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よろしくお願いします。
会議室には様々なメンバーが揃っている。じいさんが話を聞きつけてレイナが移動する時に追加で有力な人間を結構な人数で寄こしてくれた。伯爵の一声で即決だったらしい。じいさん本当に助かるぜ。詳しい事は帰ってから話すから待っててくれ。
皆が席に着き始めそろそろ会議に入ろうかと思った時に『バルボアの光』のギルド長であるエリーゼが土下座の勢いでやって来た。荒んだ感じの彼女であったが今回は少し小奇麗だな。
「ヒロシ様、先日は知らぬ事とは言えとんだご無礼を...どうかお許し下さい」
「別にいいよ、それにまだ謝罪をする時ではないだろう」
「え?」
「まだ、バルボアが復興するかどうか分からないんだ。上手く軌道に乗った時に改めて話をしよう。と言っても別に怒ってもないし構わないんだけど」
「そう言う訳には参りません」
「うーん、そうだ。ちょっとバーバラ、こっちに来てくれ」
「ヒロシ様、お呼びになられましたでしょうか?」
バーバラはムギュがムギュっと強調された少し扇情的な服装だ。落ち着いた口調とモデルウォークで俺の方へとやって来た。フェロモンをまき散らしながら歩いてきたぞ。お前会議の内容分かってるよな? 合コンじゃないぞ?
「ああ、すまない。エリーゼ、こっちは商業ギルド『アルガスの泉』のギルド長であるバーバラさんだ」
「よろしくエリーゼ。バーバラよ」
「エリーゼと申します。よろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ。商業ギルドを一緒に盛り上げましょうね。で、ヒロシ様何か御用かしら?」
「バーバラは以前、ゴードン内務卿に『このおっさん』とのたまっておきながら命を繋げることが出来ている稀有な存在だ」
「え? この奇麗な女の人がですか? そんな剛の者には見えませんが......」
『ちょっとアンタいきなり何言ってんのよ! あ、内務卿が見てるじゃない! ぶっ飛ばすわよ』
「ちなみに俺も普段はアンタ呼ばわりだ」
『やめなさい! なんなの? 何が狙いなの? ちゃんとヒロシ様って言ったでしょ。言ったわよね?』
「エリーゼ、だからと言う訳ではないが気にする必要はないよ。これから気を付ければ良いだけの事だ」
「ありがとうございます。でも時が来れば必ず」
「分かったよ。その時は改めて話をしよう」
「私はよく分からないけど? 今更あれは不敬だったとかは無しよ?」
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皆が席に着くとまず自己紹介から始まり、その後ローランド侯爵とゴードン内務卿が挨拶をした。バルボアの皆は流石に侯爵二人を前にして緊張しているようだ。ロングフォードからも要人達が来たことから、侯爵、いや国の本気度をその身に感じているのだろう。
先日とはやはり雰囲気が違う。上の者に対する礼儀が出来ていく時点で彼らの心は前向きになっている証拠だ。もう一度信じて頑張ってみようと、成功させようと考えてくれているのだと思う。
「と言う訳でヒロシ卿から提案のある『観光都市計画』だが、これについて具体的に話を進める事になる。これはシュバルツ国王陛下も全面的に支援すると明言している。それでは、ヒロシ卿よろしく頼む」
「自己紹介はもう済んでいるので早速本題に入りたいと思う。大きく分けて話をするが詳細についてはその部署ごとで話を進めてくれ。その人員を確保し予定通りに物事を進める事が諸君の仕事だ。各ギルドにはロングフォードから応援に来てくれているギルド長から詳しいことを聞いてくれ」
そして俺は詳細を話し始めた。ギルドに関してはケビンのおっさんと、バーバラに任す。大々的に人員を募集するのだ。ここは金を払うと約束させるので人は絶対に集まるだろう。
それをバルボアのギルド長にやらせて同時に育てるのだ。募集時に集まる人から良い人を見つけたらギルドに引っ張る事も同時に行う。ギルドも人が居ないからな。
冒険者ギルドの仕事はこれから始まる事業の補佐だな。森林伐採や商人が行きかうようになるのでその護衛など。やることは多い。
商業ギルドは恐らく一番忙しくなるだろう。しかし公共事業を経験したバーバラさんが居れば、事は進みやすいはずだ。当時は血を吐きながらやってたからな。仕事の斡旋をはじめ、商会設立の手続き、また民衆へ還付する補償金の手続き。山ほど仕事はある。
ちなみに還付金を出したのは民衆を憐れんでと言うだけではない、人口と人種などバルボアの数値を確実に知っておく必要があるからだ。それを話すとローランドさんも一石二鳥だと喜んでくれた。
そして道路整備。これはラザックに任せる。今回は仕事の斡旋も含まれるので重犯罪奴隷を使って突貫工事のような真似はできないが、仕事が無い人達が圧倒的に多い状況だ。人員には事欠かないだろう。
更に神殿関係。これが観光都市のメインとなる。神殿周りに看板や観光ルートを設置したり、区画を開けて近くに大規模公園を作る。大型の滑り台、プール、アスレチック、公園に広場や散歩道などそれぞれに名前を付けて宣伝する。例えばアスレチックなら『冒険者の森』とかな。子供心をくすぐる者から大人が挑戦できるものまでだ。
その辺りのアイデアは俺とドッズさんが直接話すが、それを絵にかいてイメージを作るのはアンジーの役目だ。助手を連れてきているから、全員に描かせると言っていた。
神殿の横には資料館を建てる。そこの館長はサラに任せる。神殿に関する知識で従業員を雇い、運営する。幸運にも没収された資料や絵画の数々は宝物庫の隅で見つかった。燃やされてなくて良かったぜ。
テーマパークの中の店や街中の食堂及び宿屋など。これは街の関係者が知恵を絞って立て直す。店を改装する費用なども国が補助する。Namelessも当然宿屋を出すぞ。じいさんが黙ってるわけないだろうしな。
大森林の麓からバルボアの街まで続く道はラザック、では海はどうするか? 俺はスバンを引き抜いた。Namelessで働けと。かなり驚かれたが直ぐに了解してくれた。
これから多くの人が二つの領を往来する。漁をする者、物資を運ぶ者、観光客を乗せる者、スバンには他にも協力したい奴がいたら全員連れてこいと言ったら本当に全員来たらしい。
全員Namelessで雇ってやることにした。スバンは元々漁師の中でリーダーだったので、そのまま皆を纏めるように指示を出して、まずは観光客を乗せるための船について考えさせることにした。
当然特権階級を乗船させる機会も増えるだろう。その辺りについてはラザックと細かく確認するように念押ししておいた。ラザックは特権階級や富裕層に対して知識も深く、スバンとも旧知の中なので上手くやるだろう。
「駆け足で内容を話しているがここまでは大丈夫か? ちゃんとついてきてるか?」
と言ってみたが、皆は聞いた内容を書くのに夢中であまりこっちを見てくれてないようだな。
「進捗の確認も含めて定例全体会議を行うつもりでいるが、今日は初日の大事な所だ。心配な所は何度でも説明するから言ってくれ。後でな」
まずは最後まで説明してから個別に話をするとしよう。
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