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よろしくお願いします。
「そうじゃ。結界じゃよ」
ノールさんから聞くところによると、大森林の結界とはアンジェの結界のようにバリアが張られるような感じではなく、木々が動いて何者かの侵入を邪魔する程度のものらしい。結界レベルによって攻撃する場合もあるらしいが。それってトレントなのだろうか?
そう言えばこの世界には妖精の類も存在しているのだろうか? 魔法やドワーフ、エルフまでいるんだ。居るのかも知れないな。
「木が動くとかあるんだな」
「妖精に頼む事になるがそこは問題ない。エルフと妖精は共存しとるからの」
妖精おるんかい。
「エルフと同じくこれらの存在は秘匿事項にしておるから、内緒にしておいてくれたら有難い。知った所で妖精はエルフ以外に見る事は出来ぬがの」
「もちろん秘密にしておきますが、秘密にしたい事は言わなくて結構ですので......うっかり話をしてしまったとか嫌ですし」
「そうだな。ヒロシ様にはエルフの掟を知って欲しいが、今は無闇に知らない方が良いのかも知れぬな。その辺りについても後ほど我々エルフで話をすることにしよう。それでいつ討伐するのじゃ?」
「早めに戻って、直ぐに行動に移したいくらいですけど」
「それでは明日準備をして明後日の朝だな、それで良いか?」
「良いけど、今日戻れるのかな? 結構歩いてきたんだけど」
「問題ない、街を出れば直ぐに森の外に出れるようにしておこう。もちろん入って来た所のな」
「なんだって?」
「これはエルリア様の加護を持つ長老、つまりワシしか出来ないのだが、ああ、長老がサリオンになれば彼がその資格を持つ事になる。大森林の中だけはエルリア様の加護があっての。場所移動に関してはどうにでもなるのだ」
なるほど、道が開けるとはそう言う事か。神様の力を使って『どこでも行けちゃうドア』みたいなことができるんだな。で、その効果は加護の影響下である大森林の中だけであると。
この街は外からだと絶対見つからないようになっているのか。それとも森の一番奥深くに位置しているのか? いずれにせよエルフが居ないと思われる訳だ。で、長老が加護を持っている間は守護で守られているエルフはその恩恵を受けることが出来ると。上手くできてるな。
「色々と推測しているようだが、恐らくヒロシ様の考えの通りじゃ。エルフは全員がこの道を使えるが、守護を持つ一般のエルフは呪文により予め決められた道だけを通ることが出来る。長老はどこでも行きたい所へ行ける。また行かせることが出来る。この程度の違いだな」
ふむ。それでラースが時折立ち止まって何事か呟いていた訳か。これでスッキリしたぜ。
「では、バルボアで作戦を立てる必要もあるじゃろう。戻るなら早い方が良い」
「ああ、そうだな。本当にありがとう。恩に着るよ」
「その必要なありませんぞ。先ほども言いましたがヒロシ様の力になれるなら、エルフとしてこれに勝る喜びは無い。事が済んだら是非また訪ねて来てほしいのじゃ。その時にはラスに言ってくれれば良い」
「ラスもしっかり捕まえておくのですよ?」
「な、何を言ってるんだい、母上」
「あら、そのつもりなのでしょう? エルフの里に連れてくるくらいなのだから。その意味を知らないとは言わせないわよ?」
「知ってるけど今の僕には当て嵌まらないよ。それに、それはヒロシ様のお願いだったし......」
「ただお願いを聞いたと言うだけではエルフの掟を破って良い理由にならないわよ?」
「そうだけど、僕は」
「ラース、そろそろ良いかな?」
「あ、うん。良いよ。今行くよヒロシ様。母上、変な事は言わないように、そして考えないように。良いね?」
「分かったわ。次に来た時に色々と聞かせてもらってからにするわ」
「もう! じゃ、とにかく帰るからね」
「はいはい」
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そうして俺はバルボアへと戻ってきた。エルフの街を出て数十歩で森の外とか反則だろう。どうなってんだ神様の力ってやつは。
「今回は色々と済まなかったなラース。本当に恩に着るよ」
「い、良いよ別に。こっちこそ協力的じゃなくてごめんよ」
「それは仕方ない、掟なんだから当然だ。むしろ話さない方が普通だ。それを無理をして長老と会えるようにしてくれたお前には感謝しかない」
「べ、別にいいよ」
「ん? 何を赤くなってるんだ? 照れることは無い、本当の事だ。それより一つ気になる事があるんだが良いか?」
「なんだい?」
