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よろしくお願いします。
しばらくすると人が入ってきた。ラースとあとは知らない人だ。さっき言っていた人たちだろう。
「ヒロシ様、ゴホン、ヒロシよ。紹介しよう、サリエルとユリアンだ。サリエルは軍務を、ユリアンは内務を司る立場にいる。ユリアンはワシの娘だ。そしてラスの母親でもある」
「ラス?」
「僕の事だよ。外界ではラースって名乗ってるんだ」
「お前って、長老の孫だったのか......いや、その、今まで失礼致しました。ご無礼をお許し下さい」
「いいよ、誰にも言ってないんだから仕方ないよ。これからもこのままで良いからね」
「そう言う訳には参りません」
「良いんだよ。じゃあ少なくとも外界ではそう言う事でお願い。ガイアスとか面倒くさくなるから」
「それはそうかも......分かった。では外ではそのままという事でお願いします」
「今も別にいいよ。エルフは閉鎖的だけど保守的ではないんだ。そう言う事は気にしないよ。だから、ね?」
「その二つは違う意味なのか? よく分からんが良いというならそうするが......良いのかな?」
「ラス、あなた何を言っているのですか? 我々がエルフだのと......」
「うむ、ラスは少々我儘と言うか勝手が過ぎますな」
「ゴメンゴメン、でも長老はもう良しとしてるんでしょう?」
そこで皆は一斉にノールさんの方を見た。
「そうだ、彼にはもう話しておる。我々がエルフであることを含めな」
「なんですって? しかし人族ですぞ。長老、本当によろしいのですか?」
「良いのだ、サリエル。理由については後ほど説明する。特に次期長老であるお前は絶対に知っておかなくてはならぬ。そうだな、今言った方が良いか。この事はエルフの掟に大きく関係してくることだ。そして今から話す事は時期が来るまでこのワシを含め四人だけの情報とする。良いな?」
「それほどまでの事なのですか?」
「そうだ。ヒロシ様よろしいですな?」
「任せるよ」
「長老、何故その人族に対して敬称などを付けているのですか!」
「落ち着けサリエルよ。その事についても今から話すのだ」
そこで長老は一息ついてから話を始めた。
「ヒロシ様は創造神アザベル様の加護を持っているのだ」
「なんだって!」
「本当ですか長老!」
「ウソ......やっぱりすごい人だったんだ」
「私が直々に確認したから間違いはない。エルフの歴史に刻まれる神子、そしてエルリア様からの神託にある加護のある者と共に歩めというお言葉が今目の前に実現したのだ」
「そんな、まさか......この男がエルフが待っていた者だと言うのか」
「でもサリエル、アザベル様の加護よ? 間違いないでしょうね。突然すぎて理解が追いつかないけど」
「......すごい」
「ヒロシ様より普段は敬称無しで呼んでくれとの直々のお話があったのだがワシは納得はしておらぬ。それについても後に皆と相談させて欲しい」
三人ともひっくり返るくらいに驚いているが、正直俺自身には何も変化が無いので分からないのだ。加護とはそんなに凄いものなのだろうか? 俺はもしかして加護の恩恵を受けているのだろうか? そう言えば昔アザベル様が自慢げに超レアもんだぞって言ってたな。
「あのう、確かに秘密にしておきたい事ではあるのですが、アザベル様の加護って珍しいんですか? すみません、アザベル様が見せないようにしているだけで、俺自身はその重要度についてはよく分かってないのです」
「世界の歴史上アザベル様が誰かに加護を与えたという記録は残されておらぬ。誰も未だかつて授かった事が無い加護、それが創造神アザベル様の加護じゃ。エルフの里、ここだな。アザベル様が大森林の守護を我らに与え給うたのが我らの誇りなのだ。守護ですらこの大森林以外にはどこにもないはずだ。それがアザベル様の加護など......この眼で見たことが今でも信じられん」
マジか。
「そんなことアザベル様は言ってなかっ......」
「「貴方様はアザベル様と話した事があるのですか!!」」
「ホ、ホントなの?」
皆さん、呼び方が貴方様になってるぞ。やめろ、俺はお前とかアンタとか言われているのが丁度良いのだ。あとラースの俺を見る目がキラキラしているぞ、お前はセイラムか!
「いや、その事はまたゆっくりと改めて話をさせてもらえるとありがたい。と言っても何の話ができるのかは分からないけど...」
その後、部屋の中は一時狂乱状態になり、森の民全員に伝え敬意を払い崇め奉るべきだとか、森の王になってもらうとか、サリエルが次期長老なのでよろしく頼むとか、年に一度ではなく数回は来れないのかとか色々言われた。だが、その話より先に決めてもらい事があるのだ。その話を何度も話に出したのだが誰も聞いてくれないのだ。
「と、とにかくそれは事が済めば後ほどゆっくりお話するとして、先ほどの盗賊の話に戻りたいのですが......出来れば俺としてはエルフとは事を構えることなく盗賊だけを何とかしたいと考えておりましてですね。お願いできませんでしょうか?」
「そう言えば最初はその話じゃったな」
忘れないでくれませんか、大事な事なので。
「長老、私から申し上げても?」
「うむ、サリエル頼む」
「ヒロシ様、ご安心下さい。ヒロシ様に仇成すその盗賊とやらの場所は分かっております。今夜中に皆殺しにしてお見せ致しましょう」
「へ?」
「なに、心配はいりませぬ。我ら森の民に掛かれば造作もない事。ヒロシ様は酒でも飲んでお泊りになり、明日ゆっくりとお戻りになればよろしいでしょう。起きた頃には全て片付いております。」
「それが良いの、そのように致せ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
何をあっさり方向転換しているのだ。今夜中に皆殺しとかって、君たちは慎ましく生きている戦闘などに興味が無い民族なのだろう? 発言が恐ろしいわ!
「何か問題でもございますか? 私も良い考えかと思いますが?」
「ええと、ユリアン様でしたよね。これはリンクルアデルの、バルボアが解決しないといけない問題なんです。申し出は本当に嬉しいんですけど、エルフの皆さんにお願いする事ではないのです」
「ふふ、私の事はユリアンと呼び捨てで結構ですわヒロシ様」
俺の事も呼び捨てで呼んでくれませんか......と言うか俺の話聞いてました?
「俺がアザベル様の加護を持っているという理由だけで、あなた方を戦闘の渦中へ呼び込む真似などどうしてできましょうか。加護の意味を俺はよく理解できていませんが、そんな使い方はしたくないんです」
「な、なんと慈悲深いお言葉か......」
「これはバルボアがケリを付けなければいけない問題でもあるのです。ただ、出来るなら大森林に逃げ込むことが出来ないように協力をして頂きたいのです」
「サリエル、ユリアン。ヒロシ様がこうして慈悲の心を与えて下さるのだ、ここはどのように協力できるのか考えるべきではないか?」
「ふむ、そうですな。ヒロシ様、その慈悲深い御心にこのサリエル感服致しました。それでは森の境界線に結界を張りましょうか。エルフとの関係を伏せるのであれば結界が丁度良いのでは?」
「そうだな、それが良いじゃろう」
「結界......ですか?」
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