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さて知らぬ間にローランドに新しい家が出来てしまっていた訳だが、もう深くは考えない事にした。じいさんはロングフォードとローランドをたまに往復する事になるそうだが、どちらかの屋敷には俺たち家族が住む事になると思う。
そろそろ本店を出て家を探そうかと思っていたので渡りに船ではあるのだが、物件が俺の想像より遥かにデカすぎる。しかし伯爵という立場を考えたらこれ位普通の事らしい。確かに侯爵以上はもう完全に城だからな。バルボアの場合も城だけど住んでたのはハイリル伯爵だった。その辺りの匙加減と言うかはよく分からない。
初日は子供たちと一緒に寝た訳であるが、次の日から夫婦で一緒に寝た。当然長らくご無沙汰だった俺は快楽の海へと頭から突っ込んでいったのだった。ちなみにスウィートメモリーズは隠れ人気商品で常に品薄だ。分かるぜ、これとブルワーク24のコンボで満足できない男はいないと断言できる。
二日ほど家族とゆっくりした俺はクロとシンディを連れて港へと向かった。ちなみに屋敷にはシンディの義理の娘であるシャロンも一緒に着いて来ていた。元々賢い彼女は商店のマスコットでもありシェリーやロイの妹分であり。
恐らくメイドや商店の仕事などそういう教育を受けていくのだろう。ローランドさんの娘さんとかフランツ殿下とも一緒に遊ぶ一般人。一番の大物はシャロンかも知れないな。末恐ろしい娘だ。
あの時彼女が俺とクロに花を売るために声を掛けなければ今頃どうなっていたのか。いつかアザベル様が言っていたな、パラレルワールドが存在すると。シャロンは最高の選択をしたと思ってもらえるように俺も頑張らないと。当然本人達に聞かす話ではないけどな。
「ヒロシ様!」
港に着くとスバンが走ってきた。
「忙しい所悪いな。どんな感じかなと思ってね」
「問題ありませんよ、さあこちらへ」
スバンに先導され俺は事務所へと入った。近々作業員もバルボア側へ船で派遣するように手配が進んでいるらしい。作っているのは客船、観光船、そして俺のクルーザー。クルーザー?
「クルーザー作ってんの? 嬉しいけどそれは後回しで良いよ」
この船会社の仕事をレイナにした時にクルーザーの話をした事がある。観光船とは違い個人で楽しむ観光船という位置づけだ。アンジーにラフ図を渡していずれNamelessでも保有したいよなという程度だったはずだ。
「いえ、後回しなどにはできませんよ。副社長が言うにはヒロシ様には更なるビジネスに関する秘策があるに違いないと。それにNameless所有のクルーザーなんて私も嬉しいです。もちろん船主はヒロシ様です」
あるかそんなもん。しかしクルーザーか......うむ。どうせ作るなら丁度良いかも知れんな。
「急ぎはしないがそのクルーザーができたら陛下や関係する人たちも乗せたい。アピールするいい機会だ。その辺りの事を考えて丁寧に仕上げてもらえると嬉しい」
「やはり、そのようなお考えが。分かりました。レイナ副社長にも相談して進めていきます」
「レイナ来てるの?」
「はい、毎日と言う訳ではありませんが船を利用して様子を見に来てくれます」
アイツ、本当は二人いるとかそう言うオチじゃないだろうな?
ただローランド側、バルボア側共に停泊所や船でのビジネスをどのようにしていくのかイメージが出来てきたように思う。レイナと会った時にその辺りをもう少し詰めようか。あとレイナには何人か側近を付けよう。
追加の指示としては停泊所の名前を決める事、待合室にはランクを付ける事、乗船する際には搭乗口をクラス毎に分ける事。護衛船の製造、これは小さくて小回りが利く船だ。多くの商店を引き入れる事、ロングフォードまでの航路を見つける事......等々。
作業員は多く集まっているらしい。造船って船大工がやるもんだと思っていたが大丈夫なのだろうか? まあ大丈夫なのだろうな。その辺りについて俺はもう気にしない。
とにかく優先順位は後付けで思いつくことを並べていき、スバンは熱心にメモを取り他の従業員へと指示を出していた。バルボアから発した工事ラッシュは良い意味でローランドにも影響を与えている。一通り確認し終えた俺は街でお茶を飲んでから屋敷へと戻ったのだった。
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「なに? 明日にはバルボアに戻るじゃと? もうちょっとゆっくりしていったらどうじゃ?」
「そうしたい所だけど今回は俺だけゆっくりしている訳にはいかないよ。ちょっとドルスカーナの商売の話とは毛色が違うしね」
「まあ、確かにな。では明日王城へと向かうのだな?」
「そう言う事になるね。陛下と一緒に話をするとゴードンさんが言っていたけど」
「うむ、バルボアの復興はリンクルアデルだけでなく世界で注目されているからな。やはり戻った方が良いか」
「近くに帰る家も出来たし、時間を見つけてまた戻って来るよ。ソニア達はいつまでこっちに居るんだい?」
「しばらく居るわね。商会も特に問題ないし」
「そうか、子供たちも一緒だよね?」
「ええ、ローランドさんのローラちゃんは大喜びみたいね。仲良しだったから」
「そうか、それは良かった」
「あと、サティも連れて行ったらどうかしら。ギルドも大変でしょう?」
「大変だけど......」
俺はサティの方を見た。
「ソニアはそう言ってくれるけど、私だけって何だか悪いと思っちゃうのよね」
「バルボア復興の手助けよ。行くべきだわ。それにヒロシさんの虫よけ」
「虫よけ......ね。ふふ、いいわね。ケビンが行ってるんだったわね? じゃあ手伝ってあげる」
虫よけってなんだ? まあ良いか、来てくれるなら有難い。
「来てくれるなら助かるよ。ソニアも悪いな。落ち着いたらバルボアに来ると良い。もちろん俺も出来る限り戻って来るようにするけどさ」
「ええ、お気をつけて行ってらっしゃって」
そうして次の日、俺たちは王城へと向かった。
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