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よろしくお願いします。

「おい! サティ様が一騎打ちだ! 邪魔させるんじゃねぇぞ!」


「「おお!」」


 パッカードは他の冒険者に声を掛ける。敵側も同じく、両隊は二人を境に挟み込むように固まる。古来よりどの国の戦闘時でも似たような現象が起きていたと言われている。一騎打ちには手出し無用、その勝敗がその後の戦果に大きく左右する場合も多々ある。大袈裟かもしれないが、時には戦争を終わらせてしまう程に。


「お前を幌馬車の上に括りつけて街に乗り入れたらさぞ爽快だろうなぁ? 皆が見てる前でキッチリ調教してやるからよ?」


「辞世の句にしてはセンスが無いわね」


「やかましい! 受けてみやがれ、バレットスピアァ!」


 ボーゲは槍術のスキル持ちであり、槍に関しては自信があった。両手に構えた槍から無数の突きが繰り出される。チンピラ風情と侮ることなかれ、ボーゲは冒険者ではないにせよアミバルに幹部候補に数えられた実力の持ち主なのである。


「あら、やっぱり多少の心得はあったのね? でも、槍を持って受けてみろとか言わないで欲しいんだけど?」


 サティはそれを正面から迎え撃つ。穂先は弾かれ、いなされ、躱され、掠りもしない。サティはその槍の弾幕の中、徐々にその距離を詰めていく。


「なんだ、コイツは! おのれ、これでどうだぁ! ライトニングスピアァ!」


 突きに上下左右の叩きつけるような連打。槍のしなりを利用してボーゲはサティの体に槍を叩きつけていく......はずが、サティはそれすら双剣で凌ぐ。決して下がる事なく、一歩ずつボーゲへと近づいていく。


「所詮は井の中の蛙、バルボアの中のクズという事かしら。この程度の力量で私と一騎打ちなんて......笑っちゃうわ」


 サティは右剣で槍を大きく弾くと、そのまま左剣で右の手首を斬り落とした。


「グアアアアッ!」


「ごめんなさい、一騎打ちは私が誘った事になるのかしら? さあ、まだ左腕と足があるわ。早く攻撃しないと全部無くなっちゃうわよ?」


「ここここ、このクソがぁ!」


 ドサリ......


 ボーゲは左腕で槍を構えサティめがけて横に振るうが、その時妙な音を聞く。左側から出てくるはずの槍が付いてきていないのだ。振るった先、そこには槍どころか左手首から先が無くなっていたのだった。


「ヒイイイイイイイ!」


「見えなかったかしら? ごめんなさい、今からはゆっくりと斬ってあげるわ」


 サティはそのまますれ違いざまに剣を振るうと今度は男の右足の膝から下が落とされた。バランスを崩したボーゲは立つことも出来ず地面に転がるが、両手首を失っている事から上手く転がる事すらできない。肘を利用して何とかあお向けに向き直ると、正面に立つサティが目に入る。


「ギャアアアアア! やめろ、やめろ、やめろ、やめろぉぉぉ!」


 サティは後ずさるボーゲにゆっくりと歩いていき剣先をボーゲに向ける。


「やめてくれ、頼む助けてくれ、おおおお俺は冒険者じゃない! バルボア反逆の時も参加していない!」


「知った事じゃないわ。今まであなたにオモチャにされた獣人、いや今は亡きバルボアの民があなたの魂を欲しているわ」


「アアアアアア、頼む、見逃してくれ、頼む頼む頼む頼む」


「ダメよ」


 サティはそのままボーゲの首をためらうことなく刎ね飛ばすと、それは放物線を描きながら地面に落ちて何度か転がると盗賊達の前で動きを止めた。


「次はあなた達の番ね? 直ぐにあなた達の首も横に並べてあげるわ」


 サティは返り血を浴びた頬を軽くなぞりながら前に立つ盗賊達に言い放つ。


「「う、うわあああああああ!!」」


 盗賊達はサティに襲い掛かるかと思いきや一斉に背中を見せて森へと走り出した。盗賊である元冒険者が聞いていたのは騎士団だけだ。それですら戦闘をせずに逃げろと言われているのだ。まして閉鎖的であったこのバルボアにまさかスカーレットが来ているなど知らされていない。


 アミバルの思慮がもう少し足りていたなら、いや、どちらにせよガスとグスがボーゲに伝えた段階で故意にサティに関する情報の伝達を止めただろう。軽く街を荒らす程度と考えていた盗賊達は幹部候補のボーゲがあっけなく殺された事で、その体に恐怖を焼き付け自らが狩られる立場にいる事を感じ始めるのだった。


「パッカード! すぐに追いなさい!」


「はい! おいお前ら行くぞぉ!」


「「おお!」」


 サティも直ぐに馬に跨りパッカードを追いかける。残された場所には血の海の中、ボーゲが横たわるだけであった。



----------------------



 逃げる盗賊達を後ろから迫ってその背中を斬る事は容易い。元々それほど忠誠も連携もない集団。烏合の衆と言っても良い。植え付けられた死の恐怖に勝てず、後ろを振り返る事も出来ずひたすらに森を目指すのみ。


 アバは懸命に馬を駆り逃げる。恐怖で後ろを振り返る事すらできない。振り返ればあの赤い戦闘服を着た女すぐそこまで迫っているのではないか? アバは考える。誰かがあの女の事をサティと呼んでいなかったか? 


 アバは元冒険者ではなく、いわばハイリル子飼いのチンピラであった。バルボアの街で悪事を働いている事から他の街や冒険にも興味がなく、弱い者を食い物にする事で十分満ち足りていた。しかし姿を見たことがなくとも、冒険者が口にする噂はやはり耳には入ってくる。


 『狐炎(スカーレット)のサティ』冒険者ならその名を知らない者はいない。あの女がそうだと言うのか? もしそうなら勝てるわけがない。大陸屈指、最強の一角と謳われる強者。


 後ろからは悲鳴が聞こえる。バルボアの冒険者に仲間が斬られているのだろうがそれを気にする余裕などない。逃げろ、追いつかれる前に逃げ込むしかない、森へと逃げ込むのだ。


 ボーゲと違い何の戦闘スキルも持たない彼はボーゲの後ろで甘い蜜を吸っていたに過ぎない。そんな彼が冒険者は元よりスカーレットに狙われるなど考えた事もなかった。街の住人を痛めつけて楽に人生を過ごすつもりだったのだ。それがなぜこんな事に......


 チラリと斜め後ろに目をやると赤い戦闘服が目に入った。


「く、来るな、来るなあああああ!」


 トスッ


 叫び声を上げると同時にアバの胸から剣が突き出てきた。ガフッ......アバは震えながらも横を見る。


「少しでも逃げきれると思ったのかしら? あなた達にはもう僅かばかりの希望もないと言うのに」


 アバがその眼を見開くと同時に口から大量の血が零れ落ちる。そして力なく馬から転げ落ちると、後ろから迫る馬群の中へ巻き込まれて行ったのだった。




お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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