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少し悩みながらなので更新が不規則になりすみません。
よろしくお願いします。
ローランドは今暫定的にアデリーゼが領地を見ている格好になっている。ローランドさんは既にバルボアへ移動しているそうだ。向こうは離れているので領主が移動して直接見る事が必要らしい。
しかし、この先この街の名前はどうなるのだろうか。ロングフォードになるとアルガスにロングフォードが二つできる事になり少しややこしい事になりそうだが。
「それじゃあ、行ってくるよ。今回はバルボア行きだから少し長い間留守にするけどね」
「仕方ないわね」
「お気をつけていってらっしゃって」
「僕も行きたい」
「えーと、ロイはまた必ず連れて行ってあげるからな。約束だ」
「むー」
「ロイはまだ小さいからダメよ、今回はお姉ちゃんだけね」
「いや、シェリーもお留守番なんだがな......」
「どうしてよ!」
そうして子供たちの非難の目に晒されながら俺たちは出発したのだった。伯爵家の馬車で行こうと思っていたのだがラザックが馬車やら護衛やらを準備してくれるらしい。
特に行事ごとでもないので、悪いと思いながらもありがたく申し出を受けることにした。ローランドまではバイパスが開通しているので、山やら森やらを抜ける事を思えば非常に楽だ。
「准男爵になって何か変わったかい?」
「ええ、ヒロシ様。まだ数日だと言うのに今まで付き合いの無かった商店や士爵家が毎日面会を求めてやってきます。ウチがNamelessと懇意にしている事は周知の事実ですので、その傘下に入りたいのでしょう」
「そうか、大変だな。いや、スマン他人事みたいな返事だったか」
「大変ではありますが、なんと言うか苦痛ではありませんよ」
「なら良かった。で、その呼び方何とかならないか? 前はヒロシさんだったろう?」
「いえ、以前は私が至らなかっただけです。ご好意に甘えて敬称を付けないなどと。ヒロシ様は既に伯爵家の跡継ぎとなられた方です。特別扱い頂けるのは嬉しいですが、他の者に示しがつきません」
「そうか、なんか遠く離れたみたいで寂しいよ」
「何を仰いますか! 逆ですよ。むしろ近しくなったと思って頂きたく」
「そうか? じゃあ敬称は兎も角なるべく堅苦しいのは無しで頼む。せめてプライベートの時はな」
「そうですか...分かりました。では、そのように。でも伯爵様をさん付けとか、タメ口とかはどうかと思いますけどね」
「そう言われてみればそうかもな。俺がゴードン内務卿やレイヴン軍務卿をさん付けで呼んでるのがおかしいよな」
「侯爵様から直接許されたのでしょう、流石ヒロシ様と思いますが。私がレイブン軍務卿をさん付けで呼んだらその日のうちに首が飛びますよ」
「おそろしい。まあその辺りはもう任せる。好きに呼んで話してくれ。良き友人としてな」
「もちろんです」
そして、日が落ちる少し前に俺たちはホテルへと到着した。受付嬢は俺に気づくと直ぐに対応してくれた。
「お待ちしておりました、ヒロシ様」
「あれ? 連絡来てたの?」
「もちろんでございます。大旦那様より伝書鳩が」
「そうか、なら助かる。じゃあ部屋を頼むよ。食事はそうだな...ここのレストランで食べるよ。四人で頼む」
「畏まりました」
「ヒロシ様、私は隣の宿屋でも」
「何言ってんのさ。そこは気にするな。では、部屋で荷物を置いたらそこのレストランに集合だ。ああ、お姉さん。悪いけど慣れてないから...」
「全て心得てございますのでご安心を」
「そうか、ならいい。ありがとう」
そしてしばらくして俺たちはレストランで集合した。食事は個室を用意してくれていた。目敏い商人たちは俺がホテルに宿泊するのを見ているので、何とか挨拶だけでもとホテル側へ頼み込んだらしい。
ソニアと結婚してからは商会の会長という肩書だけではないので直接話しかける事は憚られる。まして今は伯爵の息子という立場だ。肩を叩いて『儲かってまっか?』などと出来ないのだ。
俺が許してもラザックが許さないだろうな。その瞬間に不敬認定されてラザックに処罰されるかも知れない。こういう事はじいさん経営のホテルなので、従業員も当然その辺りは心得ている。
と言う訳で俺たちはゆっくりと食事を楽しむことが出来たのだった。移動距離が少なくなったとはいえ一日馬車に乗るのは本当につらい。辛い分だけビールも美味いってものだ。
そうだ、ラザックには今後の動きも含めて少し仕事の話をしておかなくてはな。
「ラザック、ローランドに着いたその日はウチの商会に行く。そして翌日にはもうバルボアへ移動したい。慌ただしくて悪いけどな」
「全く問題ありませんよ」
「そう言ってくれると助かる。で、ラザックは元冒険者だよな? まだ体力に自信はあるのか?」
「ええ、それなりには。体はなるべく動かすようにしていますし。ヒロシ様はどうなんですか?」
「ふっふっふ、かなりサボってはいたのだがな。最近はこのクロと一緒に毎朝トレーニングをしているのだ」
クロはホテルの従業員がサポートしてくれるので俺たちと一緒に食事を取っている。個室の外の警護はラザックの護衛に任せているしな。
「旦那様が基礎体力が必要とか言い出しましてね。朝から叩き起こされるんですよ、なぜか私まで」
「なんだよ、早起きは良いだろう」
「まあそうなんですけど」
「わ、私はそのおかげでクロードさんと毎日一緒に朝食を食べてます」
「え? クロちゃん、あの後シンディと朝食をとってるんだ? 早起きは良いだろう?」
「......まあそうですね」
クロちゃん照れてんのか? 青春してるんだな。
「で、体力がどうかしたんですか、ヒロシ様」
「ああ、そうだ。バルボアへはまた船で行きたいんだよ」
「船ですか?」
「森を十日間かけて抜けるのはダメだ。断崖絶壁を登った方が良い」
「護衛はどうしましょうか?」
「体力のあるやつ二、三人以外はローランドに待機だな。ゴードンさんがバルボアへ伝えておいてくれるから、絶壁の近くまで迎えが来てくれているはずだ」
「承知しました、それでどんな商売を考えているのですか?」
「正直何もまだ考えてない。だってバルボアのことよく知らないから」
「ですよね」
そう、多少思いつく事があれば良いのだが何もないのだ。期待してくれている内務卿やローランドさんの顔を思い浮かべると、申し訳ないやらプレッシャーやら色々な気持ちが沸き起こるのだった。
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