使だと?」
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