「エルフの里はもちろん秘密にする事なんだが、街の皆は耳の形が特徴的だっただろう? それは俺の知識にあるエルフの特徴と同じなんだが、どうしてお前の耳だけは人間の耳の形なんだ? いや、身体の特徴を聞くのは良くないとは思うが気になってな。スマン、言いたくなければ良いんだが」
「ああ、別に構わないよ。この耳は生まれつきではないよ。この首飾りをしている間は外見に高度な補正が掛かるんだ。エルフの魔道具でね。エルフしか持ってないし使えないんだ」
「へえ、そうなんだな。って事はその首飾りを取るとラースの耳が変わるんだな」
「まあ、そう言う事だよ。首飾りをしている間は、仮に耳の先に触れても触れたと認識できない優れモノなんだ。でも内緒だよ?」
「わかった。しかし触っても認識できないとは凄まじい技術だな」
「エルリア様の加護と妖精の力とエルフの技術の結晶さ」
「マジか......すごすぎるぜ。ありがとう、とにかく納得したよ。済まないな色々と秘密の事ばかり聞いちゃって」
「良いよ別に」
「そうか、じゃあバルボア城へ戻ろう」
そうして俺はホスドラゴンに乗り、バルボア城へと帰路を急いだのだった。
バルボア城へと戻ると早速関係者を集めて会議を行った。サーミッシュの協力は取り付けられた事、実行は明後日である事、森での潜伏場所はサーミッシュが既に掴んでいる事などを話した。
エルフの里の事や大森林の守護などその辺りの話については、全てサーミッシュの協力を取り付けた事による交換条件で口外出来ないと言う事にした。事実口外できる内容ではないしな。こうする事が一番良いと判断した訳だ。
つまり現時点ではエルフの存在も加護も守護も何も確認されていない、あくまで協力するのは森に住む少数民族サーミッシュという事だ。
場所はラースがサリエルさんから聞いているので、明後日の朝にはそこへ三方から攻撃を仕掛けることが決まっている。街の右側が騎士団、左側が天空の剣をはじめとする冒険者、正面はサティ、クロ、シンディと警備、そして俺だ。俺は作戦司令官という役割で後方待機だけどな。伯爵家の者が戦闘に参加するなどしてはいけないのだ。ちなみに街は衛兵が固める事になっている。
練度が上がっているとは言え、何より冒険者をはじめ、警備や衛兵の数が足りていない。そこは騎士団とガイアス頼みの部分が多いが仕方あるまい。サリエルの話ではかなりの人数が潜伏しているようだが、騎士団とAクラス冒険者が居るのだ、戦闘能力としては問題ないだろう。
そこまで話して一旦会議は終了となった。気になる点は明日また擦り合わせを行う。ホークスとマーカスは鼻息荒くギルドへと戻っていった。そして俺たちも各自部屋へと戻っていったのだった。
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「じゃあお休み」
「ラース、お前また居間で寝る訳? ベッドの方が寝やすいだろうに」
「ガイアスのイビキがうるさくて寝れないんだよ。ちょっとは人の迷惑を考えて欲しい」
「それは悪うござんしたね......フィルよ、俺ってそんなにうるさいか?」
「うーん、俺は直ぐに寝ちゃうからな。気にならないだけかも知れないが?」
「そうか、そうだよな。おいラース! 男のくせに小せぇこと気にしてんじゃねぇよ! リーシアかお前は!」
「何か言った? 言っとくけどアンタのイビキは相当煩いわよ? 永遠に黙らせたいほどに」
「そ、そうか。分かったからメイスを握るのはやめてくれ。うるさくてゴメンな? 俺がうるさくてゴメン」
「よろしい。早く寝なさいよ」
「へーい」
「じゃ、僕もシャワーを浴びたら寝るよ」
「おう、明日は準備で忙しい日になるぜ、早く寝ろよ」
「分かったよ、じゃあお休み」
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ラースが脱衣所に入りシャワーを浴びるために服を脱いでいくと、茶色の髪の色は銀髪へと変化し始める。首飾りを外したことで魔力による外見の補正効果が解除されたからだ。
変化するというより、隠していたものが見え始めたという表現が正しいのかも知れない。
それにより耳は先端部が伸びて尖ったような形へと変わる。そして日に焼けた褐色の肌は透き通るような真白の肌へと変わり顔の細部、体型までもがその本来の姿を取り戻していく。
そして全てを脱ぎ去ったラースはタオルを取ると、膨らんだ胸を隠して鼻歌を歌いながらシャワー室へと入って行ったのだった。
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