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よろしくお願いします。

 大森林の境界線近く、川のほとりに彼らのキャンプはあった。


「アミバル様、もう街はほとんど完成しているようですぜ?」


「そろそろ税金を徴収しに行かないと。それにもうボアの肉も食い飽きちまったぜ」


 国家反逆の重罪を犯したハイリル派の残党、アミバルたちはここを拠点として、たまに街にちょっかいを掛けてはこの場所へ戻って来ると言う事を繰り返していた。彼らが大きく騒ぎを起こさないのには理由があった。


 それは街を裏から支配し弱者より税金という名のみかじめ料を取る事だ。別に街を破壊したり占拠する必要などない。効率的に個人に対して恐怖心を植え付ければ良いのだ。そうすれば住人は従順になり扱いやすくなるのだ。


 そもそもアミバルは国家独立に対しては反対であった。国家に表立って反旗を翻したところで結果は目に見えている。人質を取った所でそれを見限って総攻撃をかけられたらバルボアが勝てるはずはないのだ。


「クソ馬鹿共のせいで俺たちの暮らしは一変しちまった」


 アミバルはボソッと呟いた。彼らはハイリルに協力する素振りを見せながら本戦には積極的に参加せず、旗色が悪いと見るや直ぐに撤退し大森林へと逃げ込んでいたのである。


「バルボアの住民を奴隷代わりに今まで通りやっていれば良かったんだ」


 アランがアデリーゼへの窓口をしている間はハイリルをはじめアミバルもやりたい放題であった。気に入らないものは奴隷に落とし、目についた女を攫い、民を下等層として扱き使い金品や作物を搾取した。


「だが、このままじゃ終われねぇ。新領主のローランドがどれほどのモンか知らねぇが、バルボアを絶対に裏から支配してやる。ここは俺の街だ、グヘ、グヘヘヘ」


 冒険者崩れで組織されていた彼らは徐々に街のならず者を吸収し、いまや百名を優に超す人数に膨れ上がっている。その人数が森の中で生活できるのか? 彼らは巧みに大森林と森の中を移動し獣を獲り、川で渇きを潤し魚を取る事で生活していた。


 それが可能だったのはバルボアが復興作業に従事し森に手を回す暇がない事、また復興中のバルボアに冒険者や警備などが少ない事で積極的に捜索されなかったことが大きい。領地を囲む森、その奥に広がる大森林は大きくそして深い。


 だがここに来て事情が変わってきた。新領主ローランドが行った騎士団の派遣である。


 騎士団は街の防衛力向上に力を入れており、街や重要箇所を定期的に巡回している。おかげでアミバル一派に対する恐怖心を植え付ける事が難しくなっているのだ。だが、アミバルは先日ドワーフたちを襲撃し捨ておいた事で、住民は再び恐怖に震えていると考えている。


「あいつらを見せしめにしたんだ。良い薬になって今頃震え上がっているだろう......おい、ガス、グス、そろそろ街に出向いて調教を開始するかぁ」


「へっへっへ、その言葉を待ってましたぜアミバル様」


「あいつら恐怖で縮み上がってますぜ、間違いねぇ」


「そうだろうな、今回はちょっと暴れて食料と女の確保だ。金はその次からで良いだろう。アイツらは俺たちと対等じゃねぇ、アイツらは奴隷だ! 体に染みつかせろ、脳裏に焼き付かせろ! それを分からせるんだ。奴隷共が俺たちに金を払いやすいようにキッチリ調教するんだぞ、良いな?」


「ああ、分かってるぜ。ヒヒヒ、久しぶりの女だぜ」


 彼らは分かっていなかったのだ。見せしめをした事が彼らの寿命を縮める事になるとは。


「よし、おいオメェら! 人を集めろ! 部隊は途中で三隊に分かれてバルボアの街へ襲撃だ。適度に破壊し、食料と女を奪え。騎士団が居たら相手をするなよ? すぐに逃げれば良い。勘違いするな、騎士団に勝つ必要はない、奴隷を服従させればいいのだ」


「「へい!」」


「恐怖の爪痕を残すだけで奴らは従順になる。騎士団に勝つことは逃げる事だ。俺たちを捕らえられないあの無能共はその内に奴隷からも信用されなくなる。そうなれば俺たちの勝ちだ!」


「「おう!!」」


「ガスとグスは俺と来い。アバとボーゲ、ナズとバッガは各隊を率いて街の横側から入れ。長居は無用だ、いいな?」


「アミバル様、いつ襲撃しやすか?」


「そうだなぁ、今日これからでも良いくら......」


「アミバル様! 森の様子が少しおかしいぜ、大森林側の木々が迫ってきている気がするんだ」


「狼狽えるな! そんなものは気のせいに決まってるだろうが! だが大森林は昔から『生きている』と言われているから長居していたことで森が俺たちを排除したいのかもな?」


「気のせいだったら良いんだけどよ、気味が悪いぜ」


「この臆病もんが! まあ丁度いいか。おいお前ら、襲撃は明日だ。この場所は今日限りで終わりだ。今から大森林沿いに少し南下した場所に集合だ。明日はそこから街に襲撃に出る」


「そこはまだ問題ないと?」


「森が迫ってんのかどうかは知らねぇが、俺たちは大森林に対して禁止行動をしていない。裁きを受ける謂れは無いんだよ。ここがダメなら他に移れば良いだけじゃねぇか。良いか、騎士団でも神様でもそうだ。強いやつとは争ったらダメなんだぜ? 弱いものから搾取すれば良いんだ。そうすれば美味しい目に会って長生きできる。そうだろう?」


「ゲッゲッゲ、流石アミバル様だ。了解した、明日は景気づけにひと暴れって訳だな」


「そう言う事だ、しっかり暴れて引っ越し祝いを手に入れてこい! 食料と女をなぁ!!」


「「「おお! 明日はご馳走だぜぇ!!」」」


 この日アミバルはバルボアの街に対して襲撃決行を明日にすると皆に伝える。本来今日でも良かった襲撃を明日に変更したのだ。これを表現する上手い言葉は何だろうか。


 運命なのか因果なのか? それとも神の悪戯か?


 次の日の朝、アミバル達残党は部隊を揃えると森から飛び出した。その目には狂気が宿り、これから手にする食料と女たちの事しか頭になかった。もはや理性の欠片もない野獣と言っても良いだろう。


 皆が口々に何事かを叫びながら馬やら幌馬車を引く。真っすぐ進んでいた一団は街の影を捉えた。それを確認しアミバルが街を三方から襲うべく隊を分けようとした時に前を走る一人が何かを見つけた。


 「ああん? なんだありゃぁ?」


 各隊の先頭を走る者達は砂煙と共に前方から真っ直ぐに迫りくる一団を見て首をかしげる。


 アランとハイリル派が起こしたバルボア反逆は、今本当の意味で終わりを迎えようとしているのだった。



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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