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よろしくお願いします。
「観光都市?」
そうだな、分かり難いかも知れん。
「そうだ、観光都市だ。ここではあまり作物は採れない。しかし、山があり森があり、僅かとはいえ動物を飼って飼育している場所もある。そして神々が住んでいたと言われる神殿もある」
「ありますが......」
「そこに他の領地や国からの人々が来て楽しめるようにするのだ。その事を観光という。もちろん今言った内容だけではない。人を呼び込めるモノを考えるつもりだ。詳しい事はこれから関係者と話をする。今から名前を呼ばれた者は五日後に侯爵家まで来るのだ。分かったな? ここに居るだろうが、近くに住む者は念のため伝えておいてくれ」
呼び出したのは、商業ギルド、冒険者ギルド、神殿近くで暮らすあの二人。そして街の関係者だ。これだけいれば少し、いや話は直ぐにでも動き出すだろう。
「そして最後に。産業が始まるのは良いがそれまで諸君らがどうして暮らしていくのか。それは五日後に話をするから、そうだな、一週間後に商業ギルドと冒険者ギルドに来ればよい。そこには既に様々な仕事が山のように載せられているだろう。」
まだあるぞ。
「そして、これまで悪政に虐げられた諸君には見舞金として現金を支給する。受け取る資格は全てのバルボアで生きている人間だ。これはそうだな。二週間後を目安に支給を開始する。開始方法については街の関係者を通じて別途連絡する」
「本当なのか?」
「本当なんだろうな?」
「仕事に現金支給だと?」
「生きていけるのか、生活できるんだな?」
「そうだ。今まさに血と涙に濡れたこの大地から新しい力が芽生えようとしている。失われた時間を取り戻すのだ。バルボアは決して死んでなどいないのだ!」
「「「ウオオオオオオオオ!!」」
「この地を笑顔で溢れさす事こそ亡くなった者たちへの手向けとなるだろう。俺、いや私の話はこれまでだ。皆の協力に期待する」
そして、おれはゴードン内務卿と変わり壇上を後にした。やがて熱狂の時は過ぎ去り、まずは屋敷へと戻る事になったのだった。疲れた。でもやるしかないか。
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バルボア城へと戻ってきた俺は直ぐに皆と打合せを再開した。
「すみません、ゴードンさん、ローランドさん、色々とぶち上げましたが。あと還付金に関してもですけど」
「気にするな。それくらいして当然の街の様子だからな。陛下も問題ないと言うだろう」
「それより観光都市とは具体的にどうするのだ?」
俺は説明した。まず神殿を歴史的建造物として祀り、祭る事。これだけで年に一度か二度はイベントを開催できる。アザベル様を大陸中で信仰しているのだ、ここに参拝に来る人も増えるに違いない。
その近くにはテーマパークみたいなものを作る。先に聞いたドッズの話ではモノを作ることに関しては得意だと言っていた。遊具を始めとした様々な建造物を建ててもらう。内容については俺からアイデアを出す。
そして人が集まるようになると宿屋やお土産屋、それに各種商店が必要になるだろう。街並みは大工たちによってガラリと様変わりすることが予想される。そして流通だ。まずアザベル大森林の前まで道路を引く。そこからローランドまでは船で移動するのだ。
副産業の事はひとまず置いておいて、観光都市とは皆にお金を落としてもらう事で成立する。金を落としても良いと、また来たいと思わせるサービスが必要だ。楽しいひと時を家族と過ごせる時間、優雅なひと時を過ごせる時間、欲求を刺激させることが肝要だ。
全ての階層が楽しめる空間を領地全体で提供するのだ。
以上の事から、バルボアは街ごと改造する計画となる。これらのメインは国が金を出す事になるから一部は公共事業となる。主に流通面に関してはそうだな。インフラ関係をキチンとするには国が管理した方が良い。金が掛かるからな。
そしてバルボア側からは観光船を出して近海クルーズなどもできる。海の上で星空見ながら一泊するのも良い。近くの無人島まで行くのも良いだろう。バルボアで独占させるためにしばらくはローランド側からは観光船は出さない事にする。
他の領地や国から酒類を持ち込み上手い食事も提供する。そのルートはドルスカーナに出来つつある。また陸の孤島状態だったこのバルボアには独自に発展してきたバルボア料理もあるだろう。それも併せて提供できる。
「なるほどな。それで肝心な人は来るのだろうか?」
「そこですがね、あまり心配していません。船での移動か可能になれば人の往来は絶対に跳ね上がります。今までローランドでしか物を売れてない商人はこぞってやってきますよ」
「しかしバルボアの民は金を持っていないではないか」
「このバルボア改造計画は奴隷を使わないでやります。対価は全てバルボアの民の収入となりますよ」
「そこで公共事業と言う訳か。給料はしばらく国が払えと、そう言う事だな」
「ええ、言いにくいですがそう言う事です。しかししばらくすると警備は必要になり、街には衛兵が、そして安全のために討伐が、そして人が増えてくると商業ギルドが、全ての業務が加速度的に忙しくなります」
「神殿に人が来なければ難しいのではないのか? バルボアの民は永続的に仕事を持つことが出来るのか」
「バルボアに神殿があると認知されてないからですよ。認知されてないがゆえに、神殿が歴史的建造物として皆知らないのです。それが公になり、近くにはその関係資料が見れる資料館がある。アザベル様を始めとした神々の遺産。祭事を催すようになれば各地から人が殺到するでしょう」
俺は更に続ける。
「近くにはテーマパーク、こう呼ぶことにしたのですが、大きな家族でも恋人でも楽しめるような大規模な公園、施設、ホテル、劇場も良いですね。大きな娯楽が無いこの地域です。家族や恋人はもちろん、富裕層や特権階級は間違いなくやってきますよ」
「ふむ、なるほどな」
「更には先ほども言ったようにここは平原が多い。酪農や畜産業、おそらくメインは畜産業ですね。観光以外の産業も後々増やしていきます。これらは他の都市でも盛んではないですからね。十分結果を残せると思います」
「畜産業に酪農か。それもできるのか?」
「それに関しても追々ゴードンさんたちに相談する事になりますが、今はまず観光の方で道筋をつける事が先決でしょう。畜産酪農系は使う土地の割に多くの人がつける仕事ではありませんので」
「そうなんだな。まあ今は観光都市が優先ということか」
「そうです。当然この地で使われた税収はバルボアの収入となり......」
「陛下へと還元されると言う事だな」
「その通りです」
「よし、分かった。協力できることは無いか?」
「できれば五日後の話の際にNamelessの人間を数名連れて来たいのですが......」
「良いだろう、アデリーゼまでくれば飛行船を出す。誰だ?」
「Namelessの副社長であるレイナと数名、そしてローランド支社長のエミリアですね」
「エミリアって元々ウチのメイドだったエミリアかい?」
「そうですよ」
「驚いたな。今やNamelessの商会長か、支社長だったか。偉くなったもんだな。Namelessの責任者の一人って事だろう? とっくに富裕層の仲間入りって事か」
「まあ、トップの一人ですからね。一般とはその給料に差はつきますが詳しい事は内緒ですよ」
「分かっているさ、詮索はしない」
「すみませんね」
「呼ぶ者はそれだけで良いのか?」
「うーん」
「呼びたい者は全員呼ぶが良いだろう。お前が困っていると知ればゾイド伯爵が放っておくとは思えんしな。街ごと引越してくるとか言うんじゃないか? ハッハッハ」
流石にそれは無いだろうが、じいさんならやりそうな気がするだけに笑えないぜ。
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