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よろしくお願いします。
「準備は良いかお前ら! 作戦は昨日話した通りだ、三方から攻め立ててるぞ! こっちの人数は少ねぇが戦力で負けているとは思えねぇ。全員ブチ殺せ! 良いな!」
「「おう! やっちまおうぜ!」」
話の内容だけ聞くとまるで盗賊みたいだが違う、俺たちバルボアの一団なのだ......ホークスが言うと士気が上がるのは良いのだが、知らない人が聞いたら通報されかねんぞ。
とにかくホークスが鼻息荒く皆を鼓舞している。矢面には騎士団と天空の剣が立つことになるがこちらも了解済みだ。騎士団はリンクルアデルの為に今回の件はどうしても自分たちの手でケリをつけたいと考えている。言ってみれば前回の討ち漏らしだからな。感じている部分もあるのだろう。
天空の剣も然り、Aクラスである以上リンクルアデルの為に先陣を切る事は当たり前の事だと。何とも心強い話だ。その両者の気迫を受けバルボアの冒険者達の士気も高い。
俺たちは最終の確認を行いバルボアより出発した。
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しばらくすると前方に土煙が見えてきた。
「ヒロシ様、前方より接近する一団があります」
「ああ、ホークス、見えている。何だあれは?」
「部下が確認したところによると、どうやらアミバルの一団ではないかと」
「森で隠れていれば良いものを、何でノコノコ出てきてるんだ?」
アホじゃないのか? 騎士団がいる事を知らないのか? いやそんなはずはない。とすると何か秘策でもあるという事になるが......それも含めてホークスに聞いてみた。
「森で隠れ住んでる奴らに秘策なんてないと思うんですけどねぇ。どうも我々の襲撃と向こうの計画が重なったとしか思えませんね」
「そうかも知れんな......騎士団を常駐させても尚攻撃を仕掛けてこようとする神経が理解できんが丁度良い。作戦は継続、敵の左右から囲むようにして攻撃だ。絶対に逃がすなよ? 今回は大森林へ逃げ込むことが出来ない。森へ逃げ込んでも追撃の手を緩めるな」
「承知致しました。行くぞ野郎ども! 蹂躙しろ、皆殺しだ!」
「「おおおおおおお!!!」」
ホークスの世紀末のような雄叫びの元、バルボアの部隊は飛び出して行った。さあ、これからだ。バルボアの未来の為、バルボアに生きる民の為に今日ここでケリをつけさせてもらうぞ。
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「アミバル様! 前方より騎士団と冒険者と思しき奴らが突っ込んできます!」
「なんだとぅ! くそっ、作戦がバレたのか!? 騎士団と真っ向勝負なんかできるかよ。大森林へと逃げるか? いや、今反転すると追いつかれる」
仕方ねぇ、逃げるにせよこいつらを突っ込ませて時間を稼ぐしかねぇな。戦闘が始まったら隙を見て大森林へ戻るとするか......
「ガス、グス、こっちに来い。いいか、ナズとバッガにはこいつらを率いて騎士団にぶつけろ、戦闘が始まってしばらくしたらアバとボーゲの部隊を連れて大森林へと戻れ。良いな? バレないようにしろ、全員で戻ればバックレる機会が無くなる」
「心得やした、しかしナズとバッガは?」
「運があれば落ち合えるだろうが......要は時間稼ぎだ。良いな? ぶつかる寸前に煙幕を張れ。逃走用の秘策だが仕方ねぇ。その間に俺たちも行動開始だ。ナズとバッガには上手くやれば幹部にしてやるとでも言え」
「分かったぜ」
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「煙幕か? 中々考えるじゃないか。だがこれを秘策と言うのであれば物足りないな」
ヒロシは前方に上がる煙幕を見て呟いた。
両者が激突するかと思われたその時、アミバルの方から煙幕が張られたのだ。灰色の煙幕はみるみるうちに両軍を覆いつくそうと被さるように迫ってくる。それぞれの隊を引く隊長は大声で戦況の変化を伝える。各隊は既に左右に展開を始めており、ここからは隊長の指示で部隊は動いていく。
「ホークス隊、敵は小癪な真似をしてきやがった。良いか! 焦らず一人に対して二人で掛かれ!
「「はっ!」」
「マーカス! 攻撃魔法は出来る限り控えてくれ、できれば風魔法で煙幕の除去を頼みたい」
「了解、そちらも同士討ちには気を付けろよ」
「もちろんだ」
「ガイアス隊ついて来てるか! 三人ずつ固まり背中を守り合え、戦列を乱すな! 一対多数に持ち込んで確実に仕留めるんだ、分かったな!」
「「はい!」」
両隊は激突、戦闘が始まった。ホークスは大剣を片手に突っ込んでいき敵を吹き飛ばす。反対側からはガイアスが突っ込んでいく。煙幕を張るために展開が遅れたアミバル達は挟まれる形で迎撃している。
煙幕と砂煙が巻き起こる中、ヒロシは煙幕の中から一部の部隊が後方に飛び出して行くのを見た。自分たちが最後尾であるがゆえに運よく見つけれたと言っても良いのかも知れない。
「あいつら......森へ戻る、いや逃げるつもりか?」
正面は混戦状態となり、この煙の中逃げ戻る部隊へは気が付いていないのだろう。途中からその一団は更に煙幕をまき散らし、煙の中へと消えていく。
「ヒロシ様、あいつら!」
「落ち着けパッカード。そうだな、ホークスとガイアスの部隊を割く訳にはいかんだろう。上手く挟み込む形となっているから中央突破はされないと思う。サティ、悪いが皆とアイツらを追ってくれ」
「良いわよ。このまま見物で終わるつもりなんて初めからないわ」
「サティ様、いつでも行けます!」
パッカードがホスドラゴンを操り前へと出てくる。ヒロシはパッカードを見ると言った。
「このまま進むと恐らく追いつくのは森の手前、いや、最悪森の中での戦闘になる。二人一組となり他のグループと大きく離れる事が無いようにしろ」
「分かりました」
「サティ、すまない。俺はもう少し様子を見てから動く。少々遅れていく事になるが......」
「着いた頃には終わってるから安心してると良いわ」
「まあ心配はしてないさ。どちらかと言うとパッカードや冒険者たちを少し気に掛けてやってくれ」
「了解よ」
そう言うとサティは部隊を連れて抜け出した一団を追い始めたのだった。
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