232 ラース
よろしくお願いします。
「お前、サーミッシュじゃないのか?」
「......ヒロシさんには言ってなかったけどね、その通りだよ。そしてその事は天空の剣のメンバーしか知らない。あまり人に喧伝して回る物でもないしね」
「まあ、そうだな」
「でも基本的にサーミッシュは戦闘をしないし、他国の事情には絶対に介入しないと思うよ。先ほど皆さんが言ってた通りだよ。他の社会と隔絶して細々と生きているだけさ。閉鎖的な社会なんだよ。僕が個人で協力するには問題ないけどね」
「いや、少なくともお前の一族の協力が必要だ」
「悪いけど誰も手を貸すとは思えないし、戦闘なんて無理だよ。他国と交わりたくないのに自ら戦闘に参加する訳がないだろう?」
「戦闘を無理強いするつもりは毛頭ない、少し協力をして欲しいだけなんだ」
「何度も言うようだけど慎ましい暮らしをしているからね。荒事もそうだけど協力すらも期待できないと思うよ」
そう言いながらラースは自然に俺から視線を外した。
「俺の目を見ろラース」
「なんだい?」
「森の掟は恐らく俺たちが想像している以上に厳しいものだろう」
「まさか森の掟を知っているとでも言うのかい?」
「サーミッシュの掟は知らないが......」
「だろうね」
「森に住み、森を愛し、森と共に生きる民。森の番人と言われ、神々に大森林の守護を任されたという。そしてそれを真摯に行う森の民に神は同じく守護を与えた」
「な、何を言って......」
「大森林の守護者。それがお前の持つ守護であり、森に愛される理由だ」
「それは......」
「そして時に守護者は大森林を汚す者に裁きを与える最強の狩人となる」
「......やはり怖い人だ」
「サーミッシュとは民族として広まった名前だろう、だが種族という分類ではどうか」
「ヒロシさんは既に分かってるんだね、何もかも......」
「創造神アザベル様がその御名により大森林の守護を命じた世界に唯一の種族」
俺はラースを見つめて言った。
「それはエルフ、つまりお前だ」
俺は続ける。
「盗賊の類いが神の聖域を犯罪に利用しているのだ。それを知ってもなお大森林の守護者は良しとするのか」
「「「ええ!!」」」
これには一同全員驚いていた。サーミッシュとエルフは別物と考えられているようだな。
「それは本当か、ヒロシよ。エルフと竜人はその個体数が獣人の強種より遥かに少ないと言われておるのだ。竜人に至ってはすでに絶滅したとも言われておる位にな」
「ゴードンさん、あくまでまだ俺の想像です。しかし森の民には神々の意志を守る掟があるでしょう。ラース、ここにいるものは必ず秘密を守る。事情があるとは思うが助けてくれないか、この通りだ」
天空の剣のメンバーは彼をサーミッシュという事は知っていたようだが、エルフという事までは知らされていないようだ。もちろん今時点でもラースがエルフかどうかは分からないがな。とにかく民族の掟なのか何なのかは知らないが協力してくれない事には作戦は始まらない。
「ゴメン、本当にごめんなさい。でも一族の掟を破る事は出来ない。そしてエルフの話も含め質問には全て答えられない。さっきも言った通り僕が言える事は、僕はサーミッシュであり個人的に協力することには何の問題は無いと言う事だけだ」
「そうか......」
「だけど」
「どうした?」
「ヒロシさんが一緒に森に来て長老と会ってくれるなら可能性はあるかも。他の人達はエル...サーミッシュの掟に従って遠慮してもらう事になるけど」
「本当か?」
「僕たちの種族は主神としてアザゼル様を信仰しているのはもちろんだけど、主に叡智の神エルリア様を信仰しているんだ。ドルスカーナでは獣神ライガード様のようにね」
「ああ」
「それで長老は代々エルリア様より特別に加護を受けることが出来て、詳しくは言えないけどヒロシさんと会えばもしかしたら協力してくれるかもしれない」
「すぐに行こう」
「保証は出来ないよ? 長老が会ってくれるかどうかすら分からない。長老が既に何某かの情報を得ていたら良いのだけど......道が開かれることを祈るのみだよ」
「道が開かれる? よく分からないが何もしないよりははるかにマシだ、ゴードンさん、ローランドさん、俺は明日一番で大森林に向かいます」
「敵に遭遇するかも知れぬぞ」
「それはそれで願ったり叶ったりですよ」
「お主というやつは......ラースよ、それではヒロシをお主の長老の所まで案内してやってくれるか」
「畏まりました」
「作戦とは関係なく今日のこの話はこの場限りとする。皆もそのつもりでいるように」
「「承知致しました」」
まあ陛下に話は行くんだろうけどな。それを言うほど俺は野暮ではない。それで会議は一旦終了となり、次の日の朝、俺はラースと共に大森林に向かうのだった
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次の日の朝早くから俺とラースは大森林を目指した。
ホスドラゴンから降りて、俺たちは森林の奥深くへと進む。しばらく進むと雰囲気が全く違うモノへと変わる事が感覚で分かる。いま、俺たちは大森林へと足を踏み入れたのだろう。俺は気になっていた事を聞いてみた。
「ラース、詳しい事は聞かないと言ったが長老はここにいるのか? 大森林はこの大陸全体に広がっているんだろう?」
「ええ、広がってますね。でも会えます。それがサーミッシュが長きに渡り神々の教えを守り抜いて来ている理由の一つでもあります」
「サーミッシュか......」
「申し訳ないですが呼び方も含めて今は何も話せません。話は長老から直接聞いてもらう方が良いでしょう」
「分かったよ。すまない」
「いえ、良いんですよ」
森に入ってしばらく、ラースは何度か立ち止まって何やら唱える仕草をしている。そして前進。これの繰り返しだ。この森の中で道に迷わないおまじないか何かだろうか。
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