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今日もできる限り継続投稿します。
よろしくお付き合い下さい。
「ありがとう、コロナちゃん」
受付の前でコロナちゃんにお礼を言っている。今は絶賛勧誘され中だ。
「いえ、お気になさらず。えーと、ヒロシさんは冒険者にはならないんですか?」
「うーん、まだ考えてないなぁ。いずれはって感じかな」
「登録はすぐにできますよ? どうですか?登録したら牛乳がもらえますよ?」
献血のノリかよ。アルガスの冒険者諸君、大丈夫か?
「はは、了解。その時はよろしく頼むね」
「えー」
なんだ、コロナちゃんその残念そうな顔は。冒険者ってそんなに少ないのか?
「ヒロシ君。少し補足するとね、冒険者になると牛乳だけじゃなくちょっとした特典が付いてくるの。例えばパスに冒険者のレベルとクラスが表示されると冒険者はたとえ低位の冒険者でも各国から優遇されるわ」
ソニアさんは人差し指をぴんと伸ばして説明してくれている。
「冒険者に依頼したい仕事は山のようにあるからね。宿泊施設はもちろん食事や施設の使用料全て割引が効くの。あとクラスが上がると社会的信用も上がるわ。その発言力は増していくし指名依頼が入り出すと依頼料も高額になるし名声は他国へと響いていくわ。ちょっとした英雄扱いよ?」
「なるほど、コロナちゃんとの説明に差がありすぎるのが気になるが......じゃぁ登録だけでもしておこうかな」
「ホントですか! ありがとうございます!」
『登録者を増やすとね担当にはボーナスが出るの。あ、でも誤解しないでね。コロナちゃんは誰でも危ない目に合わそうなんて考えてないから』
そっとソニアさんが教えてくれた。そういうボーナス特典があるんだな。クロードによるとコロナちゃんも事情があるようだし登録くらいはしてもいいだろう。
『分かってる。悪意はないと信じてるよ』
『それなら良かったわ』
ソニアさんも良い人だ。
「クロちゃんはもう冒険者なのかな?」
「違う、あと何度言ったら分かる! クロちゃんと呼ばないで下さい!」
「ふーん、じゃぁ、お前も一緒に登録する?」
「俺は冒険者風情に興味はない!」
お前、ギルド内でそういう問題発言を大きな声で言うなよ......ちょっと煽った俺も悪かったけどさ。
「あ? この犬野郎! 今なんつったんだ?」
ほら来た......ガラの悪い連中がこちらを睨んでいる。10人くらいいるぞ。テンプレと言うやつだが、難癖付けてきてる訳じゃない。明らかに非はこちらにある。あと、クロードは犬じゃない、狼だ。そこ間違えるとうるさいぞ?
「は? 耄碌してんのか? 俺は狼獣人だ。そんなことも分からないで良く冒険者なんて務まるもんだな。やはり冒険者なんて所詮は暴力でしか物事を解決できないクズの集まりだ!」
ほらな、噛みつくんだよ、ウチのワンちゃんは。しかし、なに無茶苦茶言ってんのお前さんは。火に油を注ぐどころじゃないぞ。しかもお前って執事でソニアさんと俺の付き人だよね? 主人を進んで窮地に追いやる執事ってダメだろ。
「てめぇ死にたいらしいな!」
コロナちゃんはオロオロしてソニアさんも驚いてるぞ。ソニアさんは口が開いたままだ。当然だが俺も驚いている。そして同時に呆れてもいる。
これも精神耐性のおかげなのか、妙に客観的に見れてるぞ。もしかしたらただの現実逃避と言うのかもしれん。参ったな、どうしたもんか。
「クロード! この方たちに謝罪しなさい!」
ピシャっとソニアさんが言った。おぉ、再起動がはやいな。流石男爵家ご令嬢。
「いや、しかし」
「明らかに非はあなたにあります。冒険者になるもならないもその人の都合です。あなたに第一線で頑張っている人を辱める権利などどこにもありません。謝罪をしなさい!」
「も、申し訳ありません。失言でした」
「はぁ? 今さらスンマセンでしたで済む話じゃねぇんだよ! てめぇらぶっ殺してやるからよ! あと、そのねーちゃんもちょっと後で相手してもらうぜ。慰謝料代わりになぁ!」
はぁ、このパターンか。まあテンプレ通りこの冒険者自体はクズってことは分かった。だけど見た目ちょっと厄介そうだし、TPOを考えるとここで騒ぐのも良くないだろう。
ここは俺も一つ謝っておくか、大人としてな! と俺はポケットの金貨を1枚握りしめた。じいさんからお小遣いとしてもらった金貨3枚のうちの1枚だ。金貨の価値はまだ分からんが、これしかないので仕方がない。
「いや、皆さんすみません。私どもの連れがつまらない発言をしてご気分を悪くされたことはこの通りお詫び致します。重ねてご気分を悪くされたら申し訳ありませんが、お詫びとして少し包ませて頂きます。どうかこれでこの場を収めて頂けま......グボァ!」
俺は殴られて吹っ飛んだ。何故殴られる! 痛ってぇ!
「うるせえぞ、このボケ野郎は! 今更こんなもんでどうにかならねぇんだよ! くそ犬をぶっ殺して、ねーちゃんと酒でも飲んでその後は......なぁ? お前らよぅ!」
「あぁ、そうだ!そうだ! 今日は一晩中付き合ってもらうぜ? ヒャッハッハ!」
セリフが世紀末のそれだ。しかも金貨はちゃっかり拾ってるし。女性もいるからできるだけ穏便に済ませたいなぁ。でも、こんな奴ら別にどうってこと......と考えたりしていると同時に頭に例の声が鳴り響いている。
戦闘に移行する可能性が高いと判断されました。能力に応じたスキルの付与を開始します。
”一騎当千の能力よりスキル気配察知が付与されます。”
”一騎当千の能力よりスキル思考加速が付与されます。”
”一騎当千の能力よりスキル並列思考が付与されます。”
”一騎当千の能力よりスキル威圧が付与されます。”
”一騎当千の能力よりスキル体術が付与されます。”
”一騎当千の能力よりスキル肉体強化が付与されます。”
”一騎当千の能力よりスキル気合いが付与されます。”
”エラー:スキル気配察知は習得済み”
”エラー:スキル並列思考は習得ずみ。”
”エラー:スキル思考加速は習得済み”
”エラー:スキル威圧は習得済み”
”エラー:スキル身体強化に書き換え済み”
”エラー:スキル気合いは習得済み”
”エラー:スキル体術は習得済み”
”付与したスキルが習得済みのためスキルの上位互換への書き換えを実施します。”
”上位互換へのアップデートには時間が掛かります。”
”そのまま電源を切らずにお待ち下さい。”
おい、待てるかよ! ちょっと待て! 電源てなんだよ? パソコンか! 失敗してんのか?
まぁ、良い。確かに発端はこちらに非があるが、向こうも恐喝及び拉致監禁発言があるからな。いざとなったらボコボコにしてトンズラしてやる。自慢じゃないが俺ってば意外と腕に自信ありなのだよ。
自惚れてる訳じゃないぞ、決して。最大の敵は自分である事は百も承知だ。その上で言わせてもらう。コイツらくらいに断じて遅れはとらぬ!
鮭が何匹かかって来ようがクマの敵では無いわ!
ちょっと例えが良くなかったが、まぁそういうことだ。俺が恰好をつけながら、ゆっくりと立ち上がろうと身を起こしたその時だった。
読んで頂いてありがとうございます。