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よろしくお願いします。

 思わず内務卿の方を二度見してしまった。


 何を言っているのだ。具体的な案だと? あるかそんなもん。ゴードンさんは俺の方をじっと見つめマイクを差し出している。その目からは『何とかしろ』と明確な意思が伝わってくる。


 そう言うのは政治利用ではないのか? 確かにこの現状を見てみぬふりをする事は俺もしたくはない。そう言ったことを考えながらも仕方なく俺はそのマイクを受取った。


 しかしその時、内務卿は俺の耳元でハッキリと口にした。


「済まぬヒロシよ、何とかしてくれ。この街はこのままでは本当に滅んでしまう。苦しむ民衆を前に幸せを約束することが出来ず何が国だ、何が内務卿か。全ての責任は私が必ず持つ。助けてくれないか。この通りだ、頼む。知恵を......知恵を貸してくれ」


 その目には涙が浮かんでいた。ああ、この人は政治とかに関係なく、いや、政治家だからこそか。この場を見て心の底から憂いているのだ。何とかしたいと心から願っているのだな。


 政治家の演技かも知れない、体よく利用されているだけかも知れない。だが、今この瞬間。この人、そしてローランドさんも本気で何とかしたいと考えているんだな。


 この涙は嘘ではない、心からそう感じる事ができた。


 壇上に上がるとそこからはまた違った景色が見えた。少しだけ高いだけなのにこうも景色が変わるんだな。初めてホスドラゴンに跨った時を思い出す。あの時も周りの景色は一変したな。たった少しの事なのに。


 ああ、そうだな。これで行くか。


「ただいまご紹介に預かりましたヒロシと言います。先日ギルドや街の人とは何名かお話させてもらっているので、その時私を見かけた人もいるかもしれませんね」


 俺は嫌われ者になるしかない。それしか今の現状から抜け出すことは出来ない。その結果どうなるかは半分賭けだな。できれば上手く伝わってくれることを願うのみだ。


 民衆の視線を前へ、気持ちを上へと押し上げるのだ。


「正直この街を見て思った事、それは『この街は既に死んでいる』だ。どうしようもない、死ぬのを待つばかりと言うのが私の感想だ」


 一斉に民衆の中に怒りを含んだ感情の波が沸き起こる。ゴードンさんを含めた関係者が一斉に俺の方を振り返っているのも横目で感じ取れた。


「だってそうだろう? バルボアが解放されても誰も何も始めない。領主が悪いだの、また同じ繰り返しだの、耳に入ってくるのはそんな泣き言ばっかりだ」


 怒気を含んだ感情は辺りに伝染しみるみる大きくなってくる。


「虐げられ、差別され、奴隷に落とされ、金を毟られ、それは苦しかっただろう、辛かっただろう。よく理解できるさ。だが、解放されて尚、それでも下を向いて暮らしていける諸君に施すものなど何もない。いや、勿体ないと言った方が良いか?」


 とうとう民衆の中から声をあげる者が出てきた。


「黙って聞いてりゃ好きかって言いやがって! 俺らも出来るもんならなぁ......」


 そこまで言うと、その男の側にいた何人かに直ぐに止められた。そうだろう、ただでさえ伯爵家に暴言を吐いた上に、旧バルボア制度の呪いが掛かっているのだ。即死罪、良くて奴隷落ちと思うだろうな。


「今は不敬だなんだの気にするな。どっちみち死んでいく街だ。言いたい事を言ったらどうだ? それとも伯爵家の言葉は最早信用ならんか? 侯爵家や内務卿の言葉すら信用できないか?」


 俺は煽った。徹底的に煽った。傷口に塩を塗り込むような、死人に唾を吐くような所業だ。正直言っている自分が嫌になるが仕方がない。仕方がないのだ。彼らの積もった鬱憤を爆発させるのだ。俺の言葉に当てられて、民衆から罵詈雑言が飛んで来始めた。


「また奴隷に落とす気だろう?」


「そうやって金をまた奪うつもりだろう?」


「女を連れて行く気だ」


「もう、お前らの言うことを聞くのはウンザリだ」


「俺らから獲れるもんなんて何もない、やれるもんならやって見ろ!」


「殺すなら殺してみろ!」


「その前に今度は俺らが黙っちゃいない! ただでは死なない!」


「あの時バルボアを救った英雄が今度はお前たちを許さないだろう!」


 凄まじい怒気だ。広場は今まさに爆発寸前となり今にも暴動が起きそうな気配が辺りを包む。よし、ここからが本当の勝負だ。俺は今日一番のでかい声で民衆の声を掻き消した。覇気をのせて。


「静まれ!」


 俺は言葉を繋ぐ。


「それだ。その言葉を待っていた。何を言われても無気力な諸君らに言葉を投げても届かない。今なら()の言葉を聞く気になれるんじゃないのか? お前達は何もないのか? いや、違う! お前達は持っているではないか、その怒気に含まれた溢れる情熱とプライドを!」


 民衆がざわつく。


「その情熱とプライドがある限り、バルボアは復活できる! 必ずな!」


「そんな方法などあるものか!」


「ある!!」


 俺は大声を出して伝えた。もう叫んだと言って良いだろう。


 また言っちまったぞ。


 しかし今回は後に引く訳にはいかん。絶対に何とかしないといけない状況だ。俺はチラリとゴードンさんとローランドさんに目を向ける。『良いんですね?』という合図だ。


 二人は俺の意思を組んでくれたようで、二人ともしっかり頷いてくれた。


 よし、ここからはリンクルアデルの金を存分に使わせてもらうとするか。後で文句を言っても知らんぞ。死なば諸共、お二人には俺の案に無理やりにでも乗ってもらう。



お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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