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よろしくお願いします。
本日二話目となります、ご注意ください。
ドルスカーナからダルタニアス王がやってくるのはもう少し後らしい。陛下達には旅の疲れをまず癒してもらい、ここ数日はゆっくり過ごせている。俺は基本的に男爵家にいることもないのだが、今日はじいさんから、恐らく陛下だろうが呼び出しを受けたので男爵家へとやって来た。
アンジェを始めとする姉弟三人は信じられないだろうがウインダムを数名連れて俺の家にいる。名目は国家御用達商会の本社視察。並びに工場の視察だ。だがその真意はいうまでもなく、アンジェがサティとソニアに会いたいからだと思う。シンディはソニアにつけているぞ。
という事なので今日は別行動だ。流石に姉弟三人は用が済んだら男爵家に戻ってくることになるけどな。だた工場や街中に行く時には周りに騎士団を連れての移動だ。お忍びでもなんでもない。街中えらい騒ぎになっているだろうな。それも娯楽の少ないこの世界では良い事なのだろう...と勝手に結論付けておく。
「ヒロシよ、久しぶりだな。息災か?」
「はい陛下、おかげさまで毎日楽しく過ごしております」
「ワシが話す前にマリーからお前に言う事があるそうだ」
「あ、はい」
すると横に座っていた王妃様と目が合った。
「大変ご無沙汰しております」
「いいのよ、今更堅苦しい言葉は不要です。その節ではアンジェが本当にお世話になったわね。改めてお礼を言わせて頂戴。ありがとう」
「勿体ないお言葉です、マリー王妃様。それでお話とは?」
「明日、エステに行きます。以上よ」
「え?」
「お願いね?」
「あ、はい」
はっはっは、なんとも一方的な物言いよ。ハリセンがあれば頭を叩いている所だ、スパァンとな。こっちの予定はお構いなしか? 俺が権力に屈しない男だという事をもう一度認識させる必要があるようだな。
「女性陣は皆行きますのでそのつもりで」
「アッハイ、畏まりました。明日の朝にソニアとサティがお迎えに上がります」
「ありがとう、楽しみにしているわ」
まあ、こうして相手も楽しみにしてくれて礼まで言っているのだ。そうカリカリすることもあるまいよ。行く事は分かっていたので別に良いんだけどね。以前のアンジェとの時もそうだったがお妃様には逆らえない。ドルスカーナのナタリア様と言いどうしてお妃様の方が怖いのだ。言葉に威圧を含めるのは禁止です。
「そっちの話は終わったか? よし、今日お主らを呼んだのは今後の領地についてだ」
「陛下も前持って言ってくれれば私も心の準備が出来ていたものを。お人が悪いですな?」
「そう言うなゾイドよ。お前の驚く顔が見たくての。アルバレスにはバルボアへ行ってもらう事になった訳だが、その代わりを考えた時にやはりお主しか頭に浮かばなくての」
「それ以外の理由もあるかと愚考致しますが?」
「それを言うな。アルガスの領主にお前をと考えていたのは本心だ、そこに嘘はない。お前が考えている要素があると言うのも余としては否定はせぬがな。これからもアルガスの発展に尽力してくれ」
「まだ引退は出来そうにはありませんな」
「当たり前だ。お主にはまだまだ頑張ってもらわんとな」
そこで陛下は言葉を一度切って俺の方を見た。
「お主、ドルスカーナへ行ってたそうだな? そこでの話を聞かせてくれぬか?」
「もちろん構いませんが、もしかしたら陛下にとって面白くない話かもしれませんよ?」
「それも含めて知りたいものだな」
どうせダルタニアス王が来たら全部知る話だ。前持って言っておく方が良いだろう。俺は全てを話すことにした。これはじいさんとも話していた事だ。俺に出来る事は両陛下に対して正直である事、これこそが俺の今の立場で一番うまく収まる方法だと思うからだ。
どちらかの国に傾倒することは俺にとって本意ではない。もちろん敵対するというなら話は別だがこの二国は俺にとって大事な国だからな。俺自体が争いの種になる事は避けたいのだ。
「なるほどのう」
「これが全てです。会談の際にも話は出るかと思いますが」
「分かった。しかし砂糖とはな。気にするな、巨万の富とはいえドルスカーナはお前にとっても大事な国だ。お前を責める事など誰が出来ようか。リンクルアデルは既に医療産業などで他国に対して絶対の優位性がある。これもお前のお陰でな」
「そう言って頂けれると本当に助かります」
「恐らくゾイドも同じ考えだろうが、巨万の富と引き換えに得た物は計り知れない。両国はこれから更に友好関係を強めていくだろうな」
「そうなれば嬉しい限りです」
「うむ。これよりは少しゾイドと領地に関して話があるのでな。ヒロシは明日の準備もあるだろうから今はこれで良いぞ」
「畏まりました。また何かあればお呼び下さい」
そうして俺は部屋を後にして一旦商会へと戻ることにした。アンジェともほとんど話せてないしな。じいさんには悪いけど一足先に戻らせてもらうぜ。
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「ゾイドよ、お前はドルスカーナについてどう見る?」
後から内務卿のゴードンが部屋に入ってきており改めて話が再開されている。
「陛下の仰る通り、リンクルアデルとは友好関係が増すでしょうな。しかし将来ある時期より少し微妙な関係になるかも知れませんな」
「ドルスカーナ王家の姫君の事を言っておるのだな?」
「その通り」
「一番政治に関わりたくないと言う男が、どうしていつもいつもその渦中の真ん中に居るのだ?」
「いやはや面白いものですな。陛下はダルタニアス王とはどのようなお話をお考えですかな?」
「それはゴードンとも話したのだがな。もう腹を割って話すしかないと言う事になった。恐らく向こうもそうだろう」
「でしょうなぁ」
「神託がある以上、全てはヒロシ次第なのだ。二つの大国の王が権力を持ってしてもどうにもならん。そんな人間がまさか現れる日が来るとは。だが余はそんなヒロシを嫌いではないのだ。」
「政治的な野心が無いからでしょうな」
「恐らくな。商人である以上欲は確かに持っている。それはそこらの人間よりよっぽどな。だがお主の言う通り野心が無いのだろうな」
「仰る通りかと」
「なら、国が潤うなら協力してやれば良いか、という話になりそうだなと思っておるわけだ。娘の事は正直分からん。強制できないからな。これもヒロシ次第だ」
「今はまだこのままで良いのではないですか? ワシからはヒロシにどうこう言うつもりはありませんが」
「あいつは何なのだ? それを知る事は神への不敬に当たるのか?」
「どうですかな? ただヒロシが何者でもワシには一人のかわいい息子であると。それだけですな」
「お主は人間が出来ておるの。でも確かにそうか。ヒロシもこの世を生きる人間であることには変わりは無いか......」
数日後に控えたドルスカーナのダルタニアス王との会談。両国ともにヒロシに対する権限を持たない中、会談の内容について策を巡らす事すらできないのであった。
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