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よろしくお願いします。
「いよー、ヒロシさん! 久しぶりだなぁ! 飛行船でやってきちゃったよ俺たち。飛行船で依頼とは俺もさすがAランク。もうあれだな、超有名人って事だな! ワッハッハ。侯爵だろうが陛下だろうが困りごとは何でも俺に任せとけ。アッハッハッハ」
突然呼びつけられて怒ってるのではないかと心配したがコイツが能天気で助かった。それよりお前俺しか見てないだろ。もう少し視野を広げないと長生きできないぞ。来て早々にお前の縛り首など見たくないわ!
「あー、ガイアス君。よく来てくれた。えーとだな、一応俺は伯爵家の跡取りであるわけだ。そしてこちらに居られるのはローランド侯爵、そしてゴードン内務卿であらせられるわけだ。俺は構わないのだが、何と言うかもう少しTPOを考えてくれるとだな......」
「アッハッハッハ、細かい事は気にすんなって。で、誰って? あとなんだTPOって......」
ガイアスは俺の後ろに立っていたお二人に目をやり、俺の顔と二人を行き来している。あ、気付いたな。自分がやらかしてしまった事を。
顔面蒼白、冷や汗で体はビショビショだろうが次のお前の一言が命運を決めると言っても過言ではない。心配するな骨は拾ってやる。だが死ぬ場所はここじゃないだろう! 俺はクワッと目を見開いてガイアスへ次の行動を示した。
「皆様においては大変ご機嫌麗しゅうございまして、慣れない飛行船で少し舞い上がっておりましたと言いますか、少し錯乱していたと言いましょうか、何ぞとご無礼をお許し下さい、この通りです」
ガイアスは流れるような仕草で土下座の姿勢へと体勢を変える。美しい、見事だ。
「伯爵家に向かって呼び捨てとは。礼節を弁えた言動ではなかったようだが?」
「侯爵やら陛下だのいつでも狩ってやるとか抜かしましたな」
「いえ、呼び捨てもしておりませんし、確かに『様』ではなく『さん』だったかとは思いますが......ましてや狩るなどとは一言も申し上げてございませんし、何と言うか本当に許して頂けませんでしょうか、この通りです」
「この期に及んで言い訳か、見苦しい」
「いや、言い訳ではなくですね......」
完全に両侯爵に絡まれているな。俺は今、冤罪が成立してしまう瞬間に立ち会おうとしているのか。慣れない敬語を懸命に使いながらガイアスは土下座の姿勢で頭を地面に擦り付けている。
お前こんなに小っちゃくなっちまいやがって。と言うか俺はお前のぶっ飛んだ言動のせいで一緒に土下座しているメンバーに同情するよ。リーシアに至っては細かく震えているぞ。それが恐怖によるものか怒りによるこのか判断がつかないが。
「ゴードン様、ローランド様。やはりなれない飛行船で舞い上がっていたのでしょう。今回はご勘弁頂けませんか。私の方からも厳しく注意を致しますので」
「これがリンクルアデルを救った英傑の一人とはな」
「Aクラスなのか本当に。Gくらいからやり直させたらどうなのだ」
ゴードンさん、確かクラスは『F』までですよ? あっ、ガイアスのために新しいランクを新設してくれるのですね、ありがとうございます。......いや、今はそんな突っ込みは良い。とにかく何とかしないとな。
「えーと、それは今回の働きに応じて見極めるという事で如何でしょうか?」
「うむ、まあせっかく呼び寄せたのだ。ヒロシ卿のお陰で命拾いをしたな」
「そうよな、一度だけチャンスをやるのも良いかも知れぬな。失敗したらそれで終わりとしよう」
何が終わるんだ? 最後の言葉が少し怖い感じがしたが、とにかくガイアスは窮地を脱したのだった。
「それでは一旦着替えて後ほど会議室に集合でよろしいでしょうか?」
「うむ、それで良い」
そう言うと二人は去って行った。良かったぜ。そうして俺は皆と一緒に着替えるために部屋へ移動したわけだが、部屋に入った瞬間に怒り心頭のリーシアが持っていたメイスをガイアスの側頭部へ強振。
止める間もなく直撃を受けたガイアスは糸の切れた操り人形の如く床へと崩れ落ちたのだった。
おい、死んでないよな?
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「待たせたな、では早速話を始めようか」
ゴードンさんとローランドさんが入ってきた。俺以外の人間がいるからか特権階級のオーラを出しまくっているぞ。そして席に着くと俺とガイアスを見て言った。
「ん? ガイアスはよほど躾けられたのだな。ヒロシよ、聊かやりすぎではあるまいな?」
ガイアスは言葉が上手く話せない程に顔が腫れあがっているのだ。実はリーシアがメイスでぶん殴ったんですよね、とは言えない。
「ええ、流石にお二人を前にしてあの発言はAクラスとしての品位と品格を疑われますので。彼の自覚を促すという意味でも必要な罰でございました」
「うむ、そうだな。それでよい。ガイアスよ、ヒロシからそれ程までに罰を受けたのであれば今回の事は不問にしよう。次からは気を付けるようにな」
「は、はひ。ひゃりがとうございます」
ガイアスはモゴモゴとお礼を述べた。あの時ガイアスは死んだんじゃないかと思ったが、不問にしてくれたことを思えばこれ位した方が良かったのだろうか。
横目にリーシアを見たが澄ました顔をしている。いや、これお前がやったんだぞ? 元々彼女は安全第一の性格だったはずだ。以前シンディの戦闘訓練に口を出して揉めた事があったしな。
そんな彼女がいきなりメイスで顔面強打の後マウントでボコボコとか、今回は相当ブチ切れたという事か。あまりの驚きに全員止めに入るのが遅れたんだ、許してくれガイアス。お偉い方の許しも出たことで俺はガイアスの頭からポーションを振りかけてやった。
この顔のままじゃ流石に話し辛いからな。天空の剣は俺に対して敬称は不要という事も忘れずに伝えておいた。また揉める可能性があるからな。前の二人は違うからな、勘違いするなよガイアス。
そして俺はこれまでの経緯をサーミッシュの事も含めて皆に聞かせた。皆はバルボアの再生については素直に喜んでくれたが、ハイリル派の残党の話から自分たちが呼ばれた訳を理解し始めた。
「なるほど、それで俺たちが呼ばれたって訳だ。ヒロシさん是非手伝わせてくれ。でも騎士団がいるなら出番はあるのかな?」
「戦力として呼んだのももちろん本当の事だが、真の理由は他にあるんだ」
「ふむ、ワシもそれが聞きたいな。お主は言っておったな、天空の剣が今回の作戦のカギになると」
「ええ、その通りです。ここまでの話の内容と天空の剣を呼んだ理由。それはラース、お前はもう分ってるんじゃないのか?」
ラースは俺の目をじっと見据えている。
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