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何故クロードは冒険者嫌いなのでしょうか。

 部屋に残った3人。男爵であるゾイドが口を開いた。


「やってくれたのう、クロードよ。お主のしたことは男爵家に泥を塗っただけでなく、男爵家によからぬ災いを呼び込む事をしたんじゃ。本来到底許されるべきではない。他に示しがつかんからの。本来切って捨てるところを解雇で済ましてやろうと言う訳じゃ」


 死刑、私刑と言えば良いのか。この世界にはこのような風潮が根強く残っている。権力とは彼らの下に位置する平民の生き死にをその手に握っていると言っても過言ではない。


 統治者次第で街の様子は大きく変わる。この街が平和に見えるのは男爵であるゾイドが上手く収めているからに他ならない。


 たとえ小さな街であろうとも統治者が舐められるようでは治安は荒れる。統治者は時に厳しい決断を下さなければならない時がある。


 悪政を敷いている統治者は別として、良くも悪くもこの世界の平和とは多くの犠牲の上に成り立っているのだ。


 クロードの場合はどうか? 男爵家としては非はこちらにあると認めざるを得ない状況である。多くの冒険者が見ている前での事件である。


 もみ消すのは容易な事ではない。クロードを処罰(死刑)とし、先方へケジメはつけたと言い放ち手打ちとするのだ。


 これにはもう一つの意味がある。


 こちらは厳罰を処して責任は果たした。これ以上何かやってくると潰すぞ? と言う牽制にもなるのだ。男爵家がケジメをつけた後でまだ文句を言うようであれば『非』の所在は相手側に移る。


 一般市民の喧嘩と違って、特権階級を敵に回すバカはそれほど多くはない。(少数とは言え一定数はいる)過去幾千もの事例に従ってゾイドがこのように決断するのは至極当然の事だった。


 セバスチャンも当然そんなことはよく分かっている。分かっているが自分が手塩にかけて育てた、種族は違うとはいえ息子同然のクロードをみすみす死刑にさせる訳にはいかない。セバスは懇願した。嘆願した。何とか違う方法を模索して欲しいと。


「旦那様。私がやってしまった事の大きさは十分に理解しているつもりです。旦那様にもセバスさんにも、それ以外の人にも......本当に大きな過ちを犯してしまった。言い訳のしようもございません。ただ、あの時は何故か沸き起こる衝動を抑えきれなかったのです。どのような処罰でも受け入れる覚悟はできております」


 クロードはそこで言葉を切り、ゾイドを見ると再び言葉を発した。


「ただ一点だけ。一つだけ教えて欲しいのです。どうして旦那様はあのヒロシという男にそこまで気をかけるのか? いつも厳しいセバスさんがどうして旦那様に具申しないのか? 私には分かりません。また不快な思いをさせることを承知で申し上げれば、彼が何かの術か何かを用いて惑わしているのではないかとすら思います」


「そう言えば......そうだな、ワシも大事なことを聞くことを忘れておった。お主が今回このような事をしでかした原因じゃ。セバスにも心当たりがないと言う。まずそれを話してくれないか。何故冒険者を良く思っていないのかをだ。お前の疑問についてはそれを聞いた後、答えるかどうか考えるとしよう」


 クロードはしばし逡巡した後、答えた。


「分かりました」



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 クロードは獣人国であるドルスカーナ生まれだ。

 

 裕福ではないが幸せな家族と幸せな時間を過ごしていた。


 ある日父がリンクルアデルで食堂を開きたいと言い出した。この生活をより良くするために移住と言う選択をしたのだ。店を開くのはアルガスの街。


 海や山がありそれを料理したものを提供する。アルガスは獣人擁護派で知られ冒険者も多い街だ。チャンスはあると父は言っていた。


 リンクルアデル西側に位置しドルスカーナに隣接しているウエストアデルには既に多くの獣人が店を開いている。そこで競争するよりはアルガスまで行った方が成功するのではないかと言う思惑もあった。


 幼い兄とクロードもまだ見ぬ地に思いを馳せた。コツコツ稼いだ金で開店資金も何とかなる。そうして一家は移住を決めた。


 アルガスはウエストアデルを抜けた南にある領地だ。ウエストアデルまでは行き来している商人に頼んで乗せてもらった。問題はウエストアデルからアルガスまでの道のりだ。


 この二領間には大きな山々がそびえており魔獣や盗賊が存在しているという。真偽は分からないがドラゴンを見たという人もいるくらいだ。従い交易も少なくアルガスに獣人が行かない理由の一つでもある。


 父はウエストアデルで小さな馬車を買いギルドで冒険者を雇いアルガスまでの護衛を頼んだ。危険な旅という事は父や母からも聞いていたが、幼いクロードにはこれから始まる未知の世界の出来事に心惹かれていた。


 これからもっと楽しい毎日がやってくるそんな希望に溢れていた。


 あの日が来るまでは。





お読み頂いてありがとうございます。

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