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よろしくお願いします。
「ヒロシ様、是非ドルスカーナにお越しの際には冒険者ギルドへお越し下さい。大体私はそこに居ますので。あ、何なら私の家にちょちょちょ直接来て頂いても構いません」
「アッハイ」
「ヒロシ様、近々ドルスカーナではなくバルボアへ行かれるのでしょう? その時にはアデリーゼに必ず来てくださいね。きっとドルスカーナのレインヒルズより楽しいですわ」
「アッハイ」
「何よあなた?」
「あなたこそ何よ?」
「ロイヤレだかクイーンだか知りませんけど、そんな鎧を着たままでヒロシ様に近づいたら危ないわ。怪我でもしたらどうするのよ? ガサツな王女様ですわね?」
「はあ? ロイヤルジャックよ。良くそれで王女とかやってるわね? アンタの無駄に長い髪の毛が目に入る方がよっぽど危ないんじゃないかしら? 似合ってないんだから切れば?」
二人の間にバチバチと目に見えるほどの火花が散る。
「「ぐぬぬぬぬぬ」」
「「おやめなさい!」」
二人の王妃様は軽くこめかみを指で押さえている。
「「貴女方はもう少し女性としての振舞いを身につけなさい。全く嘆かわしい」」
「でもお母さま、この茶トラ猫が」
「だれが茶トラ猫よ! このクソ王女わざと言ってるわね、この場でケリをつけてやるわ」
「「いい加減にしなさい!」」
二人は首根っこを掴まれ、騎士団の奥へと追いやられた。王妃様は互いに目を合わせ一つ溜息を吐くと、一礼して元の定位置に戻るのだった。
俺は魂が抜けてしまった。呆然と立ち尽くすだけだぜ......泣いてもいいですか?
そんな様子を離れた場所から見る民衆は分かるはずもなく。二人の王女はそれは仲良さそうに見えているのだった。そして多くの民衆に見送られながら陛下とダルタニアス王は帰っていった。何故かマリー王妃様だけを残して。
王妃様が残った理由はロングフォードの視察をもう少し詳しく、とのことだ。一月ほど延長して飛行船が迎えに来るらしいがそれまで王妃様は毎日のように街へと向かい視察を行うとの事だ。主な視察場所はマダムストリート......王妃様ハッキリ言ってエステの視察ですよね?
王妃様の警護は伯爵家と残った騎士団が行う。俺は完全に別行動だ、一応仕事もあるからな。色々考えた挙句、俺はバルボアに行くことにした。ローランドさんも困っているだろうから何か手伝えれば助けてあげたい。
ゴードン内務卿がローランドさんに伝えておいてくれるとの事なので、準備が出来たらそのままバルボアへ向かえば良いだろう。あと、バルボアの待ち合わせ場所まで迎えに来るようにとも伝えてくれるらしい。
本当に助かる。今回ローランドからバルボアへ移動するのは少数で、と考えているからな。あと、移動するその前にNamelessでレイナ副社長と今後について話をしておかなくては。
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「スマン、レイナ。と言う訳でこういう事になってしまったんだよね」
今、俺は社長室にレイナを呼びドルスカーナに関する仕事の話をしている。サティとソニアは王妃様対応なので、ここにはクロとシンディしかいない。レイナはどこか一点を見つめ黙っている。ブチ切れられるかもしれんな。
「社長......」
「ま、待て。お前が死ぬほど忙しいのは重々承知しているのだがな。いや、組織を少し変えてもう少しお前の負担を軽減できたら良いなとも考えているんだ。だから辞めるとか言うなよ?」
「とんでもない! またNamelessは、この商会は大きくなるのですね。しかもあのドルスカーナのダルタニアス王とパイプを作ってしまうだなんて......わたし、感動しております!」
「お、おう」
良かった、怒ってはいないようだな。しかし、大丈夫かレイナ。喜んでくれるのは嬉しいが過労でぶっ倒れられたりすると心配なんだが。
「社長の言わんとする事は分かります。でもご安心下さい、私にはこれがあります」
そして、レイナはカバンからブルワーク24を取り出して俺に誇らしげに見せた。お前、それを常に持ち歩いてるのか? 俺はなんだか申し訳ない気持ちで一杯だぞ。
「いや、お前には休暇を与えるのが先のような気がする」
「嫌です! 私は働きたいのです、お願いです。それとも私はもう必要ないのですか? 捨ててしまわれるのですか!?」
「こらこらこらこら、人が聞いたら誤解するような言い回しをするんじゃありません」
「だったら」
「だったらじゃありません。狙って言ってんのかお前は。いや、仕事を続けてもらう事は俺としてもありがたいが、無理をして倒れてしまわないかと心配なんだよ」
「社長はそれほどまでに私の事を......」
「体調だ、体調の事だぞ」
お前のその言葉の端々に何か引っかかるものを感じて俺は少し恐ろしい。とにかくレイナが全ての支店を巡回する訳にも行かないので、各商店には責任者を置くことにした。
例えばいまローランド支店にはエミリアさんが居る訳だが、レイナの窓口ではなく新しく役職と、ある程度の権限を与えることにしたのだ。権限を与えるからには誰でも良いと言う訳ではない。
様々な側面から判断し何名かの支店長候補となる者をピックアップした。ローランドは良いとしてドルスカーナのイーストレイク、サティの実家の街だな。それとウエストアデル、そしてアデリーゼだ。流れ的にバルボアにも作る事になりそうだが。
とにかくNamelessはまた仕事を抱え、大きく飛躍しようとしているのだった。
考えている商売、ドルスカーナはいうまでもなく砂糖だ。あと主な商品としてはフラワーリザードの取引。これをウエストアデルの支店と繋ぐ。
そしてウエストアデル。砂糖とフラワーリザードに加え、酒類をロングフォードに運んでもらう。しかしこれまで商売が上手くできていない理由、それはウエストアデルとロングフォード間はかなり遠く離れている事だった。
それは二領を隔てている谷だ。ここを渡れれば実は思いのほかウエストアデルは近い。俺はそこに橋を掛けようかと思っている。それが出来れば商売はもっと上手くいくはずだ。
問題は費用だが、これは国家事業にしてリンクルアデルに投資してもらおうかと思っている。ウエストアデルはもちろん、ドルスカーナへも近くなるのだ。恐らく問題なく事は進むだろう。
ローランドは今のままロングフォードとの取引で良いとして、アデリーゼである。もうここはエステしかないと思っている。王妃様にロングフォードに居座られても困る。なんてったって王都だからな。富裕層と特権階級の巣みたいなものだ。
王妃様を始めとする数々の体験談とその目に見える結果、そして領を跨ぐほど噂になっているエステサロン。グフフ、失敗する訳ないぜ。この地での商売は何の問題もない。
問題はバルボアだ。あの時はバルボア城と断崖絶壁を登った記憶しかない。そう考えるとやはり優先順位としてはまずバルボアに行ってローランドさんと話をした方が良いだろうな。役に立ちそうになかったら謝るしかないが。
その後ゴードン内務卿と相談させてもらおう。恐らく陛下と王妃様も出てくるだろう。よし、これでいこう。と言う訳で、俺はクロとシンディと共にバルボアへ行くことにした。あとラザックも連れてな。
王妃様対応もあるのでサティとソニアは今回残ってもらう事にした。商売の話だけだからな。また旅行に行く時には皆で行こうと思う。
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