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よろしくお願いします。
街へとやって来た。その後に神殿跡に行ってバルボア城に戻るつもりだ。基本的に区画からやり直すような事はしない。傷んだ建物を修繕し、商売をしやすいように変えていくのだ。その為の金は国は負担しない。あくまで再生に向けて働いている今の給料でやってもらう。
工事が完成した頃には店も奇麗になりそれぞれが考える職業を頑張れば良いのだ。今の再生業務はそのための資金作りと生活費などに充てる感じだな。
「ヒロシ様、街が工事中だらけですね」
「ああ、想像はしていたがすごいな」
一斉にスタートさせたが出来るのかな。家ごと建て替える訳ではないとしてもこれはすごいわ。学校なども修繕が進んでいるようだが教師の数が足りない場合はいずれローランド側からも人が来るだろうとの事。
そう言う意味では道路開通と船での移動を可能にさせる事がやはり優先事項だな。バルボアへの道が開かれると、こちらに仕事を求めてくる人間もいる筈だ。
でもこういう活気が出てきた街、生まれ変わる街並みの渦中にいる事など滅多にないだろう。願わくばこのまま上手く再生の道を駆けあがって欲しいものだ。と考えていた時だった。
「やめて下さい!」
「うるせえんだよ! 誰に断ってこんな勝手な真似してんだ? ああ!?」
向こうの方から何やら揉めている声が聞こえてきた。こう全てが一斉に回りだすと色んなトラブルも発生するだろうな。野次馬が集まり始めているので俺もちょっと行ってみることにした。
本当は中に入って行きたい所だが立場上目立つのでまずは近くで様子を見ることにした。エスカレートして刃傷沙汰になるような事があれば止めに入ろうか。
「もしもの時は私が行きますのでヒロシ様は出て行ってはダメですよ?」
「スマンがその時には頼むよ」
見てみると何やら態度の悪い男が数人、女性に因縁を吹っかけているようだ。クロが隣の人に聞くと埃を抑えるために家の前に水を撒いていた所、それが少し掛かったらしい。水を撒いてるんだから避けろよと言いたいが、掛かってしまう事もあるだろう。ただ因縁というくらいだからワザとかかったのかも知れないが。
クロはそのまま質問を進める。
「それでご主人、あの男は酒瓶を片手に酔っぱらっているようですが、何か仕事をしているのですか?」
「いや、多分何もしてないでしょう。恐らくあれは以前ギルドに所属していた冒険者です」
「冒険者? ギルドにはパッカードさんだけでしたが昔の仲間も今回の計画でギルドに戻ってますよね? それに街の人達との関係も悪くないと思ってましたが?」
「ええ、仰る通り冒険者はパッカードさんに頭を下げてまた一緒に頑張ってくれてますよ。彼ら...あいつらはハイリル派の残党ですよ」
「ハイリルに付いて行った冒険者ですか......それが何故今頃?」
「分かりません。大方街が賑やかになってきたので様子でも見に来たのではないでしょうか」
ふむ。そういやパッカードが言ってたな。森に残党が潜んでいるかも知れないと。潜んでいたのは良いとして、誰に断ってとはどういう事だ? あの酔っ払いの許可が必要とでも言うのか?
「この街の安全は今まで誰が守ってたと思ってんだコラァ! ギルド長のアミバルさんのお陰じゃねぇのか? それを好き勝手やりやがってこのクソアマが!」
「キャア!」
男は女性を突き飛ばして持っていた剣の鞘で窓を叩き割った。
「クロ」
「はい、ヒロシ様」
クロが俺の言葉に即座に反応し前に出ようとしたその時だった。
「お前ら何をやっている!」
パッカードさんが人垣を押しのけて入ってきた。
「貴様ら生きていたのか、この裏切り者め!」
「はっ、パッカードかよ。この腰抜けが。住み易かった街をメチャクチャにしやがって! 観光都市だぁ? 出来るわけねぇだろうが! お前らは黙って俺達の言うこと聞いてりゃ良いんだよ」
「コソコソと森に隠れておいて、その言い草とは笑いが止まらんな。今この街は生まれ変わろうとしているのだ。邪魔をするというなら警備に突き出すぞ。いや、そもそもお前らは国家反逆罪で重罪者だろう? 犯罪者の言う事など誰が聞くというのだ。おい、早く警備を呼んできてくれ!」
「アホがぁ! 国家なんぞ関係あるか、アミバルさんが上手くこのバルボアを治めてくれるんだよ!」
アホはお前だ。何を言ってるのだコイツらは、頭が痛くなってきた。森の中で何かの毒にやられたとしか思えん。しかしこれを聞いて僅かにでも反論できない、怯んでしまうのが今のバルボアの性質なんだろうな。
なんと言うか、家庭内暴力から逃げた女性の前に現れた元夫みたいな奴らだ。こういう奴らは早めに処分するに限る。国家反逆罪確定の奴らだから手荒くしても問題ないだろう。俺はもう一度クロに言おうとした時にパッカードが吠えた。
「舐めるなよ! いつまでもお前たちに尻尾を振る俺たちではないぞ。バルボアの民は生まれ変わるのだ」
「はっ、犬っコロは尻尾を振るのが得意なんじゃないのか? 今なら特別に俺が飼ってやっても良いんだぜ?」
「おのれ、犬獣人を侮辱するか!」
いよいよエスカレートしてきたな。どうする、止めるか? しかしバルボアの意識を変える良いチャンスとも言える。俺はクロに直ぐに飛び出せる用意をしておくように伝えた。
「ああん? 良いんだぜ抜いてもよ? 抜くかよ剣を?」
「ふん、そんな安い挑発には乗らんわ。決闘でもない限り街中での刃傷沙汰は御法度だ。そんな事も忘れたかハイリルの犬が! いや今はアミバルの犬か? 全くどっちが犬なんだか。お前本当は尻尾が生えてるんじゃないのか」
「畜生の分際でほざくんじゃねぇ! ああ、お前確かギルドのアメリアと良い仲だったよなぁ? 彼女は元気にしてるのかぁ?」
「何を? お前まさか......そんな事をすれば許さんぞ」
「ヒッヒッヒ、そんな事とはどんな事だ? 今日は帰ってやるが、俺が次に会うのはお前とアメリアのどっちかなぁ」
「このクソ野郎が」
「おお、噂をすれば後ろから愛しのアメリアが来たじゃないか」
「なに?」
咄嗟にパッカードが後ろを振り向いた時だった。
「いるかよ、バァ~カ」
男は剣を抜いてパッカードを後ろから切りつけようとした。
「クロ!」
クロは素早く手に持ったモノを男に向かって投げた。
「グアッ!」
それは男の腕に刺さり、男は思わず剣を手から放してしまう。その声にパッカードが振り返り状況を把握すると、パッカードも腰の剣に手を掛けた。
「クソッ、誰だ! チッ、パッカード! 次はねぇぞ、覚えてろよ!」
男は手に刺さったモノを投げ捨てると剣を拾い上げ仲間と共に走り去った。クロは俺の方を見て言った。
「いや、間に合わないといけないと思いましてね。この女の子から借りたんですよ。大丈夫です。外す気はありませんでしたから。ああ、ごめんよお嬢ちゃん。これで新しいのを買うと良い」
そう言ってクロはそれの代金となる程度のお金をお嬢ちゃんに握らせてあげた。腕に自信があるならそれで良い。投擲も立派な攻撃方法だ。手裏剣だとか苦無だとかナイフだとか投げるモノは色々とあるだろう。
しかしよりによって......
「あれ? ヒロシ様?」
「風車......だと!?」
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