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よろしくお願いします。
「なるほど......あそこの岸近くに寄せる事は、つまり停泊することは出来るのか?」
「海の色を見る限りそんなに浅くはなさそうですの近くまでは行けそうですね」
「そうか」
「行きますか?」
「いや大丈夫だ。ただ帰りはあそこで停泊しておいてくれないか?」
「え? 良いんですか? 飛行船でお戻りになられるかと思っておりましたが」
「そのつもりだったが予定変更だ。帰りはここから船に乗る。そうだな、二十日後の昼から待つようにしてくれ。あとそうだな。必要ないかも知れんが船をあと二隻ほど頼む」
「了解です、ただあまり奇麗な船を期待されたら困りますが...」
「その辺は気にするな、もし追加で移動する事になれば、関係者には予め説明しておく。遅れた場合だが海の上で待つのは問題ないのか?」
「ありがとうございます。承知致しました。あと、海上で待つ分には問題ありません。ある程度食料も積み込んでおきますので」
「そうか、助かるよ」
森の端からバルボアの街まで馬車で平原を一日ちょっとか。おそらく200㎞程度という事かな? これは悪くない情報なんじゃないのか? 馬だけならもう少し早いだろうが、いずれにせよ上の状況は見えないので後から確認しておきたい所だな......
「あ、スバン。心配するなよ。掛かる費用やら何やらはちゃんと払うからな」
「ご心配なく。ラザックが惚れた人だ、気に掛けて頂いただけで十分です」
「ラザックそんな事言ってんの?」
そうして船は城の裏側に到着する。今度は出来る限り船を寄せてくれた上に小舟を出してくれたので、俺たちはほとんど濡れることなく上陸できたのだった。
見上げるは断崖絶壁。あの時はよくこんな所を登ったよなと思う。クロも同意見なようだ。
「ラザック、すまんがここの壁を登るんだよね。ええと、落ちるなよ?」
「......気を付けます」
ラザックは途中何度か足を滑らせながらもなんとか登り切ったのだった。そして登り終えた先にはローランドさんとゴードン内務卿が待っていてくれていた。
「ローランドさん、お迎え頂き本当にありがとうございます。また正装でなくて申し訳ありません。あれ? ゴードンさん、バルボアに来てくれたのですね」
「ああ。戻ったら直ぐに行けと陛下からの命令でな。お前さんが何か言いだした時のために、決定権と一緒にやって来た訳だ。お前が海から来ると言うので飛行船を使わせてもらったがな」
「助かります。それでローランドさん、少し痩せました?」
「嫌でも痩せるわ! 悪いけど相談にのってくれ」
「できる限りの事は。あと、こちらロングフォードで新しく准男爵になったラザック・イスマイルです」
「ヒロシ様にはいつもお世話になっております。ご紹介にあずかりましたラザック・イスマイルです。正装でご挨拶できないことをお許しください」
「なに気にするな、今回は仕方ない。さあそれでは参ろうか」
そうして俺たちはバルボア城へと向かったのだった。
侯爵の屋敷に着いた後、汗を流してから俺たちは会議室で話をしている。
「そうか、今回のバルボアでの滞在は長くて一ヶ月か。しかし最初は見るだけになるだろうからな。ローランドよ、そんなものだろう?」
「ええゴードン卿、まずはこの街を知ってもらう所からですね。私もまだ全部は把握できておりませんし」
ローランドさんは現在のバルボアの状況を説明してくれた。いや、想像はしていたがやはり相当酷い状況だった。なんせ金が無い。とにかく金が無いのだ。恐ろしく高い税額だったわけだが、そもそも民衆も金が無いので税金を満足に納める事も出来ない。痩せた土地で作物も多くは採れない。
これは困った。しばらく三人でウンウン唸っては見たものの答えなど出ようはずもない。
「とりあえず、街中と郊外を視察しますか」
「そうだな」
「では、馬車の手配をしておこう」
そう言うとローランドさんは近くのメイドに声を掛け準備を急がせた。
街は一言で言うと荒んでいた。何だこの西部劇で見たような景色は。バルボアの馬車が通るだけで家々の窓がバタンバタンと音を立てて閉まっていく。子供を引っ張って家の中に走り込んでいく女性。店の看板は軒並み閉店に変わっていく。
領主が変わった所で悪政は続くと思われているのか。そらローランドさんも痩せるわな。商業ギルドはもう機能していないかのような傷んだ建物だった。『バルボアの光』か......取り合えず中へ入ってみるか。
「ごめんなさい、仕事はないわよ。悪いわね」
受付に一人の女性が座っていた。もう身だしなみも気にしている様子はない。こっちを見てもいないぞ。
「貴様、ゴードン卿に対して不け......」
俺はローランドさんが叫びそうになるのを手を出して制する。俺は目でここは任せてくれないかとお願いした。二人もこの状況で自暴自棄な彼女を見て仕方がないと感じたのか了解してくれた。
「ああ、仕事はないのか。いつから無いんだ?」
「もうずっとないわよ。誰よあなた?」
「俺はヒロシと言う者だ。君の名を聞いても良いかい?」
「私はエリーゼよ。一応ここのギルド長、笑っちゃうけどね」
「他の従業員はいないのか?」
「居ないわよ。仕事が無いから皆辞めてもらったわ。それもこれも誰のせいかしらね?」
彼女は俺の後ろの方を見て吐き捨てるように言った。流石に二人が誰だかは知ってたんだな。もうヤケクソって訳か。俺はいまのギルドの状況、街の状況をゆっくりと聞いていった。
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