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ゴードン内務卿に促され、陛下は民衆の前へと足を運ぶ。
「この度、国家公共事業が大きな事故もなく予定を繰り上げて完成した事を大変喜ばしく感じておる。関係者の皆は本当によく頑張ってくれた」
陛下はバイパス工事の事を話し皆に労いの言葉を掛けてくれた。そして話はバルボア騒動の話となる。
「皆も心配していたバルボアの騒動も落ち着きを見せ、皆普段の生活を取り戻しておる。内容については先に触れた通りだ。だがバルボアの状態は決して良いとは言えぬ。そこでここまで城内で様々な意見を出し合い熟考を重ね新たな体制を考えた。それをこれより発表する」
ゴードン内務卿が仰々しく陛下へと書類を手渡す。
「まずバルボア騒動における責任について...アラン公爵並びに領主ハイリル及びその関係者一族全てを国家反逆罪として死罪とする」
すごいな、そう言う発表をここでするのか。まあ知らぬ人も多いだろうが国家が一瞬でも傾いた事件だからな。陛下としては事のケジメとして国民に伝える必要はあるか。これは王族だろうが国家に仇成すものは容赦しないという陛下の覚悟でもある。
「前任に代わりバルボアは今後、アルガス領主、及び伯爵であるアルバレス・ローランドがその任を受ける。彼は今後バルボアの領主としてその地を復興していく使命を与えた」
おお、ローランドさんバルボアへ引越しか。あの地を持ち直すのには苦労しそうだが、ローランドさんは中々切れる人なので上手くやるかもな。
「そして、アルバレス・ローランドはこれまでのアルガスの発展に尽力したことを高く評価し、その地位を侯爵へと上げる事にする」
おお、ローランドさん侯爵になるのか。バルボア行きが嫌でゴネたんじゃないのか? 上手く陛下に釣られたやもしれんな。政治って恐ろしい。
「そして新たにアルガスの領主にこれまでアルガスの発展を支え、またその慧眼で様々な事業を興したゾイド・ロングフォードを新たな領主として認め、その地位を伯爵とする」
おお、おお? おおおおおお?! なんだと? じいさん伯爵になるのか? すげえな。するとどうなるんだ? じいさんは今のローランドに引越しか? 俺は隣にいるじいさんに聞こうとしてやめた。
じいさんは口を開けて固まっていた。初めてだなこんな顔見るのは。
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式典が終わり現在男爵家へと移動を始めている。サティとソニアはアンジェに引っ張られて違う馬車に押し込まれていた。まだ話してないがアンジェも元気そうで良かったよ。そして俺はじいさんと先ほどの件について話をしている。
「えーと、伯爵おめでとう?」
「やられたわい。以前それならばやりようがあるとかなんとか言ってたのはこの事だな。上手くバルボア騒動に乗っかって自然にやられたわ」
「どういうこと?」
「まあ、つまりだ。お前が伯爵家の跡取りとなったという事だ」
「え? ああ、そう言う事に...なるのか?」
「陛下はお前に直接爵位は与えんだろう。アザベル様の神託があるからな。だがお前がソニアとの結婚を考えていると聞いた時に閃いたんじゃろう」
「なにを?」
「親の爵位を子は継げるという事じゃ」
「ああ、でも俺は政治的なことはなぁ」
「陛下もそこは履き違えんだろう。政治的な制約を課すことは神託によって禁止されておる。だから陛下もお前に政治面に介入させるようなな事は決してせぬだろう。」
「じゃあ、じいさんの実力じゃないか。喜ばないと」
「それはそれでありがたい話なんだがな。恐らくだがもう一つの理由としてアンジェリーナ様の降嫁のためじゃないかのう」
「意味が分からないけど」
「お前は金持ちだが商人だ。国王のメダルは持っているがあくまで商人にすぎない。そこにアンジェリーナ様を嫁がせるわけにはいかんのだろう。いくら陛下が認めたとしても世間の目というものがある。だが娘の願いも聞いてやりたい。しかし晴れて男爵家に入ったは良いが男爵家では釣り合わぬ」
「確かに商人だけどね」
「ではどうするか? 親の爵位をあげれば良いのだ。お前は自動的に伯爵家の御曹司となり世間から認知される。降嫁させるには十分な地位だ。お前が爵位を継がない場合、つまりロイに直接爵位を譲った場合には、今度は公爵の道が開かれる訳だ」
「でもそこに俺の意見は入ってないぞ。アンジェと結婚するかなんて分かんないよ」
「ああ、本人の意思に関係なく進める事はできぬ。じゃが周りを固める事は禁じられておらぬ。陛下は一言もお前自身に爵位の話をしたことは無い。政治的な意味合いを含め圧力をかけたこともない」
「確かにそうだよ」
「しかしお前が男爵家に自ら入ったことで上手くそれを生かす方法を思いついたという事じゃ。これは諸国に対して絶対的な優位を持っている事になる。お前がリンクルアデルの有力者であるという事を暗にアピールできるのだからな」
「おそろしい」
「神託があろうとなかろうと無理強いをするような陛下ではないから安心すれば良い。ただその可能性は頭に入れておくのだ」
「わかったよ。でもどうするんだ? ローランドに引越しになるのか?」
「引越しはどうかのう。陛下と相談じゃな」
「ともあれまずは伯爵就任おめでとう。嬉しいよ」
「ハッハッハ、ありがとうよ。少しでもお前の力になれると良いが」
「そんなもん、昔っから十分過ぎるほどなってるよ。受けた恩はまだ全然返しきれてないよ」
「そんな事はもう気にするな」
「こればっかりは譲れないね」
そんな話をしながら馬車は男爵家へと向かう。
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