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よろしくお願いします。
会議と言っても実はホークスが言った事が殆どで、それを少し優しい口調に変えただけに過ぎない。俺が戦闘には基本関わらないことはホークスも知っているので、基本的にはサティがギルドを、街の警備を騎士団が受け持つ事になった。
またギルドには騎士団も常駐し、冒険者や警備達の訓練も引き受ける。こうして冒険者と警備衛兵のブートキャンプは幕を開けたのだった。宿に関してはギルドと街の宿屋に分散する形をとった。そうした方が有事の際に動きやすいからとの判断だ。サティは城に戻るけどね。
何日かしてギルドに様子を見に行った時に訓練も見たのだが、みな本当に真剣に取り組んでいた。たまにホークスの檄が飛んでくるがそれでもめげずに頑張っている。特にパッカードさんは何度でも騎士団に向かっていってたな。ああいう燃える男が一人いると、こういう場合は良いのかも知れない。
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何度かバルボアとローランドを行き来しながら俺はバルボアの再生を目に焼き付けた。日々街の色が変わっていく。人々の顔が変わっていく。酒場は笑い声が溢れ、時折喧嘩騒ぎが起きている。
ローランドの冒険者や商人、労働者が流入した事で宿屋も繁盛している。バルボアの冒険者や治安維持に努める警備兵の顔は生まれ変わったように精悍になっている。ローランド侯爵の旗の元、厳格なルールと矜持が与えられそれを誇りに戦える顔だ。
そして時は流れ。
もう俺のすることは本当に待つだけとなってきた。待つと言うのは工事の完成ではない。工事自体はほとんど完成しておりオープンを待つばかりという事だ。
事件はそんな中で起こった。
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「ヒロシ様、こっちです。これを見て下さい」
俺たちはレイナとラザックに連れられて慰霊碑の側に来ている。見事に打ち建てられた大きな石碑に犠牲者の名前が可能な限り彫られている。何と丁寧な仕事だろうか。
だが、その見事な石碑は染料で汚され『畜生に魂の救い無し』『低民と獣人は奴隷』『ローランドに死を』『バルボア独立』など様々な文句が書きなぐられている。
そしてその暴挙を見たドッズを含めたドワーフ達と戦闘になり全員が重傷を負い石碑の前に捨てられていた。殆どのものはまだ意識すら回復していない。生きているのが不思議なほどの怪我であった。
現在彼らはギルドへと運び込まれ薬師ギルドの協力の元で手厚い看護を受けている。既にNamelessの治療薬も流通が始まっているだろうから薬には困らないはずだ。後は彼らの生命力に掛けるしかない状態である。
「ヒロシ様......」
「ホークス、残党の根城はまだ見つけられないのか?」
「ええ、一つの処に留まっている様子はなく森の中を転々としているようです。あちら側はアザベル大森林に近い事もあり、仮に見つけられても奥に逃げられたら戦闘は出来ません」
「大森林を逆手に取って考えている訳か。まさか大森林の中で生活しているのか?」
「いえ、大森林は神々の庭園と言われております。森に愛されていない者が勝手に住み着くような事をすれば天罰が下りましょう」
「という事は基本的には大森林の中へは入ってないという事だ。人数はどれくらいいるんだ?」
「残念ながら敵の規模すら掴めていない状態です」
「アミバルと言う男については顔は分かるのか?」
「それは私達が分かります。アミバルは元ギルド長ですので」
「パッカード、アミバルはどんな男なんだ?」
「狡賢い男ですが戦闘能力は高いです。本当かどうかは知りませんがバルボア兵の指南役をやっていたとか、何かの部隊の隊長クラスだとも聞いた事があります」
「取り巻きは?」
「数名腕の立つ奴が居りますが、後はなんとも」
「そうか」
「ドッズや仲間の連中は本当に頑張ってたんです。この公園をバルボアの誇りにするんだって。チクショウ、チクショウ......」
周りの冒険者は悔しさの余り言葉の先を続けることが出来ず拳を握り締めている。涙をこらえている。
「マーカス、街中の警備強化に加え、この辺りも警備範囲に入れれるか考えてくれ。工事をしている連中に手を出してくる可能性がある以上、範囲をもっと広げる必要がある。あと停泊所もな」
「停泊所は人の往来が増えましたので既に常駐させております。神殿エリアについては巡回にしておりましたが明日からでも常駐に変えるよう手配致しましょう」
「悪いが頼む。ホークス、近々掃討するからいつでも動けるようにしておいてくれ」
「わかった、いつでも動ける体制にしておくぜ......ヒロシ様?」
「今何か考えてるのよ、奴らも終わりね。今はもう話しかけない方が良いわ。ヒロくん怒ってるわよ?」
「わかりました、サティ様。俺たちはギルドに居ますからいつでも声を掛けて下さい」
とりあえず今は対策を講じるしかない。森の中からどうやって追い出すか......それさえ出来れば後は問題ないはずだ。しかしその森がネックとなり大きく圧し掛かってくるのだった。
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